#22 腸活って何だろう? 15の研究を眺めた答え。

更新日: 2022/09/13

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

本日は、「腸活って何だろう?」という素朴な疑問について、ここまでに紹介してきた15の研究を眺めながら答えます。

現在、健康食品やサプリメントには腸活という言葉が"やや濫用された形で"使われている感を感じています。これは、腸内環境腸内細菌という言葉が市民権を獲得し、健康との関連が意識されはじめている証拠であり、私個人としては喜ばしいことです。一方で、誤解を招くような広告や記述によってリテラシーが育たないことで、適正価格を超えた価格設定に気づかなかったり、腸活を試しているけど効果が実感できない、などの弊害が生じていまいます。

そこで、腸内細菌の研究を行い、論文を多く読んできた私なりに、腸活とは何か、という疑問に答えていきます。ここで参考にするのは、ここで過去にご紹介してきた15の論文です。

最後までごゆっくり、お楽しみ下さい!
また、この内容はPodcastでもお楽しみ頂けます。

https://open.spotify.com/episode/2wx2whvUcrhhS5PYvuijlJ

腸活の根底にある哲学

まずは、掴みどころの無い話から始めます。腸活の根底にある哲学です。結論からお話します。

  1. 腸内環境を改善する特効薬のようなものは存在しない。

  2. 時間がかかる。

  3. まずは生活習慣の見直しから。

  4. 腸内環境は人それぞれ。だからこそ同じことをやっても効果には個人差がある。

これらについて、順を追って説明します。

腸内環境を改善する特効薬のようなものは存在しない。


まずは1点目について。腸内環境は、私達の腸管と腸内細菌が形作っています。ここでは、腸内環境を左右する要因としての腸内細菌に着目します。

腸内には"地球上で最高密度とも称される"細菌数が存在しています。例えば、#10で紹介した論文では、便中に存在する細菌の密度として約10^11個/g (1000億個/g)を参考にしています。

https://note.com/chonai_saikin/n/n05e2b7e6fb25

つまり、便1gに世界人口の12.5倍の細菌が存在しているのです(世界人口を80億人として概算:2022/09/04現在)。便1gに地球が12.5と考えると、想像を絶する数であると言えるでしょう。

また、腸内細菌は、個人の食生活や体質に対して併せて組成が異なります。つまり、ある程度安定的に生存・増殖できる腸内細菌が選別された上で残っているわけです。

例えば、便と同等の密度の細菌を経口摂取したところで、①消化管を通過する過程である程度は死滅し、②腸管に到達したとしても定着抵抗性(#5)によって便中に通過・排出されてしまうのです。

https://note.com/chonai_saikin/n/n8c8e13e3b08b

特効薬については、現在も研究が進められています。例えば、座薬、糞便微生物移植(FMT)、シンバイオティクスなどです。

反対に、特効薬が存在することで新たなリスクも生じます。つまり、安定的に存在するはずの腸内細菌が、人間の介入を受けていとも簡単に変化することを意味するからです。

例えば、細菌同士ではコミュニケーションをとっており、例えば1つの栄養を2つの細菌が消費する場合は競合関係になりますし、ある細菌が別の細菌に対して抗菌ペプチドなどの攻撃を仕掛けることもあるのです。つまり、ある細菌が増えるということである細菌を減るということがあるのです。

抗生物質は腸内環境を大きく変化させますが、今後は抗生物質以外の投薬や菌の摂取についても考える必要があります。

時間がかかる。

腸内環境を変化させるのは、一定以上の時間がかかります。生活を極端に変化させたり、抗生物質を投与するような場合を除きますが。

今まで紹介した研究の文献では、20日以上(#6)、8週間(#9)、12週間(#12)、12週間(#20)の試験期間をとっています。一般的には、数週間-数ヶ月におよぶ実験が行われており、少なくともこの期間のトライをしなければ研究の結果を参考にすることはできません。

数ヶ月の期間で生活習慣を変えたり、菌を摂取することでしか腸内環境に変化を望むのが難しかったりするのです。

まずは生活習慣の見直しから。

前節のお話とも関係があるのですが、基本的に腸活は時間がかかります。ここで重要なのが、まずは生活週間を見直すことです。つまり、カラダに良さそうなものを摂取したとて、カラダのコンディションを整えなければ意味がありません。食習慣については多くの文献や記事にて議論されています。

しかし、異なる視点として睡眠、運動、日光を浴びるなど、色々な要素が腸内細菌や腸環境とは関係しています。

例えば、 #14では普段日光を浴びていない人については血中ビタミンD濃度が低下している関係で、腸内細菌叢の多様性が低下しているという研究を紹介しました。日光を浴びたりビタミンDの摂取が重要になります。

#3ではマウスについての睡眠と腸内細菌叢の関係をご紹介しました。睡眠障害マウスについて、特定の細菌の組成が増加・減少している他、腸管透過性が亢進し,血中 LPS 濃度が増加することも報告されています。LPSとはグラム陰性細菌と呼ばれる種類の細菌が産生する分子で、リポ多糖という脂肪と糖が結合した、細菌由来の分子で、炎症や毒性の発現に関係しています。

日頃の生活がいかに腸内細菌叢へ影響を与えているか、日光と睡眠の観点からご紹介しました。生活習慣を整えるだけで、腸内細菌叢のバランス異常(Dysbiosis)が解消される場合もあるでしょう。

腸内環境は人それぞれ。だからこそ同じことをやっても効果には個人差がある。

重要なのが、Aさんについて効果のあったプロバイオティクスなどがBさんにも効果があるとは限らないからです。腸内細菌叢は、性別、年齢、食事、運動、睡眠、喫煙や飲酒、投薬の状況で変化します。

つまり、個別医療の考え方と同じく、個人の体質と腸内細菌叢に向き合った腸活が必要になるのです。見直しやすいのは、食事、運動、睡眠、喫煙や飲酒などの自分の意思決定で制御しやすい習慣。

これを正した上で、どのような不調があるのか、その不調は腸内細菌叢とどのような関係があるのか、ということを調べるというのが正攻法でしょう。現在、この点については研究途上です。分からないことがあれば、TwitterやInstagramのDMにてお待ちしております。

Q. 腸活とは?

ここで、腸活とは何か、改めて考えます。腸内細菌相談室としての解釈は次のとおりです。

健康や身体の不調を克服することを目的として、乳酸菌飲料や発酵食品などのプロバイオティクスを摂取したり生活習慣を改善する継続的な活動

ここまで見てきたように、継続性、食習慣の見直しに留まらない習慣改善が腸活においては重要です。まずは、高価なプロバイオティクスやサプリメントを試すのではなく生活習慣を改善することが腸活の一歩です。

腸活の二歩目に、乳酸菌飲料などのプロバイオティクスを継続的に摂取する、ペクチンやイヌリンなどの食物繊維を取るように心がける、などの習慣を取り入れることを試します。

今後も、具体的にはどのような食品がどの腸内細菌にとって有用なのか、どのような運動習慣を取ると効果的なのか、どのような食事が腸内環境には悪いのか、ということについて取り上げていきます。

現在、Twitter、Instagramにて、①腸内細菌、②腸内環境、③腸活に関する質問を募集しています!沢山の質問、待っています。Twitter、Instagram、Note、Spotifyのフォローもお待ちしております。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

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