#190 腸内細菌とヒトのムチンを介したやりとり。京都大学の研究チームらが解明!

更新日: 2023/03/07

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毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、腸内細菌とヒトのムチンを介したコミュニケーションについて、新しい発表が2023年3月2日に行われたので共有します!研究は、京都大学の加藤紀彦先生らの報告によるもので、乳酸菌の一種がムチンの分解について重要であることが見いだされています。

今週のテーマはニュースとしながら、結局いつもの研究紹介になってしまいました。とは言いつつも、研究成果は最先端の知見なので、皆様に直ぐ届けたいと思ったのです…!

本記事の音声配信は、下のプレイヤーからお楽しみいただけます!

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ムチンを介した物質循環

まずは、ムチンのお話から始めます。ムチンは、ヒトの腸管上皮細胞を覆う粘液に含まれる糖タンパク質の一種で、粘液の粘性を高める物質です。ムチンを含んだ粘液は、腸管バリアとして機能することで、腸内細菌や体外の異物が体内に入らないようにしており、ヒトの恒常性維持の観点から重要です。

近年になって、腸管バリア以外のムチンの役割が盛んに研究されています。それは、腸内細菌の栄養としてのムチンです。ムチンは、腸内細菌によって利用されることで、短鎖脂肪酸に代謝されることが知られています。しかし、この分野の研究は始まったばかりで、どの腸内細菌がどのようにムチンを利用しているのか、現在知見が蓄積されています。

今回ご紹介するのは、A bacterial sulfoglycosidase highlights mucin O-glycan breakdown in the gut ecosystem(細菌由来スルフォグリコシダーゼの解析から明らかになった腸管におけるムチン糖鎖分解メカニズム)という研究です1) (訳はプレスリリースを引用しました2))。

硫酸化されたムチンとBifidum菌

今回の主役は、硫酸化されたムチンとBidifobacterium bifidum菌です。概要としては、Bidifobacterium bifidum菌の持つ酵素であるスルフォグルコシダーゼの一部であるセルロース結合モジュールが、硫酸化されたムチンを認識して分解し、分解産物が同種や異種の細菌によって資化されるという内容です。

Bidifobacterium bifidum菌については、以前ビオフェルミン製薬のエピソードでお話しましたが、この細菌の服用が蠕動運動を促進し便秘を改善するという報告でした。つまり、プロバイオティクスとして注目されるビフィダム菌には、ムチンを分解することで他の腸内細菌を栄養する効果が示されたのです。

一対多の関係

今回の研究で重要なポイントの一つに、細菌種間の物質循環があります。これを、クロスフィーディングと呼びますが、ムチンを起点とした栄養循環によって、たとえ1種類の腸内細菌が増えただけでも、腸内細菌叢全体に影響を及ぼすことが考えられるのです。

"腸内環境を整える"という言葉が、より厳密に定義できる日も近いかもしれませんね。以上、腸内細菌とヒトの関係が、ムチンを介して一歩深く分かる様になった研究についてのご紹介でした。

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

1) Katoh, Toshihiko et al. “A bacterial sulfoglycosidase highlights mucin O-glycan breakdown in the gut ecosystem.” Nature chemical biology, 10.1038/s41589-023-01272-y. 2 Mar. 2023, doi:10.1038/s41589-023-01272-y

2) 消化管ムチンを食べるビフィズス菌―ビフィズス菌が有する硫酸化ムチン分解酵素の発見―、京都大学、Access: 20230306, URL: https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-03-03-0

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