現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
本日は、大麦の消費と腸内細菌叢の関係に着目した論文をご紹介します。大麦は、βグルカンという水溶性食物繊維を含む穀物で、健康食に取り入れられるなどの利用がなされます。βグルカン自体はグルコースが結合した高分子であり、その結合の形式からβという名前がついています。セルロースなどもベータグルカンです。βグルカンは消化酵素による分解を受けないので、腸内細菌によって資化されることが期待されます。
では早速、論文の内容に迫っていきましょう!
この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます。
この研究では、大麦製品の会社従業員に対して行われています。
まずは、実験参加者について。本研究には272名の参加者が登録し、フォローアップできなかった参加者などを除外した236名が解析対象となりました。そこから、健常な94名の解析が行われました。
解析対象者は大麦の消費量の中央値によって分けられ、0-3.5 g/1000 kcalの低消費量(Low)群、3.5-28 g/1000 kcalの高消費量(High)群として解析されました。
さらに、参加者のBMI、血圧、空腹時血糖値、コレステロール値などの診断項目、食生活の詳細調査、糞便中細菌の16S rRNAシーケンシングと解析を行いました。
まずは、大麦の消費量と相関のある健康項目の調査結果です。低消費量と高消費量の群間に有意差のある項目は確認されませんでした。しかし、空腹時グルコース濃度は高消費量群で高い傾向にありました。
食事については、高消費量群において食物繊維、大麦摂取量、穀物摂取量が多く、砂糖および人工甘味料、飲料について少ない傾向にありました。このように、大麦以外にもグループ間で違いのある項目が見えてきました。
こうなると、大麦による腸内細菌への影響が見えにくくなってしまいます。よって、大麦の消費量に関連があるとされた健康項目や食事項目によって、細菌の相対存在量を回帰する重回帰分析モデルを複数作成することで、大麦と細菌の量の関係を調査しています。
腸内細菌叢の多様性を比較した結果、大麦の消費量ごとの有意差はありませんでした。腸内細菌の相対存在量について比較した結果、高消費量群においてBifidobacterium、Collinsella、Butyricicoccus、Dialister、and Ruminococcus 2が多いという結果となりました。注意する点として、多重検定補正を行っていない場合にこの傾向がみられた点にあります。
これらの細菌について、重回帰分析を行って大麦の消費量と関係がありそうな細菌を調べていきます。結果、乳酸菌であるBifidobacteriumや酪酸菌であるButyricicoccusについて、有意に大麦摂取量と正の相関関係があることが確認されました。
先行研究でも食物繊維の摂取とともにBifidobacteriumが増加しています。Butyricicoccusも動物実験において大麦の摂取量と関連することが報告されています。両細菌は短鎖脂肪酸産生菌であり、健康への良い影響があると期待されます。
この研究では、大麦製品の会社従業員に対して行われた点、サンプルデータが偏っている恐れがあります。また、細菌叢の機能解析には至らない点、サンプル数が少ない点も今後の課題です。
なにはともあれ、今回の参加者集団においては、大麦を摂取するほど乳酸菌や酪酸菌が多くなることが確認されました。大麦を含めた食物繊維高含有量食品の摂取は、腸内環境への介入に良い効果をもたらすことが期待されます。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
https://bmcnutr.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40795-022-00500-3
Matsuoka, T., Hosomi, K., Park, J. et al. Relationships between barley consumption and gut microbiome characteristics in a healthy Japanese population: a cross-sectional study. BMC Nutr 8, 23 (2022). https://doi.org/10.1186/s40795-022-00500-3