#61 腸内細菌と免疫応答。NF-κBによる転写調節。 Part1: 腸内環境とNF-kB

更新日: 2022/10/22

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

本日と次回にかけて、腸内環境・腸内細菌と免疫応答の深堀りシリーズとして、NF-κBによる転写調節について取り扱っていきます!今回は、NF-kBを考えることが腸内環境において何故重要か、NF-kBとは何者か、どのようにして転写調節をしているのかお話していきます。

NF-κBという言葉に馴染みのない方がほとんどだと思います。しかし、このNF-κBは、腫瘍形成を考える上で重要で、腸内環境と免疫応答の関係を知りたいヒトにとっては必ず知っておいてほしい内容になります。

では、早速本編に参りましょう!

この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます。

腸内環境におけるNF-κBの重要性

まずは、腸内細菌相談室がNF-κBを何故扱うのかについてのお話です。NF-κBとは、タンパク質複合体の一種です。このタンパク質複合体には、DNAからmRNAに情報が写し取られる転写を調節する機能があります。タンパク質の生産の上流過程に関与するのです。

腸内環境における炎症でも、NF-κBは重要な役割を果たします。というのも、モデルマウスに対する大腸がん関連細菌であるFusobacterium nucleatum への感染によって、腸内にてNF-κBの活性化と、それに伴う炎症や発がんが報告されているからです。

腸内環境における炎症や発がんに関連があるとされるNF-kBは、腸内細菌によって活性化される。つまり、腸内細菌の制御によって炎症や発がんをコントロールできるかもしれない。そんなことを示唆するのが、NF-kBなのです。

NF-κBとは何者か?

前述の通り、NF-κBとはタンパク質複合体の一種で、DNAに結合することで転写を制御する転写因子としての役割があります。正式名称は、とっても長く、Nuclear Factor kappa light chain enhancer of activated B cellsです。

命名の経緯は発見に由来しており、リンパ球の一種であるB細胞が産生する免疫グロブリンの部分構造=軽鎖の転写を促進するエンハンサー領域に結合することから、この名前となりました。現在は、B細胞のみならず、ほとんど全ての細胞においてNF-κBを確認できることが分かっています。

構造として重要なのは、大きく分けて3つの部分です。以下に列挙します。

  1. Rel Homology Domain (RHD):Relホモロジードメイン。DNAに結合するために必要!N末端。

  2. Transcriptional Activation Domain (TAD):転写活性化ドメイン。転写を活性化する。C末端。

  3. Nuclear Localization Signal/Sequence (NLS):核局在シグナル/配列。細胞質から核内へ移動するために必要。

この部分構造をもつタンパク質が、NF-κBなのです。現在知られているのは5種類で、RelA、RelB、c-RelはRHD、TAD、NLS全てを持っているのに対して、p50とp52は活性化ドメインであるTADを持ちません。p50やp52は通常転写抑制性を示しますが、TADをもつRelA、RelB、c-Relと結合することで、転写活性を示します。では、具体的にはどのようにして転写活性を発現しているのでしょうか?

どのようにして転写調節をしているのか。

でも、このままでは疑問が残ります。NF-kBがぷかぷか細胞質に存在する場合、常に転写が促進されてしまうのでしょうか?

実は、細胞質に存在するNF-kBは、IκBというタンパク質と結合して存在します。この状態では、核内に入ることも、エンハンサー領域に結合することもできません。IκBには様々なタンパク質が含まれますが、そこにはp50やp52の前駆体であるp100やp105も含まれます。

IκBは、どのようにしてNF-κBから解離するのでしょうか?それは、Toll Like Receptor (TLR)、Nod Like Receptor (NLR)、腫瘍壊死因子受容体へのリガンドの結合がトリガーとなります。F. Nucleatumの例も、TLRを介したNF-κBの活性化です。

これらの受容体にリガンド(配位子)が結合することで、細胞内にシグナルが伝えられ、IκBのリン酸化が起こります。これに伴ってIκBとNF-κBの結合は消滅し、IκBは分解されます。

NF-κBのもつNLSを認識することで、核膜の中に入り、特定の領域にNF-κBが結合することで転写が促進されるのです。

おわりに

ここまでに、NF-κBが何者なのか、どのように作用するのかといったメカニズムを述べてきました。次回は、NF-κBの活性化がどのようにしてがんの進行に関係するのか、考えていきます。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

NF-κBについてよくまとまっているサイトPart1

NF-κB の活性化とシグナル伝達, abcam, access: 2022/10/17, https://www.abcam.co.jp/research-areas/overview-of-nf-b-signaling

https://www.abcam.co.jp/research-areas/overview-of-nf-b-signaling

NF-κBについてよくまとまっているサイトPart2

【いまさら聞けないがんの基礎 6】NF-kB、 STAT3、HIF-1って知っていますか?, Thermo Fisher Scientific, Access: 2022/10/17, https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/cancer6/

https://www.thermofisher.com/blog/learning-at-the-bench/cancer6/

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