#77 腸内環境理解のための生物学入門。Part7: わたし達の祖先と核酸。

更新日: 2022/11/07

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。

腸内環境を理解するための生物学入門も、第7回!後半戦に突入です。前回までは、わたしたちの体をDNA、タンパク質、細胞、器官といった尺度の異なる目線で紐解いて来ました。ここからは、遺伝情報そのものについて、より深く考えていきます。なんだか、腸内環境を理解するための生物学にしては遠回りではないか?そう感じるのも普通の感想です。しかし、ここからお話する内容が、腸内環境を理解するために必要な技術について知る良いきっかけになると信じています。

では、第1回にて話したDNAについて、別の角度からお話をしていきます。

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

コアセルベートとヒトの間

DNAについてのお話をするために、私達ヒトの祖先について思いを馳せてみます。

私達は生き物です。生き物が生きるために必要な情報を全て記したのがゲノム、つまり遺伝情報の全部、遺伝子の集合です。ですから、ゲノムには、生き物の営みの要素、例えば食べることや、寝ることに必要な遺伝情報が含まれているといえます。

では、私達のゲノムはどこから来たのか?それは、両親です。両親のゲノムを記したDNAが混ざり合って、私達のDNAが作られています。これは、有性生殖という、生物学的に異なる役割をもった男性と女性が交配することによって、遺伝情報の多様性を生み出すための仕組みです。突然変異に頼らない遺伝情報の多様化によって、種としての環境への適応力が高まり、存続の可能性を高めることができます。

では、両親のゲノムはどこから来たのでしょうか?それはやはり、両親の両親ですね。このようにして、遺伝情報は世代間を超えて、DNAという物質的な記録媒体を通して受け継がれてきました。

では、親の親の親をたどり続けていった先には、どのようなヒトがいたのでしょうか?更に遡ると、どのような生物だったのでしょうか?この文章を呼んでいるあなたが存在するということは、連綿と続く先祖の存在証明です。最初の命はどのような形だったのでしょうか?

命の原型は、コアセルベートと呼ばれる膜の中に特定の物質が含まれたような構造体であると考えられています。コアセルベートの単純構造からヒトという高度に統制された複雑構造へと進化するまで、様々なドラマがあったに違いありません。

話が飛び飛びになってきたので、ここで一度まとめます。ヒトは、DNAにゲノムを記すことで、世代間で情報を受け継いできました。一方で、生命の原型はコアセルベートと呼ばれる単純構造です。コアセルベートから、ヒトに至るまでのプロセスは、現在でも活発に研究されています

この研究の難しい部分は、途方も無いほど昔に起きていた出来事である点、コアセルベートほどの小さくて単純な仕組みになると、もうその痕跡を探すことは困難な点にあります。でも、もう少し時間スケールを最近までに絞ることで、例えば数百万年前くらいの先祖であれば分かるかもしれません。

私達の祖先は誰か?

では、私達の祖先は誰なのでしょうか?2022年にノーベル生理学・医学賞を受賞したスヴァンテ・ペーボ博士の研究では、我々ホモ・サピエンスとネアンデルタール人:学名ホモ・ネアンデルターレンシスが交配していたことが明らかとなっています。ですから、私達の祖先はホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスであると言えます。

では、この研究はどのようにして進めたのでしょうか?なぜなら、現代人の我々は当時のホモ・サピエンスがホモ・ネアンデルターレンシスと交配している現場を見届ける術などないからです。

ここで登場するのがDNAです。ホモ・サピエンスにしろ、ホモ・ネアンデルターレンシスにしろ、生き物なのでDNAをもっています。例えば、古代に生きていたホモ・サピエンス、ホモ・ネアンデルターレンシスのDNAと、我々のDNAの塩基配列を比較することで、間接的に交配した事実を突き止めることができます。

古代のサンプル中に含まれるDNA、古代DNA (Ancient DNA)を解析する際に難しいのは、DNAがかなり劣化しているためにバラバラなのです。DNAは高分子です。日光に当て続けたプラスチックが脆くなるのはプラスチックを構成するポリマーが紫外線による開裂を受けて構造的に弱くなることに由来します。DNAも外界からの刺激を受けることで、劣化していきます。

しかし、本来のDNAの姿は1本。ですからバラバラなDNAを1本にまとめる作業が必要になります。スヴァンテ・ペーボ博士の研究のスゴイところは、解析の難しい古代DNAの解析を行ったことにあります。

では、古代DNAのサンプルが集まったとして、どのようにDNAの塩基配列を解読していくのでしょうか?実は、本日のお話のほとんどは、DNAの解読技術につなげるための導入でした。

ゲノムを読む!

生き物の世代間を通して受け継がれてきたDNA。ここには、私達の先祖の交配の歴史が記されており、過去の生物の進化の歴史が蓄積されています。そんな、数十億年の歴史が、私達の細胞1つ1つに折りたたまれてるって、すごくないですか?!壮大過ぎて、すげえなあーと思います。

そんな、遺伝情報を読み解く技術について、次回以降詳しく解説していきます。この技術こそが、私達の腸内細菌を読み解く基盤技術だったりするので、長々と導入をさせていただきました。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

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