現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。
本日は、うんちの形について取り扱います。皆さんも日常的に目にするであろう便。食生活などの生活習慣、体調によって、色や形が変わるのは経験的にご存知かと思います。
実は、形によって過敏性腸症候群(IBS)の分類が行われるほどに、便は多くを語ってくれます。今回は、便の形を決定する指標である、ブリストール便形状尺度(Bristol Stool Form Scale)についてまとめます。
この内容は、Podcastでもお楽しみ頂けます!
まずは、ブリストール便形状尺度がどのように便を分類するのか見ていきます。便の分類は、便中に含まれる水分量によって可能です。以下、ブリストール便形状尺度の詳細です。
ここで、1型と2型が便秘、6型と7型は下痢とみなせる便です。
では、ブリストール便形状尺度はどのようにして決められたのでしょうか。
ブリストール便形状尺度の由来は、ブリストール王立病院(University Dept. of Medicine Bristol Royal Infirmary)における研究です。ブリストール(Bristol)とは、イギリスの湾岸都市の名前です。
発端となった研究は、「Stool Form Scale as a Useful Guide to Intestinal Transit Time」(腸管通過時間への有用な指標としての便形状尺度)です。
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.3109/00365529709011203
研究の概略としては、腸管の便通過時間を反映しているであろう便形状尺度について、関係を調査するというもの。66名のボランティアに対して、放射線不透過性マーカーペレットを飲んでもらい、その全腸通過時間(Whole Gut Transit Time)を測定します。また、便の形を7段階で評価するとともに、排便回数、便量も記録します。結果、全腸通過時間と最も大きな正の相関係数を示したのが、便形状尺度だったのです。
S.J. LewisとK.W Heatonらの地道な研究が、過敏性腸症候群などの腸に関する不調に利用されているのです。では、最後にブリストール便形状尺度の応用先についてお話します。
前述の通り、ブリストール便形状尺度は過敏性腸症候群の分類に利用されます。過敏性腸症候群は、「腸に炎症・潰瘍・内分泌異常が認められないにも関わらず、慢性的に腹部の膨張感や腹痛を訴えたり、下痢や便秘などの便通の異常を感じる症候群」です(厚生労働省, e-ヘルスネット, 過敏性腸症候群, Access: 2022/10/2, URL: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-079.html)。
腸に明確な病変が認められないからこそ、ブリストール便形状尺度の出番であるとも言えるでしょう。
過敏性腸症候群の診断は、ブリストール便形状尺度によって硬便主体の場合に便秘型IBS(IBS-C)、軟便型の場合に下痢型IBS(IBS-D)、硬便と軟便が主体の場合に混合型IBS(IBS-M)、いずれにも該当しない便主体の場合に分類不能型IBS(IBS-U)とします。
また、ブリストール便形状尺度と糞便中細菌叢の関連性も指摘されています。ベルギーの大学であるKU LeuvenのDorisらは、ブリストール便形状尺度と糞便中細菌叢の関係を研究しています。
この研究では、健康な女性53名の糞便について、細菌叢の解析、細菌叢の増殖評価、ブリストール便形状尺度の測定を行っています。結果として、ブリストール便形状尺度が大きくなるほど、糞便中の細菌種の豊富さが小さくなる負の相関関係を示しました。ここでは、便の腸管内通過時間の短縮が関係しているとしています。また、一部の細菌については便の通過時間の短縮によって増殖が早い種が多くみられることも分かりました。
糞便を1つの生態系として捉えると、そこに住む微生物と便の性質に関係があることは自然なことであると思います。
今回の記事では、ブリストール便形状尺度の概要、研究、応用についてお話しました。今後もこの尺度が度々登場するので、ぜひ覚えておいて頂けると嬉しいです!
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
Lewis SJ, Heaton KW. Stool form scale as a useful guide to intestinal transit time. Scand J Gastroenterol. 1997 Sep;32(9):920-4. doi: 10.3109/00365529709011203. PMID: 9299672.
https://gut.bmj.com/content/65/1/57
Vandeputte D, Falony G, Vieira-Silva S, et al, Stool consistency is strongly associated with gut microbiota richness and composition, enterotypes and bacterial growth rates, Gut 2016;65:57-62.