現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
本日のテーマは、大腸がん関連細菌として知られるヌクレアタム菌と、腸内の免疫応答に関するお話をします。ヌクレアタム菌は、腫瘍形成を促進することや、大腸がん腫瘍に対するT細胞が介在する免疫応答を阻害することが報告されています。しかし、ヌクレアタム菌とT細胞の詳細な関係については、明らかになっていません。そんな2者の関係を明らかにするのが、この研究のモチベーションです。
この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます。
免疫応答に関連する研究では、蛍光分析手法が多用されます。というのも、免疫細胞の表面にはその細胞に固有の構造があることから、この構造に対して蛍光分子を付加することによって、免疫細胞ごとに多様な分析が可能になるためです。
今回用いる分析手法は、多重免疫蛍光分析(Multiplex immunofluorescence analyses)です。大腸がんの組織サンプルについて、蛍光染色を行います。染色された細胞の認識には、機械学習による手法を使っています。
メモリーT細胞は、病原体の再感染などに備えて存在する免疫細胞で、免疫の記憶を担います。免疫記憶というと、B細胞に関連する抗体の生産などが有名ですが、T細胞も関係しています。
メモリーT細胞にはステムセルメモリーT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞が存在します。
解析の結果、ヌクレアタム菌の存在料と腫瘍間質メモリーT細胞との逆相関が明らかとなった。これは、マイクロサテライト不安定性やエクソーム全体の腫瘍変異量とは無関係でした。また、ヌクレアタム菌は腫瘍上皮T細胞量やマクロファージとの関連はありませんでした。
ここでは、ヌクレアタム菌の存在量とメモリーT細胞の存在量の負の相関関係が明らかとなりました。ヌクレアタム菌がメモリーT細胞を減らしているのか、メモリーT細胞がヌクレアタム菌を減らしているのか、両者の間に交絡因子が存在するのかは依然として不明です。
しかし、仮にヌクレアタム菌の何らかの作用によってメモリーT細胞の量が減っているのであれば、ヌクレアタム菌を含む腸内細菌への免疫寛容に影響を与えることが示唆されます。
免疫応答は複雑で多様な生化学反応です。今後もヌクレアタム菌を始めとした腸内細菌の免疫応答との関連が明らかとなるでしょう。最新の研究結果に要注目です。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
Borowsky J, Haruki K, Lau MC, Dias Costa A, Väyrynen JP, Ugai T, Arima K, da Silva A, Felt KD, Zhao M, Gurjao C, Twombly TS, Fujiyoshi K, Väyrynen SA, Hamada T, Mima K, Bullman S, Harrison TA, Phipps AI, Peters U, Ng K, Meyerhardt JA, Song M, Giovannucci EL, Wu K, Zhang X, Freeman GJ, Huttenhower C, Garrett WS, Chan AT, Leggett BA, Whitehall VLJ, Walker N, Brown I, Bettington M, Nishihara R, Fuchs CS, Lennerz JK, Giannakis M, Nowak JA, Ogino S. Association of Fusobacterium nucleatum with Specific T-cell Subsets in the Colorectal Carcinoma Microenvironment. Clin Cancer Res. 2021 May 15;27(10):2816-2826. doi: 10.1158/1078-0432.CCR-20-4009. Epub 2021 Feb 25. PMID: 33632927; PMCID: PMC8127352.