#37 腸内細菌が肥満に関連する?食欲を抑制するレプチンについて。

更新日: 2022/09/28

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

今回は、食欲の秋ということで、食欲と腸内細菌の関係を調べた研究をご紹介します。

詳しくは、腸内環境が食欲関連ホルモンであるレプチンの感受性と肥満について関係することを示した論文です。食欲と聞くと、空腹状態が連想されるかもしれません。しかし、本研究では腸内細菌の存在が、ホルモン分泌の中枢に影響を与え、結果として食欲に影響を与えることを示したのです。まずは、レプチンの基本知識から、お話を始めます!

今回の内容はポッドキャストでもお楽しみ頂けます!

https://open.spotify.com/episode/2hPOmD3vokZcpZwwXZrW4g

レプチンというホルモンについて。

レプチンは、脂肪細胞によって分泌されるホルモンの一種で、食欲調節やエネルギー代謝に深く関係することで知られています¹⁾。エネルギー代謝へ関係するのは、インスリン感受性を高めることによって血糖の細胞への取り込みを促進するためです。

レプチンはペプチドホルモンに分類され、視床下部に存在するレプチン受容体へレプチンが結合することによってシグナル伝達が行われます¹⁾。特に、レプチンは食欲抑制性のホルモンであることが知られています。

ここまでの話を整理すると、①食欲はホルモンによって制御されており、レプチンがその一端を担っている、②視床下部に存在するレプチン受容体に対してレプチンが結合することで、食欲調節が行われるということです。

ここまで見ると、腸内細菌の出る幕は無かったように思います。しかし、レプチンの感受性に対して、腸内細菌が影響を与えることを今回の研究では明らかにしているのです。

腸内細菌叢がレプチン感性を低下させる。

先行研究では、無菌マウスについて従来飼育のマウスと比較して脂肪率が低く、食事に起因する肥満にたいして抵抗性があることが明らかとなっています。また、無菌マウスについては、食事摂取量が増えているにも関わらず脂肪率が低下していることを示した研究もあります。

このことから、ホルモン分泌や中枢神経の受容体などに腸内細菌が関連することの示唆が得られますが、詳しいことは分かっていませんでした。

本実験では、無菌マウスおよび従来飼育マウスを検証に使用します。両マウスに対して、レプチンまたはビヒクル(対照群)を1日2回、3日間投与することで影響を測定します。ここでは、腸内細菌の有無によるレプチンへの影響を確認するので、腸内細菌の系統組成解析などは行っていませんでした。

視床下部や脳幹組織のRNA-seq解析を通して、遺伝子発現量の解析も行っています。

グルカゴン様ペプチドとBdnfについて

まずは、グルカゴン様ペプチドであるGLP-1についての結果です。グルカゴンはインスリン分泌を促進するホルモンの一種です。無菌マウスと比較して、従来飼育のマウスでは、肥満抑制神経ペプチドGLP-1をコードするGcgの脳幹のおけるmRNAレベルが無菌マウスに比べて54%減少していることが明らかとなりました。

脳由来神経栄養因子(Bdnf)は、神経成長因子の一つであり、エネルギー利用に重要であることが分かっています。従来飼育マウスでは、視床下部のBdnfのmRNAレベルが無菌マウスと比較して23%減少していることが明らかとなりました。また、Bdnfの受容体に関する遺伝子発現量も、同様に減少しました。この結果は、若いマウスに特徴的でした。

視床下部弓状核に作用する神経ペプチド

従来飼育マウスにおいて、肥満促進関連ペプチドであるNpyが34%、Argpの発現量が35%減少していることが示されました。一方、肥満抑制性の神経ペプチドであるPomcについては46%、Cartについては19%増加していることが示されました。この結果は、若いマウスに特徴的でした。

レプチンについて

血中のレプチン濃度は、従来飼育マウスにおいて高い結果となりました。 また、レプチンに対する応答を従来飼育マウスと無菌マウスで比較した結果、従来飼育マウスにおいては有意差のない体重減少、無菌マウスでは顕著な体重減少が確認されました。これは、従来飼育マウスにおいてレプチン応答性が低下していることを示唆しています。

さらに、レプチンのシグナル伝達を抑制する経路についての比較をしました。すると、視床下部のサイトカインシグナル伝達サプレッサーSocs3 mRNAのレベルが無菌マウスに比べて33%増加することが示されました。

腸内細菌叢とホルモン

今回の研究では、食欲抑制性のホルモンであるレプチンへの応答性が、腸内細菌叢の存在により低下することが示唆されました。

腸内細菌が宿主の内分泌系に影響を与えるとなると、体質とは切っても切り離せない存在であることを示唆しています。 あなたがご飯を食べたがっているのは、もしかすると腸内細菌が食べたがっているからかもしれませんよ?

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

https://doi.org/10.1210/en.2012-2151

Erik Schéle, Louise Grahnemo, Fredrik Anesten, Anna Hallén, Fredrik Bäckhed, John-Olov Jansson, The Gut Microbiota Reduces Leptin Sensitivity and the Expression of the Obesity-Suppressing Neuropeptides Proglucagon (Gcg) and Brain-Derived Neurotrophic Factor (Bdnf) in the Central Nervous System, Endocrinology, Volume 154, Issue 10, 1 October 2013, Pages 3643–3651.

その他補助的な文献)

1) レプチンについて
武城 英明 (2001), レプチン受容体の発現調節, 肥満研究, 7(3)

http://www.jasso.or.jp/data/topic/topics7_31.pdf

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