#29 マツコ・デラックスさんの腸内細菌ミツオケラ菌の正体に迫る

更新日: 2022/09/20

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現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

本日は、"細菌詳説シリーズ"の第二弾。マツコ・デラックスさんの腸内細菌として有名になった、ミツオケラ菌の正体に迫ります。ミツオケラ菌が有名になった経緯としては、人気TV番組である月曜から夜ふかしにて、2022年2月14日に放送された内容が発端です。

https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2022/01/08/kiji/20220108s00041000674000c.html

マツコ・デラックスさんの腸内環境について調査する一幕があり、そこで"ミツオケラ菌"の存在が明らかになりました。この細菌について、本日は深堀りしていきます。

この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます!

https://open.spotify.com/episode/6nj0zJPg620D1EbXtDKnE3

ミツオケラ菌は日本人が発見した細菌

まずは、ミツオケラ菌の発見にまつわるエピソードです。この細菌は、1974年に|光岡知足《みつおかともたり》先生によって発見されました。光岡先生は、日本における腸内細菌研究のレジェンドで、培養の難しい細菌の単離法を数多く確立して来ました。2年前にお亡くなりになられましたが、それでもなお大きな存在感を示す大研究者です。(別の記事で、光岡先生に関連する内容を取り上げたいと思います)

発見当時はBacteriodes multiacidusと、バクテロイデス属菌に分類されていましたが、発見後しばらくして新しい属の菌であることが分かりました。そこで、発見の第一人者である光岡先生の名前から、"Mitsuokella"(ミツオケラ)と命名されたのです。このエピソードは、1984年理研の記事からご確認頂けます。

本来は、ミツオケラ属菌と称するのが正確ですが、ここでは簡単のためにミツオケラ菌と略称します。

参考文献:理化学研究所

光岡知足 (1984)、理研における腸内菌叢の研究のあゆみ、理化学研究所ニュース、76、Accessed: 2022/09/16、https://www.riken.jp/medialibrary/riken/pr/publications/news/1984/rn198404.pdf

ミツオケラ菌が家畜(鶏)の栄養利用を促進

研究の概要

ミツオケラ菌は嫌気性細菌で、糞便サンプルから単離されています(参考)。ここでは、ミツオケラ菌の中でもJalaludinii種に着目した研究をご紹介します。

畜産において、家畜が栄養を効率よく摂取することは重要な課題です。産業として捉えると、より少ない餌を与えて収量を高めたいためです。ここでは、リンの利用に関する酵素が重要になります。

家畜の餌となる飼料には、植物由来のものが含まれています。植物には、ビタミンBの一種であるフィチン酸と呼ばれる物質が含まれます。フィチン酸はリン酸化合物の一種で、フィチン酸に含まれるリン酸を利用するにはフィターゼ(Phytase)と呼ばれる酵素が必要です。

このフィターゼは、飼料中リンの利用率向上のために、鶏の飼料に添加されます。ここでは、酵素を直接添加する代替案として、フィターゼをもつミツオケラ菌を飼料に添加することを検討しています。

試験方法

ここでは、牛のルーメンと呼ばれる胃の1つから単離されたミツオケラ菌を使用します。得られたミツオケラ菌について、凍結乾燥して得られたフィターゼ活性のあるミツオケラ菌と、65℃で3日間処理したフィターゼ活性がないミツオケラ菌に処理します。実験では、次の3種類の飼料を比較検討します。

  • 生物利用能が低い(カラダに吸収されにくい)リン飼料+フィターゼ活性のあるミツオケラ菌破砕乾燥粉末

  • 生物利用能が通常のリン飼料+フィターゼ活性のないミツオケラ菌破砕乾燥粉末

  • 生物利用能が低い(カラダに吸収されにくい)リン飼料+フィターゼ活性のないミツオケラ菌破砕乾燥粉末

飼料摂取量は1〜21日目に毎日記録し、鶏の体重は1、7、14、21日目に、総排泄物は11-13日目および18-20日目に採取しました。最後に、飼育後に鶏を屠殺し、血漿と脛骨を採取します。

結果とまとめ

結果、フィターゼ活性のあるミツオケラ菌は、鶏の体重および飼料要求率を有意に増加させました。また、血漿中のP、Ca、Mn、Cu、Zn、脛骨中のCa、Mnは、フィターゼ活性のあるミツオケラ菌の添加により増加しました。

このことは、ミツオケラ菌の存在により鶏の栄養利用能が増加し、飼育効率が増加したことを示しています。

参考文献:Tang et al.

https://doi.org/10.1590/1806-9061-2020-1332

HC Tang et al. (2021), Mitsuokella Jalaludinii Supplementation Improved Nutrient Utilization of Broilers Fed Low-Available Phosphorus Diet, Braz. J. Poult. Sci. 23 (01).

おわりに

今回は、ミツオケラ菌の発見にまつわるエピソードと、ミツオケラ菌と畜産にまつわる研究についてお届けしました。特に、リンの吸収を助けることで家畜の体重を増加させることが分かりました。

ミツオケラ菌がいたからといって、必ずしも太りやすくなるなどの特徴的な体質になるとは言い切れないことを、お断りしておきます。

マツコ・デラックスさんの一件は、著名人が腸内細菌に触れることで、腸内細菌に対する関心が高まるのを実感したエピソードでした。腸内細菌をとってみても、お茶の間に笑いを届けるマツコ・デラックスさんは、やはりプロフェッショナルですね。

わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、TwitterやInstagram、Noteコメント欄にてメッセージお待ちしております。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

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