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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードでは、2023年1月9日にNature cardiovascular researchへ掲載された、"Prebiotic intervention with HAMSAB in untreated essential hypertensive patients assessed in a phase II randomized trial"の研究についてのご紹介です。意訳すると、未治療高血圧の患者に対して、プレバイオティクスであるHAMSABを投与したときの影響を調査する研究です。Nature cardiovascular researchは、学術雑誌Natureの心臓血管系の研究の姉妹雑誌です。この研究では、食物繊維の腸内細菌叢による代謝と短鎖脂肪酸が血圧へ与える影響に着目して、アセチル化およびブチル化高アミロースコーンスターチをプレバイオティクスとして投与することで、血圧の低減効果が確認されていました。
プレバイオティクスは免疫系だけではなく、血圧にも利用できることを示した本研究について、早速内容に迫っていきましょう!
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高血圧は、世界中の人々の健康を脅かしています。高血圧は、西洋式の食事の特徴である低食物繊維、高脂肪、高ナトリウム性の食事が原因の1つになっています。日本においても、高血圧患者は約4300万人いると推定されており、国民全体の1/3が高血圧であると考えられています1)。
高血圧になると、血管系の疾患リスクが高まるため、健康寿命を伸ばす上では重要な調査項目であるといえます。実験モデルでは、食物繊維を分解する腸内細菌が短鎖脂肪酸を産生し、産生された短鎖脂肪酸が血圧低下や心血管疾患リスクの低下につながることが考えられています。
そこで、本研究では実験モデルでの知見がヒトにも応用できるのか調べるために、高血圧の患者を集めた試験を行っていきます。
今回の試験では、腸内細菌の餌=プレバイオティクスとして、アセチル化あるいはブチリル化された高アミロースコーンスターチ(HAMSAB)を使用します。コホートは、高血圧の治療歴がない20名の患者で、HAMSAB投与群とプラセボ群に無作為に振り分け、1日40グラムの摂取をしてもらいました。
測定項目は、収縮期血圧の低下量、サイトカイン、免疫マーカー、腸内細菌叢の変化です。
比較の結果、HAMSABを投与した群では、プラセボ群と比較して血圧の低下が確認されました。ここでは、年齢や性別、肥満度に関係なく、また副作用もなく効果が確認されています。
また、HAMSABの投与によって、酪酸と酢酸のレベルを高め、腸内細菌の群集構造を変化させ、短鎖脂肪酸産生菌の一種であるParabacteroides distasonisやRuminococcus gauvreauiiなどの増加が確認されました。
ここから考えられることは、プレバイオティクスの投与によって短鎖脂肪酸の産生菌が増加し、産生する短鎖脂肪酸が増えることで血圧の減少する傾向が見られたということです。
免疫関連の疾患のみならず、精神疾患や心血管疾患など、腸内細菌叢と関係が示唆されている不調は数多くなります。こうなると、現代において注目されている疾患の治療法の多くは、腸内細菌叢に答えが潜んでいるかもしれません。
プレバイオティクスが血圧を低下させることをヒト体内でも実証した、最新の研究をご紹介しました。
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Jama, H.A., Rhys-Jones, D., Nakai, M. et al. Prebiotic intervention with HAMSAB in untreated essential hypertensive patients assessed in a phase II randomized trial. Nat Cardiovasc Res 2, 35–43 (2023). https://doi.org/10.1038/s44161-022-00197-4
1) 血圧データベース、日本の高血圧人口(有症者数)、©OMRON HEALTHCARE Co., Ltd. 2021. All Rights Reserved.、Access: 20230310.
https://www.healthcare.omron.co.jp/zeroevents/bloodpressurelab_basic/contents1/314.html