#5 乳酸菌飲料の菌は腸内に定着するのか

更新日: 2022/08/27

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
本日も、鈴木大輔がお届けします。本日のテーマは、前回のテーマに引き続き、乳酸菌飲料の菌は腸内に定着するのか、です。

今回の内容はポッドキャストでもお楽しみ頂けます!

https://open.spotify.com/episode/289of2PZICtyvb7UZPmtPr

乳酸菌飲料を作る会社の見解

まずは、乳酸菌飲料大手のYakultが公開している記事を参考にします。執筆者は、野本康二先生です。
(参考文献は記事末尾に記載してあります)

単刀直入に、乳酸菌飲料に由来する菌が腸に定着することはあるのか、という問に対する答えが示されています。

一方で、乳酸菌飲料な
どに含まれるプロバイオティクスは「生きて腸に到達する」
ことを標榜しているが、その多くは、摂取後に腸に到達し
たのち、腸内で定着あるいは増殖することなしに便中に排
泄されてしまう、いわゆる通過菌である。

野本康二, https://www.yakult.co.jp/healthist/252/img/pdf/p32.pdf

これは、重要な事実です。定着することはあるでしょうが、大半は定着や増殖をせずに、便中に排出されていきます。

そもそも、腸内は地球上で最も高密度に生物が存在する環境と言われています。満員電車に座るところは残されていないので、少しの細菌を入れたとしても、定着が難しいのは自然です。

腸内細菌は、専門用語で”定着抵抗性 (コロニー形成抵抗性)”と呼ばれる性質を持っています。細菌同士でコミュニケーションを行うことで、ある細菌の定着を妨げるような性質です。

一方で、腸内には多様な細菌が無数に存在していることから、相互の関係は複雑に絡み合っています。ですから、この研究分野はまだまた研究途上なのです。

経口投与による腸内への細菌定着について

続いては、複数の研究を横断的にまとめたレビュー論文からの引用です(参考文献は記事末尾に記載してあります)。

この論文では、乳酸菌飲料などの細菌がお腹へ届き排出されるまでのプロセスを”Long Journey”といっています。途中では、消化酵素、胃酸の海、数々の常在菌が待ち受けていることを考えると、まさに旅ですね。

ここでは、定着抵抗性について取り上げます。

定着抵抗性は、栄養に対する阻害や競合、抗菌ペプチドの産生、上皮バリアの維持、宿主との相互作用による胆汁酸濃度の調節などに由来しています。

ここでは、摂取したプロバイオティクスと便の研究が取り上げられており、①便中に細菌が排出されてしまうこと、②腸内細菌叢の群集構造または多様性を変えることができないことを実証しています。

また、人によっても体質、持っている腸内細菌が異なるため、定着の度合いは変化することが知られています。

この論文では、定着抵抗性に対して考えるべきは、”細菌の粘膜への接着性である”とした上で、今後の研究が待たれるとしています。

プロバイオティクスと糞便微生物移植

プロバイオティクスとは、腸内に定着させることを目的とした、何らかの形で摂取する微生物です。近年、腸活の一貫で、乳酸菌等の細菌を摂取することが流行りです。乳酸菌飲料のYakult、ヨーグルト、サプリメントなどが挙げられます。

また、健康な人の糞便を自身の腸内に取り入れる糞便微生物移植と呼ばれる手法も、海外では行われています。糞便中には無数の細菌が含まれており、人の便を使って自身の腸内環境を整えることを目指しています。一見、ものすごいことをやっていますが、菌の数や密度を考えると、合理的なのです。

これら、プロバイオティクスや糞便微生物移植が有効性を示すには、やはり定着抵抗性の課題を克服する必要があります。

何にせよ、現在できる乳酸菌飲料の楽しみ方は、飲み続ける、ということです。一度や二度の摂取では、腸内環境は変化しません。

”生きて腸まで届く”という言葉に少し敏感になっていただけると幸いです。

現在、Twitter、Instagramにて、①腸内細菌、②腸内環境、③腸活に関する質問を募集しています!沢山の質問、待っています。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした!

参考文献

  • 野本康二(2018)、プロバイオティクスはなぜ腸内に"定着"しないのか、HEALTHIST、252. URL:https://www.yakult.co.jp/healthist/252/img/pdf/p32.pdf, Accessed: 2022/08/24

  • Han S, Lu Y, Xie J, Fei Y, Zheng G, Wang Z, Liu J, Lv L, Ling Z, Berglund B, Yao M, Li L. Probiotic Gastrointestinal Transit and Colonization After Oral Administration: A Long Journey. Front Cell Infect Microbiol. 2021 Mar 10;11:609722. doi: 10.3389/fcimb.2021.609722.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8006270/

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