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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードでは、バイオフィルムの形成過程と感染症についてのお話をします。#147では水のあるところにバイオフィルムが存在すること、#148ではバイオフィルム内の細菌は自己誘導因子によって、クオラムセンシングという仕組みの元にコミュニケーションを取ることをお話してきました。実は、バイオフィルムが形成されることで、クオラムセンシングによる細菌の病原性の発現が確認されており、感染症を引き起こすとして問題になっています。今回は、そんなバイオフィルムのでき方と、バイオフィルムと感染症の関係についてお話していきます!
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!
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まずは、バイオフィルムの生成過程から順を追って説明します。ここでは、栄研化学株式会社の刊行するesに掲載されている、"バイオフィルムの生成と衛生管理"を元にお話していきます1)。
まずはバイオフィルムの定義から復習すると、"固体表面にできる微生物および微生物が産生する物質に由来する構造です"。ですから、固体表面について考えることから始めます。
固体表面には、細菌の吸着に先立って水中のイオンやタンパク質の結合している層が形成されていると考えられています。固体表面への物質の吸着層はコンディショニングフィルムと呼ばれています。
次いで、コンディショニングフィルムに細菌が吸着と脱着を繰り返し、ある時に不可逆的な吸着となります。この時点で、細菌が固体表面にコンディショニングフィルムを介して吸着したことになります。ここから細菌が増殖を始めると、コンディショニングフィルム上に細菌のマイクロコロニーが形成されます。増殖の過程で、粘着性の菌体外多糖類(グリコカリックス)が分泌されることで、バイオフィルムはより盤石な構造となるのです。
ここで重要になるのが、クオラムセンシングです。バイオフィルム内に細菌が密に存在することで、自己誘導因子の濃度が局所的に高まり、クオラムセンシングによって遺伝子の発現量が変化します。これによって、バイオフィルムが外界からのストレスに対して、耐性を持つようになります1)。
このように、クオラムセンシングと物理化学的な過程でバイオフィルムの形成は進行するのです。では、出来上がったバイオフィルムは、感染症とどのように関係するのでしょうか。
クオラムセンシングは、多くの細菌感染症を引き起こす細菌が有するシステムとして知られています。今回は、バイオフィルムおよびクオラムセンシングについてよく調べられている緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)についてのお話をします。
緑膿菌は、ピオシアニン=緑色の細胞毒性物質、アルギン酸=菌体外多糖、細胞・組織障害性毒素(エラスターゼ、プロテアーゼ、エクソトキシン)を産生することが知られており、これらの病原性因子の多くがクオラムセンシングによって制御される事がわかっています2)。
特に、緑膿菌の産生するアルギン酸が、クオラムセンシングに影響を受けており、バイオフィルム形成には重要であると考えられています2)。
緑膿菌は、慢性気道感染症あるいはカテーテル感染症について、バイオフィルム形成が難治化や慢性化の要因となることが知られています2)。日和見感染症などとバイオフィルムの関係は今後も重要な医療課題となることが考えられます。
ここまでに、バイオフィルムの形成過程と感染症についてのお話をしてきました。次回はついに、バイオフィルムと腸内細菌叢についてのお話に突入します。
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本日も一日、お疲れさまでした。
1) 土戸哲明、バイオフィルムの生成と衛生管理、イーズ、31、2003.
https://www.eiken.co.jp/uploads/es31.pdf
2) 舘田 一博, 木村 聡一郎, 山口 惠三, 3.バイオフィルム感染症とクオラムセンシング, 日本内科学会雑誌, 2010, 99 巻, 11 号, p. 2677-2681.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/99/11/99_2677/_article/-char/ja/