現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
腸内環境を理解するために必要な生物学の基礎知識をお話する本シリーズも、第4回目のエピソードに突入しました。前回までに、DNA、RNA、タンパク質へと遺伝情報が流れていくセントラル・ドグマのお話をしてきました。今回からは、少し毛色が変わってき、細胞へとお話をシフトしていきます。DNA、RNA、タンパク質はいずれも分子レベルのお話でしたから、話の規模が少し大きくなっていくといった感じです。メートル単位でいえば、nmからμmくらいの変化になってきます。
それでは、タンパク質から細胞へと組み上がっていくお話をしていきます。
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!
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まずは、前回のエピソードの復習からしていきましょう。タンパク質とはどのような物質でしょうか?タンパク質は、アミノ酸という分子の構造単位が連結することでできた、高分子=巨大分子です。アミノ酸としては様々な性質をもつ分子が知られていることから、それらを基に作られるタンパク質もまた、多様な構造や機能を示すのでした。
アミノ酸に関する遺伝情報は、mRNAのトリプレットからなるコドンに記されており、これをリボソームが翻訳することによってアミノ酸が繋がれていきます。
では、実際にタンパク質はどのような機能を有するのでしょうか。ここでは、タンパク質の機能を3つに大別します。1つ目は構造を形作る、2つ目は代謝=生体内で起こる化学反応を担う、3つ目は物質の移動を担うという機能です。順を追って見ていきましょう!
まずは、構造体としてのタンパク質について。タンパク質は、生き物の体を支えたり防御する上で重要な物質です。
例えば、コラーゲンは人体のタンパク質の30%を占めるとされるタンパク質で、構造の保持には重要な役割を果たします。例えば、皮膚や軟骨の成分であり、繊維状のタンパク質であることが知られています1*。
コラーゲンのアミノ酸組成は明確には定まりませんが、3アミノ酸ごとにグリシンを含むというのがコラーゲンの条件であるとされています2*。ちなみに、コラーゲンとゼラチンのアミノ酸組成は同じであり唯一三次元構造が違うだけなので1*、加熱したりして変性したコラーゲンは、もはやゼラチンと栄養素として等価です。
他にも、ケラチンは細胞の構造保持には必須のタンパク質です。また、髪の毛や爪の主成分でもあります。ケラチンのアミノ酸組成としては、システインと呼ばれる硫黄を含むアミノ酸が特徴的です。システインは、別のシステインと強固な分子結合であるジスルフィド結合を形成します。この結合により、ケラチン間でのネットワークが形成され、強固な構造保持能力が生まれます。ちなみに、パーマを当てるときには、このジスルフィド結合を一度還元処理によって壊し、髪の毛の形を付けた上で再度ジスルフィド結合を酸化処理により作ることで、髪の毛に型が付くといった原理です。
他にも、微小管を構成するタンパク質のチューブリン、筋肉を構成するアクチン、細胞間をつなぎとめるオクルディンなど、沢山の構造に関わるタンパク質が存在します。
続いての視点は、代謝=体の中で起こる化学反応とタンパク質です。タンパク質と代謝と聞いて、有名なのが酵素でしょう。酵素と聞くと何を思い描きますか?消化酵素や健康ドリンクでしょうか?何を思い描いたにせよ、大体正解でしょう。
酵素とは、普通は進行しないような、あるいは進行しづらい代謝を促進するようなタンパク質です。つまり、酵素があることで、体の中の代謝は円滑に進行しています。自身は化学反応の前後で変化しないが、反応の進行に関与する物質のことを触媒と呼びますが、タンパク質で形作られた触媒を酵素と呼ぶのです。
酵素の例示をしようと思ったのですが、なかなか多様で膨大な数が存在するので、リパーゼ、カタラーゼ、アミラーゼ、キモトリプシンなどにとどめておきます。
細胞内での物流に関係するタンパク質も存在します。これらはモータータンパク質と呼ばれており、ATPと呼ばれる分子のエネルギーを消費することで運動します。
例えば、細菌が運動するために重要な鞭毛もモータータンパク質によって動いています。わたしたちが筋肉を随意・不随意で操作することができるのは、ミオシンと呼ばれる繊維状タンパク質がモータータンパク質の働きによってアクチンタンパク質の上を滑走できることに由来します。
キネシンと呼ばれるモータータンパク質は、微小管の上を歩くように移動するタンパク質で、とっても可愛らしいです。
このように、細胞内の物流は、タンパク質により活性化されています。
ここまでに、タンパク質の機能を構造、反応、運動の観点からお話してきました。ではここから、細胞の成り立ちにお話を進めていきます。
細胞の基本的な機能は、膜構造によって外部とは異なる環境を内部に作り上げ、化学反応を促進し、内部環境の恒常性を一定に保つことにあります。
細胞の原始的な姿としては、膜構造をもった物質の集まりであると考えられています。これをコアソルセルベート*と呼んだりします。わたしたちの細胞を形作るのは細胞膜で、リン脂質と呼ばれるリンを含んだ物質が主成分です。リン脂質が連なり、リン脂質二重膜と呼ばれる二重膜構造を形成することで、外界との物質のやり取りは簡単には行えない様になっています。ちなみにリン脂質の合成にも複数の酵素が関連している点、細胞膜の成り立ちにはタンパク質が必須であると言えます。
*誤)コアソルベート → 正)コアセルベート
また、細胞が細胞としての構造を保つには、アクチンやチューブリンなどのタンパク質が重要です。
細胞膜には、膜タンパク質と呼ばれる細胞内外の物質交換を担うタンパク質が存在します。膜タンパク質が関所のように、細胞内外での栄養を始めとする物質のやり取りを行っているのです。このようにして、外界と細胞内の物質の組成は異なるものになります。
物質の組成が異なる細胞内外においては、起こりうる化学反応も変化してきます。この化学反応に拍車をかけるのが酵素です。
このようにして、タンパク質が協同することによって、わたしたちや腸内細菌の細胞は成り立っています。特に、真核生物の細胞内には、呼吸に必要なミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体など数多くの細胞内小器官が存在しており、高度な代謝が行われています。
ここまでに、細胞内での営みはタンパク質の機能が有機的に結びつきあって成り立っていることを見てきました。ですから、あるタンパク質の機能が生きる上で重要というよりもむしろ、全てが等しく重要であると言えます。これが、生物学を学ぶ上で幅広い知識を必要とするため、暗記科目になりがちな原因にも思えます。
複雑な代謝経路が存在することで、そこには冗長性が生じ、すなわち体の外からくる変化に対応できる柔軟性が宿っているとの見方もできます。以前もおはなししましたが、こんな複雑なシステムが、自然選択によって生じてきたというのは、とても神秘的な何かを感じます。
次回は、細胞が組み上がった先にある器官、腸についてのお話をしていきます。いよいよ、腸内細菌相談室らしいお話になってきますので、乞うご期待!
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
1* コラーゲン e-ヘルスネット、厚生労働省、Access: 2022/11/3.
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-011.html
2* 渡辺 和男, コラーゲンの構造と性質, 日本写真学会誌, 1998, 61 巻, 2 号, p. 72-76.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/photogrst1964/61/2/61_2_72/_article/-char/ja/