毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードから2週間に渡って「病原性とは何か?」をテーマにお話するエピソードシリーズ、病原性集中講義を開講します!病原性と聞くと、食中毒の原因菌となる細菌や肺炎など、ヒトと微生物の対立関係が想起されます。ヒトには免疫系が備わっていることから、日常生活では微生物の存在や対立関係を意識せずとも生活できています。しかし、この生活はヒトと細菌の絶妙な関係性の上に成り立っています。例えば、免疫機能を担う細胞の先天的な不全があれば、微生物を意識しない生活をすることは出来ません。
地球で生きる上では、微生物を始めとする異物との接触を避けて通ることができません。異物との接触が避けられない環境の中で、うまく折り合いをつけて生きていくために、生物の進化の過程で獲得されたのが免疫機能なのです。そして、細菌を始めとする微生物やウイルスに免疫機能を突破された結果、病原性が観察されます。
病原性集中講義は、単に病原性について理解することが目的ではありません。病原性を軸に、生物が同じ空間を共有して生きている現実を再認識することが目的です。これは、腸内環境に細菌を飼う私達が生きているそのことを再認識することにほかなりません。
やや壮大な入りをしましたが、病原性を理解する為には、①ヒト、②ヒト以外の仕組みをそれぞれ理解する必要があります。本集中講義の前半には、①ヒトの免疫系について基礎的なところから専門的なところまで、ゆっくりとお話していきます。中盤には、②どのようにして細菌がヒトに対して病原性を発現するのか、その仕組を見ていきます。後半には、腸内細菌の病原性に関する研究事例をお話する予定です。
(実は、先週の細菌学会のエピソードは、病原性集中講義のための伏線でした)
今回のエピソードでは、まず病原性を定義します。
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病原性の定義を複数の出典から引用します。まずは遺伝子組換え技術等専門委員会の「二種省令における「病原性」等の考え方について」より引用します1)。
したがって、病原性とは質的性質と量的性質を併せ持った概念であることが分かります。病気を起こす性質が有るか無いか、有る場合は高いか低いかといった際に、"病原性"という言葉を使用できます。
病原性という専門用語の使い方については、以前から議論がされています。Journal of Invertebrate Pathologyの"Definitions of pathogenicity and virulence in invertebrate pathology"では、病原性について次のようにまとめられています。
ここでは、病原性と似た概念にビルレンスが登場しました。ビルレンスは毒力とも訳される単語です。遺伝子組換え技術等専門委員会の病原性の定義は広義であり、本論文の病原性の定義は狭義であると言えます。
本集中講義のタイトルは、広義の病原性という認識です。
腸内細菌相談室では、病気を引き起こす能力があるとき病原性があると表現し、病原性が高い=病気を引き起こす能力が高い場合にはビルレンスが高いと表現します。
ビルレンスに関連する概念として、ビルレンスファクター(virulence factors)が存在します。日本語に訳してしまうと、病原性因子や病原因子となってしまうので、ビルレンスと病原性の混同を避けるためにVFと略記します。
VFの定義を"Encyclopedia of Microbiology" より引用します3)。
したがって、ビルレンスファクターは病原性を発現する上で必要な分子です。病原性集中講義の後半で登場するリポ多糖や志賀毒素は、ビルレンスファクターです。
今回は、病原性やビルレンスなど、これからの病原性集中講義に進む上で必要な概念についてお話しました。次回からは、ヒトの免疫機能を紐解くエピソードをお届けします。
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今日も、お疲れさまでした。また次回、お会いしましょう!
1) 二種省令における「病原性」等の考え方について, 科学技術・学術審議会, 生命倫理・安全部会, 遺伝子組換え技術等専門委員会, 平成16年12月7日.
2) Shapiro-Ilan, David I et al. “Definitions of pathogenicity and virulence in invertebrate pathology.” Journal of invertebrate pathology vol. 88,1 (2005): 1-7. doi:10.1016/j.jip.2004.10.003
3) S.T. Abedon et al., Bacteriophage Ecology, Phage-encoded virulence factors, Encyclopedia of Microbiology (Third Edition), p55, 2009.