#179 炎症性腸疾患患者の腸内細菌に特殊な機能が確認された。

更新日: 2023/02/24

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、炎症性腸疾患患者の腸内細菌には、特殊な機能が備わっていることを確認した研究についてご紹介します。炎症性腸疾患は、日本国内の約20万人が悩む疾患で、腸管の慢性的な炎症、潰瘍が生じます。炎症性腸疾患の発症原因は未だ明らかになっていませんが、腸内細菌が重要な要因になることが近年の研究で考えられるようになってきました。

本日紹介する研究は、炎症性腸疾患患者の腸内と健康な方の腸内に共通して生息するRuminococcus gnavusと呼ばれる細菌が、何やら特殊な機能を獲得していることを明らかにしました。研究報告の詳細は、2017年Genome Medicineに報告されたCurtis Huttenhower (カーティス フッテンハワー)らの"A novel Ruminococcus gnavus clade enriched in inflammatory bowel disease patients"から詳しく確認できます。

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炎症性腸疾患患者と健康な方の腸内細菌を比較

本研究では、炎症性腸疾患患者と健康な方のの腸内細菌を比較しています。ここで、炎症性腸疾患は症状の再燃と寛解を繰り返す病気として知られていることから、時間軸方向にも腸内細菌のサンプリングを行った縦断的研究を行っていきます。

炎症性腸疾患の患者および健康な方は、マサチューセッツ総合病院とEmory大学の共同で募集され、糞便の採取をしました。糞便の他にも、炎症マーカーである便中カルプロテクチン濃度を測定します。また、検証コホートとしてはヒトマイクロバイオームプロジェクトおよびLewisらのデータを使用しました。

腸内細菌の存在量の変動を評価

腸内細菌の存在量は、常に変動をすることが知られています。そこで、炎症性腸疾患患者と健康な方の腸内に存在する、通性嫌気性細菌の存在量について、計測期間における最大値を求めました。通性嫌気性細菌は、生存に酸素を必要としないが、酸素が存在する条件でも生きていくことができる細菌を指します。有名所として、大腸菌などの細菌は通性嫌気性細菌に分類されます。

ここで、炎症性腸疾患患者と健康な方の通性嫌気性細菌の存在量の最大値を比較すると、炎症性腸疾患患者の腸内では通性嫌気性細菌が多くなっていることがわかりました。炎症性腸疾患患者の腸内では、炎症に伴う酸化ストレスの増加が考えられていますが、偏性嫌気性細菌=酸素が有ると生きられない細菌は酸化ストレスの防御策を持っていません。一方、通性嫌気性細菌であれば酸化ストレスに応答できることで、炎症性腸疾患患者の腸内において通性嫌気性細菌が多くなった可能性があるとしています。

また、興味深いことに、炎症性腸疾患患者の腸内では、偏性嫌気性細菌として知られるR. gnavusの増加が確認されました。酸化ストレスに弱いはずのR. gnavusはなぜ増えたのでしょうか?

炎症性腸疾患患者と健康な方のR. gnavusがもつ機能を調査

そこで、R. gnavusがもつ遺伝子機能を、炎症性腸疾患患者と健康な方の間で比較していきます。R. gnavusはヒト腸内細菌として常在することが報告されているので比較ができます。

比較の結果、炎症性腸疾患患者については特殊なR. gnavusが存在することが示されています。例えば、酸化ストレス応答に関連するペルオキシレドキシンやペルオキシダーゼなどの酵素、鉄要求に関連する輸送タンパク質、粘液利用機能など、炎症性の腸内に適応する上で重要と考える遺伝子機能が、炎症性腸疾患患者のR. gnavusでは確認されました。

同一の種類の腸内細菌であっても、住む環境が異なると持つ機能も変化することを示唆する研究結果です。

また、R. gnavusが増えることと炎症性腸疾患の症状の増悪が対応することも確認されているため、炎症性腸疾患を考える上でR. gnavusは重要であるといえます。

本研究を一言にまとめると、炎症性腸疾患患者と健康な方の腸内細菌を比較したところ、炎症性腸疾患患者の腸内に住むR. gnavusは健康な方のR. gnavusにはない機能が獲得されていること、R. gnavusが炎症性腸疾患の増悪に関係するかもしれないということが示されました。

今後、腸内細菌の種内に存在する多様性について知見が蓄積されれば、炎症性腸疾患の仕組みについて一歩理解が深まると期待しています。

以上、炎症性腸疾患患者の腸内細菌に特殊な機能が備わっているというお話でした。

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Hall, Andrew Brantley et al. “A novel Ruminococcus gnavus clade enriched in inflammatory bowel disease patients.” Genome medicine vol. 9,1 103. 28 Nov. 2017, doi:10.1186/s13073-017-0490-5

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