#144 概日リズムの乱れは腸内細菌叢の変化を介して肥満を促進する。

更新日: 2023/01/20

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、時計遺伝子の欠損やシフトワークによって概日リズムを乱されると、腸内細菌叢が変化し、結果として肥満につながることを示した研究についてお話します。前回のエピソードでは、時計遺伝子であるBmal1のノックアウトによって、バクテロイデスを含めた腸内細菌叢が変化し、マウスの性別によって影響が異なるというお話をしました。今回のエピソードでは、概日リズムの乱れに伴う腸内細菌叢の変化から一歩進んで、肥満への影響について評価した、2022年Altahaらの"Genetic and environmental circadian disruption induce weight gain through changes in the gut microbiome"という研究をご紹介します!

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

概日リズムの乱れた2種類のマウス

本研究では、2種類の概日リズムが乱れたマウスを使います。1種類目のマウスは、脳の視交叉上核にある時計遺伝子であるBmal1が欠損したマウスです。視交叉上核の時計遺伝子は、体の中枢時計として機能し、各臓器の時計遺伝子により制御される末梢時計の統制を行う重要な遺伝子です。もう1種類のマウスについては、シフトワークを想定して、通常のマウスとは異なる時間帯に光を照射し、本来の概日リズムとは異なる光刺激を与えたマウスを使用していきます。

マウス体内のエネルギー消費についてはNMRやカロリー計、食事摂取量や運動から評価していきます。また、腸管透過性についてはUssingチャンバーとよばれる装置により測定します。時計遺伝子の発現量については、腸管の組織を用いたqPCR、腸内細菌叢は糞便サンプルの16S rRNA遺伝子シーケンシングにより決定しています。

クロノディスラプションと肥満

今回のように、時計遺伝子のノックアウト、シフトワークを想定した光条件に変更することで、概日リズムが変化します。概日リズムが乱された状態を、クロノディスラプションと呼びます。なので、今回登場する2種類のマウスはクロノディスラプションのモデルマウスということになります。

実験の結果、双方のクロノディスラプションモデルマウスにおいて、腸管における時計遺伝子の同調性が乱され、腸内細菌叢の変動周期性が減少することが確認されました。腸内細菌叢の中でも、特に短鎖脂肪酸と脂質代謝に関連する細菌の系統が大きな影響を受けています。

時計遺伝子の欠損マウスについては、腸内細菌叢の周期性が失われたことに伴って、体重の増加やグルコース代謝の不全が確認されました。この傾向はシフトワークのマウスでも確認され、体重の増加が確認されました。

続いて、腸内細菌叢が存在しない無菌マウスに対してシフトワークを想定した環境で育てられたマウスの糞便を移植した結果、クロノディスラプションモデルマウスと同様に体重の増加が確認されています。さらに、糞便の移植によって時計制御遺伝子を始めとした時計遺伝子の発現量が変化していることも示され、これは腸内細菌叢の周期性と腸管における末梢時計が相互に関係することを示唆しています。

今回の研究では何を言いたかったのか

では最後に、この研究の要点をお伝えします。

時計遺伝子Bmal1の欠損マウスおよびシフトワークを想定した飼育環境で育てられた、概日リズムをみだされたモデルマウス=クロノディスラプションモデルマウスについて、腸内細菌叢と代謝の関係を調査しました。結果、概日リズムを乱されることで腸内細菌叢の変動周期性が減少し、体重が増加することが確認されました。また、シフトワークモデルマウスの糞便を無菌マウスに移した結果、無菌マウスの体重が増加するだけでなく、腸管における時計遺伝子の発現量が変化したことが確認されました。これは、腸管における概日リズムの制御と腸内細菌叢が相互に関係することを示唆しています。

いかがでしたか?腸内細菌叢と概日リズムは、実は相互に関係しているということを示した研究でした。ここからは想像の範囲ですが、朝型や夜型などのクロノタイプも、糞便移植によって変化させることができるかもしれませんね!

以上、概日リズムの乱れは腸内細菌叢の変化を介して肥満を促進するというお話でした!

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参考文献

Altaha B, Heddes M, Pilorz V, Niu Y, Gorbunova E, Gigl M, Kleigrewe K, Oster H, Haller D, Kiessling S. Genetic and environmental circadian disruption induce weight gain through changes in the gut microbiome. Mol Metab. 2022 Dec;66:101628. doi: 10.1016/j.molmet.2022.101628. Epub 2022 Nov 2. PMID: 36334897; PMCID: PMC9672454.

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