#72 腸内環境理解のための生物学入門。Part3: RNAはタンパク質へ。

更新日: 2022/11/02

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

複雑な腸内環境を理解するために必要な生物学の基礎を学ぶ本シリーズも第3回目に突入しました。前回までに、わたしたちとDNA、DNAとRNAの関係についてそれぞれお話してきましたが、まだ重要な役者は揃っていません。タンパク質です。

タンパク質は、わたしたちの体を水と共に構成する主成分であり、代謝の多様性を支える本質的な存在でもあります。では、突然ですが質問です。タンパク質とはどのような物質でしょうか。今回のエピソードを終える頃には、この質問についてしっかりと答えられるようになっているはずです!

今回も、雑談ベースでタンパク質についてお話していくので、リラックスしてお楽しみ下さい。

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

タンパク質とは何か

でははじめに、タンパク質とはどのような物質なのか考えていきます。タンパク質は、DNAと同様に高分子です。高分子とは、構造単位となる分子=モノマーが組み合わさってできるような巨大な分子のことを指します。

タンパク質の構造単位となる分子はアミノ酸です。アミノ酸は、構造中に、アミノ基と呼ばれる窒素を含んだ部品、カルボキシル基と呼ばれる酸性の部品の2つから成ります。アミノ基とカルボキシル基をもつのでアミノ酸です。とっても単純です。

でも、アミノ酸と聞くと、色々な物質の名前が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか?アラニンやロイシン、トリプトファンやフェニルアラニンなどなど。実は、アミノ酸という構造上の性質をまとめたグループに、沢山の種類のアミノ酸が存在するのです。

アミノ酸の多様性を生むのは、アミノ基とカルボキシル基に次ぐ第3の構造、側鎖(Side Chain)です。アラニンやロイシン、トリプトファンの間で、アミノ基やカルボキシル基は共通ですが、側鎖にくっついている分子が異なるために、機能的性質の多様性が生まれているのです。

多様なアミノ酸が連結することで、様々な性質のタンパク質が生まれます。ここで、タンパク質を構成するアミノ酸の並びのことを1次構造、アミノ酸の並びに起因して生じる立体的な部分構造を2次構造、2次構造が折りたたまれて生じる立体構造を3次構造と呼びます。

アミノ酸の並びとそれに起因する構造によって、特定の生化学反応のみを促進する酵素の性質、基質特異性が生じてくるのです。

タンパク質とは何か、ざっくりと分かったところで、RNAがタンパク質に読み替えられるまでのお話をしていきます。

RNAがタンパク質に読み替えられるまで

前回のお話の復習をすると、DNAの遺伝情報を転写したmRNAが核の外に出て行きました。そこで出会うのが、リボソームと呼ばれるタンパク質とRNAの複合体です。リボソームでは、mRNAに記録された塩基配列から、アミノ酸に読み替え、アミノ酸同士を結合する工程が行われます。リボソームは、タンパク質の生産工場です。

では、タンパク質の生産過程を覗いてみましょう。mRNAは、アデニン、グアニン、シトシン、ウラシルの塩基によって構成されており、これらの並び=塩基配列に情報が与えられています。

例えば、アデニン、ウラシル、シトシンの並びのmRNAを考えます。この塩基配列に対応するのは、イソロイシンです。基本的には3つの塩基の並びに対して1つのアミノ酸が割り当てられていて、この読み替えられる塩基配列のことを遺伝暗号=コドンと呼びます。ポケモンの名前みたいで可愛いですね。3つの塩基で生じる1セットの塩基配列をトリプレットと呼びます。

塩基配列というコドンを、アミノ酸に読み替える工程を翻訳と呼びます。3つの塩基の配列が、1つのアミノ酸に翻訳される。この工程を担うのが、リボソームなのです。コドンとアミノ酸の対応は、コドン表という科学者の叡智の結晶にまとめられています。

ここで、3つの塩基には4種類の塩基、すなわちアデニン、グアニン、シトシン、ウラシルが入り得ます。つまり、4✗4✗4の組み合わせでコドンが存在することに成ります。それに対して、得られるアミノ酸は20種類です。つまり、コドンの種類64に対して得られるアミノ酸は20種類と少ないのです。

じつは、コドンとアミノ酸が1:1対応しているわけではなく、複数のコドンが1つのアミノ酸に対応することで、塩基配列に異変が起きたときのための冗長性が備わっているのです。

ちなみに、タンパク質が作られる際には、アミノ酸がリボソームに運ばれてくる必要があります。ここで登場するのが、tRNA(転移RNA)です。tRNAに繋がれたアミノ酸がリボソームに運搬されることで、タンパク質は伸長していきます。

ここまでお話してきた一連の流れが、誰に教えられるわけでもなく、進化によって生み出されてきました。生物の神秘性を感じざるを得ません。

16S rRNA遺伝子について

今後も、研究の紹介などで多用されるであろう、「16S rRNA遺伝子」について、併せてお話しておきます。リボソームは、複数のサブユニットと呼ばれる構造が結合することで成り立っています。真核生物=核をもつ生物と原核生物=核をもたない生物によって、その構成が異なります。

腸内細菌、つまり原核生物の場合には、リボソームは16S rRNAを含んでいます。リボソームは、コドンをアミノ酸に翻訳してタンパク質にする重要な部品です。重要な部品に突然変異が入って継承されると、子孫の存続には致命的となります。したがって、リボソームの変異は小さくなるような選択圧が働きます。別の言い方をすると、リボソームを構成する16S rRNAをコードする遺伝子の配列は、世代を超えてあまり変化しないのです。

とは言っても、少しずつ致命的にならない範囲で遺伝子変異は蓄積し、細菌種の分岐と共に多様な配列を持っていきます。変化しにくいが変化している場所もある、絶妙な16S rRNA遺伝子領域に着目することで、塩基配列から細菌の分類を行うことが可能になります。

これが、ヒトの腸内細菌叢の系統解析などに16S rRNAが用いられる所以です。

セントラル・ドグマと逆転写酵素

最後に、ここまで3回のエピソードの流れを確認してみます。わたしたちが生きる上で必要な遺伝情報は全て、ゲノムに含まれています。ゲノムの記録媒体はDNAという物質です。

DNAは、RNAに転写され、ついでアミノ酸に翻訳されることでタンパク質が生み出されます。この、DNA→RNA→タンパク質の遺伝情報の流れをセントラル・ドグマと呼びます。全ての生き物に共通する遺伝情報の流れです。

しかし、セントラル・ドグマを壊す、生き物もどきのヤツがいます。ウイルスです。ウイルスは、逆転写酵素と呼ばれる酵素によってRNAからDNAを合成します。このお話は、また機会があればしてみます!

ここまでお話を聴いた皆様であれば、DNA、RNA、タンパク質の関係性や16S rRNA遺伝子とは何か、ご理解頂けたのではないでしょうか?次回は、タンパク質などの部品が組み合わさってできる、細胞についてのお話をしていきます!

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

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