現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
今回は、日本人の腸内環境が特殊であるというお話です。どのような点が特殊なのか。それは、他国と比較して日本人の腸内には乳酸菌(Bifidobacterium)が豊富に存在する点です。本研究は、この観察結果の原因の一端を解き明かすべく行われた、森永乳業株式会社と株式会社DeNAライフサイエンスによる研究です。新たな知見を乳製品のリーディングカンパニーが出してくれることは、純粋に嬉しいことです。それでは、日本人の腸内に乳酸菌が多い理由について探ってみましょう!
この内容はポッドキャストでもお楽しみ頂けます!
本研究では、1250名が登録し、一定の基準を満たした1068名が解析対象となりました。男性527名および女性541名の内訳で、20-64歳で中央値が41歳、BMIの中央値は21.4 kg/m2の母集団です。また、別の研究における146人のデータを追加で使用します。
参加者は唾液と糞便サンプル、乳製品摂取量に関する記録を提出し、これらについての遺伝子解析および糞便微生物解析を実施します。また、今回の解析で注目する乳糖分解酵素をコードする遺伝子について、他国のコホートと比較するために、Phase 3 1000 Genomes Projectのデータを用いています。
乳酸菌は、乳糖やオリゴ糖を利用して増殖する細菌であることが知られます。したがって、乳糖が腸内細菌に届くのか、あるいは小腸で分解・吸収されてしまうかが、乳酸菌の増殖にとって重要な問題です。
先行研究では、乳酸菌が乳糖分解酵素に関する遺伝子と関連があるとされているため、今回も乳糖分解酵素の発現量を制御する領域に注目しています。
解析の結果、Bifidobacteriumの相対存在量は6.3±7.8%であり、他国と比較すると高水準であることが確認されました。今回注目する集団についても、日本人に確認される傾向がみられたということです。
続いて、乳糖=ラクトース分解に関連する酵素で、ラクトース活性持続症にも関連するラクターゼの領域(LCT)について調査します。今回の調査では、全ての参加者についてラクターゼ遺伝子の領域は均質であり(=変異はなく)、この遺伝子型は低いラクターゼ活性であることが確認されました。
以上の結果をまとめると、低いラクターゼ活性と高い乳酸菌の存在量について何らかの関係がありそうです。ヨーロッパにおける先行研究では、乳酸菌の存在量と乳製品の消費量の間には正の相関関係が確認されています。これを踏まえると、乳酸を多く含む乳製品の摂取を行い、低いラクターゼ活性により乳酸が分解されないことで、腸内の乳酸菌にラクターゼが届き存在量が増加するという仮説が成り立ちます。
実際に今回の集団でも、乳製品摂取量と乳酸菌の存在量の間には正の相関関係が確認されています(r=0.164, p<0.01)。
最後にですが、本論でも述べられている研究の限界点として、乳製品以外の日本の食事に関連して乳酸菌が増殖しているシナリオも十分考えられるということです。
一方で、日本人における乳酸分解酵素の活性に着目することで、日本人の腸内環境のユニークネスを一部説明できたことは、本研究の面白い点だと思います。今後も、森永乳業株式会社の研究開発に期待ですね!
わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、TwitterやInstagram、Noteコメント欄にてメッセージお待ちしております。
こちらがTwitterです!
https://twitter.com/chonai_saikin
こちらがInstagramです!フォローお待ちしております!
https://www.instagram.com/chonai_saikin/
それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
Kato K, Ishida S, Tanaka M, Mitsuyama E, Xiao J-z, Odamaki T (2018) Association between functional lactase variants and a high abundance of Bifidobacterium in the gut of healthy Japanese people. PLoS ONE 13(10): e0206189. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0206189
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0206189