毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今週は、概日リズムと腸内細菌叢の関係に着目して、概日リズム、クロノタイプ、そして時計遺伝子とは何かお話しました。また、マウスを用いた実験を通して概日リズムと腸内細菌叢の関係について迫った研究のお話をしてきました。今週一週間聞いてくださっている皆様にとって、今回のエピソードは復習となるような回です!最後には来週のエピソードの予告も挟んでいるので、最後までお付き合いください!
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!
https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx
今週のトピックである腸内細菌の日内変動において重要な言葉のおさらいです。概日リズムとは、生物の代謝が約24時間の周期に従うという周期性になります。この仕組は、地球上に存在する生物が進化の過程で獲得してきた、昼夜など環境の変化の中で有利に生存するために獲得されてきたと考える事ができます。例えば1日が48時間の惑星に生物が生きていたとすれば、この生物の概日リズムは約48時間になるという考え方になります。
概日リズムは、時計遺伝子と時計タンパク質による制御を受けています。時計遺伝子とは、per、cry、clock、bmalなどの発現量が周期的に変化する遺伝子を指し、自身が翻訳されることで得られる時計タンパク質と共同して、転写翻訳フィードバックループ(Transcription-Translation Feedback Loop)を形成することで体内時計の役割を果たします。時計遺伝子は、体の随所に発現しています。中でも、脳の視交叉上核の時計遺伝子は中枢時計として、体全体に散在する末梢時計を統制する役割を果たします。体全体での時差を中枢時計が減らすことで、精巧な代謝のネットワークを構築しています。
概日リズムは遺伝子発現量によって制御を受けるお話をしてきました。つまり、概日リズムは遺伝的に制御されており、個人差が存在します。概日リズムの個人差を分類するための概念がクロノタイプになります。大きく分けて朝型、昼型、夜型に分類されるクロノタイプですが、クロノタイプと健康や疾患の関係は、現在様々な角度から研究されています。
体全体の代謝の周期性に関与する概日リズム。もちろん、体の代謝に密接に関係する腸内細菌叢とも関係しています。例えば、肝臓における遺伝子発現量の約10%は時計遺伝子に関連するとされていますが、肝臓と腸の間では腸肝循環という物質循環が行われており、常に腸内細菌叢へ影響を与えています。また、腸内細菌叢が代謝した物質は腸間膜静脈から門脈を通り肝臓へ吸収されます。したがって、腸内細菌叢もまた、時計遺伝子により制御を受ける臓器への影響を与えることになります。
では、最新の研究では概日リズムと腸内細菌叢の間にどのような関係があるのでしょうか?
今週ご紹介したのは、概日リズムと腸内細菌叢の関係に着目した3つの研究です。
Liang X et al. Rhythmicity of the intestinal microbiota is regulated by gender and the host circadian clock
Altaha B et al., Genetic and environmental circadian disruption induce weight gain through changes in the gut microbiome
He, Chuanqi et al., Circadian Rhythm Disruption Influenced Hepatic Lipid Metabolism, Gut Microbiota and Promoted Cholesterol Gallstone Formation in Mice
まず、Liangらの研究では、マウスの概日リズムを時計遺伝子のノックアウト(KO)によって乱した後に、性別による概日リズムの乱れの影響を調査していきます。時計遺伝子のKOにより概日リズムが乱されたマウスについては、腸内細菌叢組成の日内変動が抑制されていることが確認されました。また、雄マウスと雌マウスで効果が異なり、例えば雄マウスではBmal1欠損によりPlevotella属の減少が確認されたのに対して、雌マウスではBmal1欠損によりPlevotella属の増加が確認されています。
続いてのAltahaらの研究では、概日リズムの乱れが及ぼす腸内細菌叢への影響と肥満との関係について報告しています。時計遺伝子Bmal1の欠損マウスおよびシフトワークを想定した飼育環境で育てられた、概日リズムをみだされたモデルマウス=クロノディスラプションモデルマウスについて、腸内細菌叢と代謝の関係を調査しました。結果、概日リズムを乱されることで腸内細菌叢の変動周期性が減少し、体重が増加することが確認されました。また、シフトワークモデルマウスの糞便を無菌マウスに移した結果、無菌マウスの体重が増加するだけでなく、腸管における時計遺伝子の発現量が変化したことが確認されました。これは、腸管における概日リズムの制御と腸内細菌叢が相互に関係することを示唆しています。
Heらの研究では、概日リズムを乱されたマウスの肝臓における代謝と腸内細菌叢への影響について注目しています。簡潔にまとめると、マウスに対して結石を生成しやすい食事を夜食として4週間与え続けた結果、時計遺伝子の発現パターンが変化し、概日リズムが乱され、胆汁中のコレステロール値が高く、肝臓の胆汁酸およびコレステロール代謝の異常と関連することが報告されました。
以上が、今週お届けした概日リズムと腸内細菌叢についてのお話でした。概日リズムの分子生物学的なメカニズムである時計遺伝子の発現量が、糞便移植によって変化したという結果は、非常に面白い結果です。時差ボケを糞便移植により克服する時代が来るかもしれませんね。
さて、来週お話するテーマとしては、バイオフィルムと腸内細菌叢についてのお話です!バイオフィルムという言葉は、あまり馴染みが無いかもしれませんが、実はあなたの生活のありとあらゆるところに存在する細菌のコミュニティです。来週のお話にご期待ください!
以上、概日リズムと腸内細菌叢の関係についてお話しました!
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