#107 食物繊維が腸内環境へ与える影響を論文に基づいて易しく解説。

更新日: 2022/12/07

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毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、食物繊維が腸内環境へ与える影響を論文に基づいて易しく解説していきます!食物繊維を食事に多く取り入れることは、健康に対して良い効果があるということは、腸活をやっているヒトであれば1度は耳にしたことのあるフレーズだと思います。では、食物繊維が腸内においてどのように代謝されて、私達に影響を与えているのか、説明できる方はどれくらいいるでしょうか。

これは個人の意見ですが、腸活を実践している方の1%程度だと室長個人は考えています。もちろん、毎日この腸内細菌相談室に立ち寄ってくれている皆様は、その1%に入っていると思います。腸内細菌や腸内環境に関する最先端の知識を持っている、数少ない人達です。腸内細菌や腸内環境について理解をすること自体が、多くの教養を必要とすることをいい添えておきます。だから、腸活で行っていることの正体を知ることそのものが難しいのです。

特に、食事と腸内環境の相互作用は複雑なので分かりづらいです。今回は、その相互作用についてできるだけ噛み砕いて解説することを心がけました。

話が脱線しましたが、今回お届けするのは、食物繊維と腸内環境、腸内細菌の相互作用についてのお話です。このお話は、Thomsonらの"Interactions between dietary fibre and the gut microbiota"というレビュー論文に基づいています。

では早速、食物繊維と腸内環境、腸内細菌が織りなす世界を覗いてみましょう!

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

大腸を巡る食物繊維の旅

ここからは、食物繊維視点で、腸内環境を巡ります。食物繊維と一緒に人の腸内を旅する感じで、お話を聞いて頂ければと思います。

最初に、食物繊維は食べ物に含まれています。食物繊維を含んだ食べ物を咀嚼し、嚥下し、食道を通って胃に入ります。胃から幽門をくぐったら、腸内環境のスタートです。ここまでに、食物繊維には数多くの化学的な攻撃が仕掛けられています。例えば、胃酸や消化酵素による食べ物の分解です。


しかし、私達が消化酵素を持っていなければ、食物繊維は消化を免れます。このようにして、腸内細菌の餌は口から腸へ着実に運ばれてくるのです。

小腸に入った食物繊維は、どのような役割を果たすのでしょうか?それは、食物繊維にその他の物質が捕捉されることにより、つまり捕まえられることにより、栄養吸収が抑えられ、大腸への栄養運搬が促進されます。食物繊維は、栄養を大腸の腸内細菌まで届けてくれるのです。また、食物繊維は小腸の浸透圧にも影響を与えます。

そして、栄養をキャッチした食物繊維は大腸へ入っていきます。大腸に入った食物繊維は、腸内細菌の分解、発酵過程を受けます。ここで、食物繊維から短鎖脂肪酸への変換が進行します。短鎖脂肪酸は、大腸内のpHを低下させ、腸内細菌の活動や病原性細菌の活動阻害を引き起こします。さらに、短鎖脂肪酸は粘膜の厚みを厚くし、同時に細胞間がしっかりとくっつきます。これと同時に、粘液層の厚みも増します。

食物繊維は、大腸にくっつく役割を果たし、これにより腸内細菌叢の住む場所も提供します。また、食物繊維が水を保水する効果、浸透圧調製能力によって、便が柔らかくなります。

大腸の出口付近になると、腸管内容物は水分の吸収を経て固形になります。これに伴い発酵プロセスは不活性化され始めます。最後に、消化、発酵を逃れた物質、固形の便が大腸を流れ出ていきます。

これが、腸内環境を旅する、食物繊維のストーリーです。

食物繊維によって増える腸内細菌の例

では、どのような食物繊維を取ると、どのような腸内細菌が増える傾向にあるのでしょうか?本研究では、9つの論文をまとめています。今回のエピソードでは、9つの中から健康な実験参加者について調査している3つの論文から得られた知見を取り上げます。

まずは、難分解性のデンプンであるレジスタントスターチです。1日当たり33グラムと結構多めのレジスタントスターチを3週間にわたって摂取したところ、ActinobacteriaやBacteroidetesが増加し、Firmicutesが減少しました。これは、肥満から痩せ型への腸内細菌叢変化にみられる傾向です。

続いて穀物の食物繊維として、大麦、玄米、そして大麦+玄米を1日当たり計60 g、4週間にわたって摂取したところ、Firmicutesが増えてBacteroidetesが減りました。これは、レジスタントスターチとは対照的な結果です。

最後に、朝食に含まれる全粒の麦を、1日当たり48 g、3週間に渡って摂取したところ、Bifibobacterium spp.、Lactobacillus spp.、細菌総量が増加することが分かりました。

このように、食物繊維によって腸内細菌叢に与える影響が異なることを、おわかり頂けたでしょうか?

結局何が良いたいのか?

では、腸内細菌相談室では恒例の、"この論文では結局何が言いたいのか"のコーナーです。この論文では、食物繊維を摂取することで栄養を腸内細菌まで届けることができるだけでなく、腸内細菌叢のすみかを提供してくれたり、短鎖脂肪酸の材料になってくれるということを言っています。

食物繊維が、腸活に無くてはならない存在であることをおわかり頂けたのではないでしょうか?

今回のエピソードでは、食物繊維が腸内環境へ与える影響について、易しく解説してみました!

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Thomson, C., Garcia, A., & Edwards, C. (2021). Interactions between dietary fibre and the gut microbiota. Proceedings of the Nutrition Society, 80(4), 398-408. doi:10.1017/S0029665121002834

https://www.cambridge.org/core/journals/proceedings-of-the-nutrition-society/article/interactions-between-dietary-fibre-and-the-gut-microbiota/0BEF28B809F38D02AC0B1D4E4990210C


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