#27 腸内細菌によるさつまいもの発酵

更新日: 2022/09/18

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

今回は、腸内細菌によるさつまいもの発酵をテーマに、さつまいもの加熱などによる発酵過程の変化、生成される短鎖脂肪酸の量に関する考察を行います。

アニメや漫画でさつまいもが題材となるとき、食べてから"おなら"がよく出るという描写がよく見られます。これは、実は腸内で腸内細菌による発酵が進んでいるからにほかなりません。発酵が進んでいるということは、食物繊維が分解され、何らかの物質が生まれていることを意味します。

さて、さつまいもの発酵と効用について見ていきましょう!

この内容は、Noteフォロワーの悪魔の代弁者様にご質問を頂き作成しております。ご質問ありがとうございます!

この内容はPodcastでもお楽しみ頂けます。

https://open.spotify.com/episode/4JweIneL2nC35ahQ6anWbq

食物繊維とさつまいも

食物繊維は、近年腸活関連で重要視されている栄養素です。特に、腸内環境の観点からは、難消化性の食物繊維を腸内細菌が分解することによって、私達にとって有用な物質を生産してくれます。

腸内細菌を栄養する目的として摂取する食物繊維などの栄養素をプレバイオティクスと呼びますが、穀類やイモ類、ごぼうや海藻などは天然のプレバイオティクスと呼べるでしょう。

今回は、秋の風物詩であるさつまいもに焦点を当てて、食物繊維と発酵について取り上げます。食物繊維に関する言葉が複数でてくるので、ここでまとめます。

  • 食物繊維(Dietary Fiber):人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体(食物繊維 基礎と応用, 第一出版, 日本食物繊維学会, 2008, 参考)。

  • 総食物繊維(Total Dietary Fiber):水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の総称。

  • 水溶性食物繊維(Soluble Dietary Fiber):水に溶ける。ペクチンなど。

  • 不溶性食物繊維(Insoluble Dietary Fiber):水に溶けない。セルロース、キチンなど。

  • レジスタントスターチ(酵素抵抗性デンプン: Resistant Starch):難消化性のデンプン。食物繊維とは区別して考える。

食物繊維は、腸内細菌による発酵プロセスを経て短鎖脂肪酸などの物質になります。短鎖脂肪酸は蠕動運動のエネルギー源になるほか、肝臓で糖新生に用いられたり、免疫機能に関連すると指摘されており、重要な栄養です。

先行研究では、蒸し加熱によって総食物繊維量やレジスタントスターチ量が増加することが確認されています。このように、加熱方法の違いによって性質が変化するさつまいもと、腸内細菌の発酵の関係を見るのが今回の研究です。

研究の方法

使用するさつまいもは、徳島県産のなると金時です。加熱は蒸し加熱12分間と電子レンジ加熱500W 60秒を行っています。得られたさつまいもの総食物繊維量を測定したり、発酵試験に用います。

今回の試験系は、In vitroと呼ばれるカラダの外で行う実験です。ここでは、ラットの盲腸内容物を発酵に使用します。盲腸内容物より菌体懸濁液を調製し、密閉容器に入れます。ここで、ヘッドスペースと呼ばれる容器の気相部分には炭酸ガスを入れることで嫌気的な環境にしています。

試験に使用するのは、グルコース、さつまいもから抽出した総食物繊維、セルロースです。グルコースは腸内細菌に利用されやすいことから、セルロースは食物繊維の比較対象のために添加されました。

本試験では、短鎖脂肪酸の生成など代謝によって変化する培養液のpH、発酵過程で分解される糖の全量である全糖量、短鎖脂肪酸の濃度をそれぞれ測定しています。

未加熱、蒸し加熱、電子レンジ加熱によるさつまいも食物繊維の発酵への利用に違いはなく、酪酸の生成量が多かった

まずはpH測定の結果です。セルロースと比較してグルコースやさつまいも総食物繊維の方がpHの減少が見られました。また、加熱方法によるpHの違いは確認されませんでした。

また、グルコースにおいてpHは最も低下したが、サツマイモの総食物繊維に関してはpHの低下速度がグルコースと比較して早いことが確認されました。

続いての結果は、全糖量についてです。試験開始から18時間後の全糖量の残存率を調べると、セルロースは88.6%が残存していたのに対して、さつまいもTDFについては未加熱で19.73±4.17%,蒸し加
熱 で23.03±4.24%,電子レンジ加熱 で23.32±1.32%という結果となりました。こちらも、加熱法による違いは認められませんでした。グルコースは、17.58±5.43%で最も消費されたことが分かりました。この結果はpH試験と対応しています。

最後に、短鎖脂肪酸濃度を見ていきます。セルロースと比較すると、未加熱、蒸し加熱、電子レンジ加熱のいずれにおいても酢酸の濃度は高くなりました。これは、さつまいもとグルコースの酢酸濃度は同程度でした。

プロピオン酸、酪酸濃度についてもセルロースと比較すると、未加熱、蒸し加熱、電子レンジ加熱のいずれにおいても酢酸の濃度は高くなりました。しかし、グルコースにさつまいもは及びませんでした。

ここで重要な点として、消化の段階でグルコースは小腸において吸収されます。これは人体においてグルコースが有用な物質であり、デンプンを分解するアミラーゼなどの分解プロセスや吸収プロセスが整っているためです。

したがって、腸内細菌を栄養する観点からは、さつまいもによる食物繊維の摂取が有効であると言えます。

今回は、さつまいもの食物繊維が腸内細菌による分解を受けて短鎖脂肪酸を生成することを示した研究をご紹介しました。ここでは、加熱方法によらず食物繊維の恩恵を受けられることが分かりました。

この研究について、もう少し付け加えるとすると、①菌体数の測定、②16s rRNA遺伝子解析による細菌叢組成の推移を見れると、どの菌がどれくらい増えているか分かって良いと感じました。

時間が経つのは早いもので、夏の終おわりを感じると切なくなるのは私だけでしょうか。季節の変わり目ですから、体調を崩さないよう皆様もお気をつけ下さい。今年はさつまいもを、沢山楽しむぞー!

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

池田 倫子, 山中 なつみ, 加熱方法の違いによるさつまいもの食物繊維の腸内発酵性に及ぼす影響, 名古屋文理大学紀要, 2021, 21 巻, p. 55-61

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nbukiyou/21/0/21_KJD2021021055061/_article/-char/ja/

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