現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
質問です!皆さんは、朝型ですか?夜型ですか?このような活動時間に対する好みは、職業や年齢によっても変化してくると思います。人の睡眠に対する体質的な好みは、クロノタイプと呼ばれており、遺伝的に決まっているそうです。ですから、遺伝的な要因や日々の生活という環境要因によって、睡眠週間は形作られていると言えるでしょう。
今回は、皆さんの活動時間が与える、腸内細菌叢への影響について論じた研究をご紹介します。ご自身の生活習慣と照らし合わせながら楽しんで頂けると嬉しいです!
この内容は、ポッドキャストでも配信しております。
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ここでは、早起きと夜ふかしを、正反対のクロノタイプとしています。近年の研究から、夜ふかしの人は、気分障害、肥満、糖尿病、その他の慢性疾患を発症しやすいことが報告されています。
肥満や糖尿病は、腸内細菌叢とも深く関係していることから、クロノタイプと腸内細菌叢の間の関係を調査するというのは、自然な発想かもしれません。
イスラエルのハイファ大学によって行われたこの研究では、133名の参加者に対して調査を行いました。その中で、仕事などなにもない日に目覚まし時計を使用しない、薬なども服用していない参加者91名(男性41名/女性50名)を選別し、今回の実験に参加してもらいます。
これらの参加者のクロノタイプは、入眠時刻と起床時刻の中央時刻(Mid-sleep time)を測定することで評価しました。ここでは、中央時刻から早寝型、中間型、夜ふかし型と呼びます。
全体に共通して、Bacteroides、Faecalibacterium、Parabacteroides、Eubacteriumが優占的に検出されました。腸内細菌の多様性指標は、クロノタイプ間で有意な違いは確認されませんでした。
続いて、腸内細菌の相対存在量をクロノタイプ間で比較したところ、早寝型と夜ふかし型の間でAlistipesおよびLachnospira属が有意に異なっていました。Alistipes putredinisは、中間型および夜ふかし型の両クロノタイプと比較して、早起き型クロノタイプでより多く見られ、一方Lachnospira pectinoschizaは、早寝型よりも夜ふかし型でより多く確認されました。
続いて、腸内細菌の違いを決めている要因を調べています。ここでは、参加者の食物摂取量として13種類の食品(例:牛肉、鶏肉、菓子、果物、野菜)および飲料(水、砂糖入り飲料、ダイエット飲料)の週間消費頻度を調査しました。この食事テータと、クロノタイプの関係を調べていきます。
分析の結果、食物繊維/果物/野菜の多い食事を摂取している参加者と、単純糖質/高タンパク質の食事をしている参加者の間に大きな食事の差があることが明らかになりました。これは、健康意識や好みと食事の関係を示していそうです。クロノタイプとの関係を調査すると、早寝型のクロノタイプは健康的な食事、つまり野菜や果物の消費量が多い傾向にあったそうです。
続いて、食習慣と細菌の違いを分析していきます。先程あげた、野菜や果物の消費量について、野菜や果物を10回以上摂取している人とそうでない人に分けました。結果、1週間に10個以上の野菜や果物を摂取している参加者では、Ruminococcaceaeがより多く存在することが確認されました。
先行研究では、例えば体重、排便時刻などの多くの生理的な性質や、アルコール摂取、食事のタイミングなどライフスタイルの考慮事項がクロノタイプと関連していることから、クロノタイプと腸内細菌が関係しているという可能性は十分にあります。
この研究の限界点は、サンプルの数が少ないこと、因果関係については特定されなかったことにあります。
因果関係については、近年腸内細菌の代謝から生じる短鎖脂肪酸がネズミおよびヒトにおける睡眠調節に関与していると報告されており、短鎖脂肪酸によって仲介される微生物叢およびクロノタイプの関係の可能性 が示されているためです。
この論文では、次のことが明らかとなりました。
クロノタイプと腸内細菌叢は関係することが示唆された
早寝型の人にはAlistipes属菌が、遅寝型の人にはLachnospira属菌が多くみられた。
クロノタイプによって食事の習慣がことなることが示された。
クロノタイプー腸内細菌ー疾患の関係にこそ踏み込まれてはいませんが、クロノタイプー腸内細菌、腸内細菌ー疾患の関係が分かった今、生活リズムと病気の関係が腸内細菌を介して分かる日が来るかもしれません。
この研究で言えることは、早寝型の人は健康的な食事をとっている傾向にあり、腸内細菌もそれに応じて違う、ということです。早寝だから、健康的な食事をとっているのか、健康的な食事をとっているから早寝なのか、はたまた健康意識が高いから早寝であり健康的な食事をとっているのか。
私達にはとる習慣を、意思の力によって改善する力があります。となると、生活リズムを正すことは、1つの腸活であると言えるでしょう。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした!
https://faseb.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1096/fj.202100857RR
Carasso, S, Fishman, B, Lask, LS, Shochat, T, Geva-Zatorsky, N, Tauber, E. Metagenomic analysis reveals the signature of gut microbiota associated with human chronotypes. FASEB J. 2021; 35:e22011. doi:10.1096/fj.202100857RR