毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
本日は、腸内環境や腸活を語る上で頻出の、腸内細菌叢の多様性についてお話します。現代社会においても、多様な文化、多様な人種、多様な人々を大切にする、多様性に対しての重要性の認識が高まっています。では、そもそも、多様とはどのような状況を指すのでしょうか。多様性とは一体何なのでしょうか。多様性を何らかの尺度で測れるようにしなければ、多様化したとは厳密には言えません。よって、腸内環境にしろ、地球環境にしろ、多様性そのものを考えることは重要です。
今回のエピソードでは、多様性をどのように定量的に表現するのか、お話していきます。
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!
https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx
まずは、多様性とは何か、言葉としての定義を確認してみます。デジタル大辞泉による定義では、多様性は次のように定義されています。
この定義によると、デジタル大辞泉によると、多様性は2つの状況に対して用いられています。つまり、動きのない静的な状態と、動きのある動的な状態です。「いろいろな種類や傾向のものがあること」は観察対象の今を切り取った状態について、異なるもの、性質が同時に成り立っていることを指します。一方、「変化に富むこと」は観察対象の時間軸方向の変化、つまり動的な状態変化そのものを指しています。
生物と生物、生物と環境間の相互作用を考える生態学では、今を切り取ったときの「いろいろな種類や傾向のものがあること」に対して、多様性の尺度が与えられています。
また、少し限定して生物の多様性の定義を、生物多様性条約から引用します。
ここでは、生物の間の変異性と表現されており、遺伝的な多様性の概念が示唆されています。変異性は、生殖の過程で遺伝情報が子孫へ受け継がれる過程で、DNAの塩基配列が変化する性質です。生物の多様性は、分子レベルでは塩基配列の変化に他なりません。この点、生物多様性条約の多様性に関する定義は、種の間のみならず種の中=人間でいうと個人間の多様性についても考えることができる点、汎用な定義であると言えます。
生態学に多様性尺度の概念を導入したのは、R.H. Whittaker(ホイッタカー)です1*2。植物生態学を専門とするホイッタカーは、多様性に関連する研究の他にも、生物の五界説や生態系の遷移における極相パターン説を提唱しています。高校生物では、結構聞く名前のホイッタカーは、実は多様性の研究も行っていたのです。
腸内環境も、生態系です。外部から栄養や抗生物質などが供給され、嫌気的で、微生物によりのみ占められる生態系とみなすことができます。つまり、今日腸内細菌叢の多様性を論じるために使われている尺度は、生態学での手法が元となっているのです。
続いて、多様性尺度に迫ります。
腸内細菌叢の多様性を考えるためには、2つの概念が重要です。それは、種の数(=豊富さ、richness)と種間の均等性(evenness)です3*。
種の数とは、腸内環境、あるいは糞便サンプル中に確認できる腸内細菌の数です。一方の種間の均等性とは、腸内細菌の占める割合を比較したときに、その差異がどれだけ少なく、等しく存在するかを示した性質です。これらの2つの性質によって、多様性は尺度として定義されます。
ざっくりいうと、種の数が多くて、かつそれらが等しく存在する場合に多様であるとします。また、多様性尺度によって、種の数を重視するか、種間の均質性を重視するかは異なります。
多様性尺度については、Qiitaの記事"α多様性とβ多様性"にまとめられていたので、こちらに紹介されている多様性尺度を一部引用します4*。
多様性尺度には、α多様性とβ多様性を説明するものに分かれます。腸内環境を例に取ると、1人の腸内環境に存在する腸内細菌叢の多様性はα多様性、2人の腸内環境に存在する腸内細菌叢の違いに着目した多様性はβ多様性です。
α多様性としてよく使用されるのは、Shannon-Wiener indexやSimpson Indexで、ある種が占める腸内細菌叢に占める割合=相対存在量をもとに計算されます。β多様性としてよく使用されるのはJaccard距離やBray-Curtis距離(または非類似度)で、Jaccard距離は存在する種の数、Bray-Curtis距離は相対存在量によって定義されます。
ここで強調したいのは、多様性尺度は、数、均等性の何を重視するのかによって異なり、多様性の意味合いが変化することです。
腸内細菌叢の多様性と健康についての研究は続いています。腸内細菌叢をより細かに解析できるようになり、またサンプル数も豊富になってきたことに伴って、疾患との関連性が細かく論じられるようになってきました。
ある疾患や免疫応答に関連するのは、ある細菌種、または複数の細菌種です。これらが腸内環境、あるいは腸内細菌叢に与える影響の結果として、腸内細菌叢の多様性は形成されます。つまり、ある疾患、ある腸内環境に着目すると、多様性の意味合いは異なってくるのです。例えば、病原性細菌が数多く均等に存在すれば、それはそれで多様性が高いといえます。
多様な腸内環境であれば健康であるといった単純化した議論ではなく、多様性を成り立たせている細菌それぞれについても思いを巡らせることが大切であると、室長は考えています。
以上、腸内細菌叢の多様性についてのお話でした!
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本日も一日、お疲れさまでした。
1* 小谷野仁(2012), α 多様性の測定と確率文字列の理論, 統計数理, 第 60 巻 第 2 号 263–278,
https://www.ism.ac.jp/editsec/toukei/pdf/60-2-263.pdf
2* R. H. Whittaker(1960), Vegetation of the Siskiyou Mountains, Oregon and California, Ecological Monographs, 30(3), 279-338.
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.2307/1943563
3* 多様性を指標について 種の多様性, biology, Access: 2022/11/18
https://bio.biopapyrus.jp/ecology/diversity.html
4* @keisuke-ota (2020), α多様性とβ多様性, Qiita, Access: 2022/11/18.