#51 コーヒーの摂取で増える腸内細菌とフェノール化合物

更新日: 2022/10/12

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

突然ですが、質問です!皆さんは今朝、何か飲みましたか?朝の飲み物は人それぞれで、水やコーヒー、ジュース、何も飲まないなど、習慣に依存して変化すると思います。今回は、健康への効果が謳われるコーヒーの摂取が与える、腸内環境への影響について調べた研究の紹介です。

参考文献は文末に記載してあります!
この内容は、Podcastでもお楽しみ頂けます。

コーヒーの効用を先行研究から紹介

コーヒーは、世界中で最も愛飲される生理活性物質を含む飲料です。コーヒーそのものの栄養価は低いですが、カフェインなど、様々な成分を含んでいます。

実際に、コーヒーの摂取によって内臓脂肪症候群(Metabolic Syndrome)、肥満、2型糖尿病、心疾患、がんなどの慢性疾患リスクを低下させることが報告されています。

疾患という長期間の影響だけでなく、より短期間の影響としてコーヒーの摂取により腸管の運動性が向上することによる便通過時間の低減などの影響も知られています。

コーヒーには、カフェインやポリフェノールなど様々な物質を含むことから、腸内細菌叢にも影響を与えることが容易に考えられます。先行研究では、コーヒーの摂取により腸内細菌叢中の乳酸菌(Bifidobacterium)が増加し、一方ClostridiumやE. coliが減少することが報告されています。

しかし、先行研究は試験管内や動物試験、介入試験などでした。本研究では、先行研究とは異なる観察研究を通して、カフェインの影響を調査していきます。

カフェイン摂取者を3群に分けて分析

本研究では、スペインにて19歳から95歳の147人の参加者を募り、食事習慣の調査と腸内細菌叢の解析を行います。食事習慣は、食事摂取頻度調査票(FFQ: Food Frequency Questionnaire)を用いて参加者に回答してもらいます。

また、参加者の血清サンプルを取得して、炎症のバイオマーカーであるCRPや、酸化ストレス指標となるマロンジアルデヒド(Malondialdehyde)の測定を行います。

糞便サンプルの取得では、糞便を集めた後に-20℃で凍結し、試料調製後qPCRによる腸内細菌叢の解析を行います。

FFQの結果から、コーヒー摂取者を3群に分けます。0-3 mL/dayを非消費者、3-45 mL/dayを通常消費者、45-500 mL/dayを高消費者として分類し、群間比較を行います。

コーヒーの摂取と関連する食事と腸内細菌叢

コーヒー摂取と食事の関連性を比較します。結果としては、コーヒーの消費量が多いほど、非アルコール性の飲料の摂取量が多い結果となりました。また、コーヒーの消費量の増加に伴い消費量が増加したのは野菜の摂取量でした。しかし、コーヒー消費と食習慣の関連性は明確には確認されませんでした。

腸内細菌叢の解析については、コーヒーの消費量が増加することでBacteroides-Prevotella-Porphyromonas、Bifidobacterium、Akkermansiaなどの相対存在量が増加していることが示されました。コーヒーの消費量と短鎖脂肪酸の量には明確な関係が示されませんでした。酸化ストレス指標であるマロンジアルデヒドの血中濃度は、コーヒー摂取者において小さいことが確認されました。

カフェインの摂取によるフェノール化合物やアルカロイドとしてはカフェオイルキナ酸やフェルロイルキナ酸、カフェインが検出されました

相関解析を行うと、メトキシフェノール、アルキルメトキシフェノールとBacteroides-Prevotella-Porphyromonasの存在量の間に、r=0.177とr=0.182の弱い正の相関が確認されました。また、カフェインとBacteroidesの間にr=0.200の弱い正の相関が確認されました。

先行研究より、バクテロイデスは、ポリフェノール代謝能力が高く、細胞内酸素レベルに影響を与えることで嫌気性細菌の増殖に関与することが示唆されています。また、バクテロイデスは健常者の腸内細菌叢に多くなることが知られていることから、今回の結果はコーヒー摂取と健康への影響について一部説明できています。

今後、介入研究を行う場合には、コーヒー摂取量、腸内細菌叢に加えて、ポリフェノールの摂取についてもモニタリングする必要があるとしています。また、食習慣はFFQによる記録に依存していたことから、厳密な量の把握や、今回は存在しなかった500 mL/dayの摂取参加者の募集と用量依存性についても調査が必要です。

おわりに

今回、コーヒーの日常的な摂取によって、酸化ストレスのバイオマーカーであるマロンジアルデヒド血中濃度が減少し、Bacteroides-Prevotella-Porphynomonasの存在量が増加することが示されました。

これは、コーヒーが健康リスクと関係することを裏付ける証拠となります。しかし、メカニズムについては言及できていません。

しかし、コーヒーが与える健康リスクへの影響に関する研究の多くは、観察研究です。今後、コーヒー摂取による代謝への影響を考慮する上で、腸内細菌叢を含めて考えることで、この関係が明らかになるかもしれません。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

González, S.; Salazar, N.; Ruiz-Saavedra, S.; Gómez-Martín, M.; de los Reyes-Gavilán, C.G.; Gueimonde, M. Long-Term Coffee Consumption is Associated with Fecal Microbial Composition in Humans. Nutrients 2020, 12, 1287. https://doi.org/10.3390/nu12051287

https://www.mdpi.com/2072-6643/12/5/1287#cite

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