#225 【病原性集中講義】Part8: ビルレンスファクター入門。

更新日: 2023/04/11

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病原性集中講義の第8回からは、病原性集中講義の後半戦として病原性を引き起こす病原体についてのお話をスタートします。本日は、病原性を引き起こす原因としてのビルレンスファクターについて概観します。ビルレンスファクターとは、病原性を引き起こす病原体由来の分子や分画を指します。

病原体には、ヒトを始めとした宿主に影響を与える因子として、どのような機能の分子、分画を有するのでしょうか?今回のエピソードでは、MSDマニュアルプロフェッショナル版の"微生物の侵入を助長する因子"を参考にお話していきます。

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ビルレンスファクターの種類

ビルレンスファクターとしては、病原体の莢膜、酵素、毒素が上げられます。宿主の組織や細胞を攻撃、損傷したり貪食細胞からの食作用を免れる機能があります。

莢膜:capsule

莢膜は、病原性細菌の細胞表面を覆う構造であり、一部の細菌を除き多糖により構成されています1)。莢膜を構成する多糖は、細菌由来のタンパク質と比較して抗原抗体反応を引き起こす性質の抗原性が低く、したがって免疫応答から病原体を守る存在となっています1)。

莢膜が免疫応答から病原体を守るのは、オプソニン化の阻害効果によるものです。莢膜には補体の結合が起きにくく、結果として抗原抗体反応や補体付着によるオプソニン化=貪食細胞から認識されやすくなる現象が起きにくいのです。

タンパク質酵素: protease

タンパク質分解酵素は、宿主の組織の一部を破壊することによって、細菌の組織への侵入を可能にします。例えば、歯周病を引き起こす病原性細菌は、コラゲナーゼやトリプシン様プロテアーゼなどで、歯周組織を破壊することが明らかとなっております2)。

プロテアーゼは、宿主内での酸化ストレスなどに影響を受けてアンフォールドのタンパク質について除去する上でも重要です3)。また
、抗体である免疫グロブリンIgAを分解するIgAプロテアーゼを産生することで、粘膜感染部位における免疫機能の一部を阻害することも分かっています4)。

毒素: toxin

ビルレンスファクターとして最後に紹介するのが毒素です。毒素としては、内毒素や外毒素が存在します。内毒素は、グラム陰性細菌の細胞壁に存在するリポ多糖で構成されており、リーキーガット中の腸内細菌によって慢性的な炎症を引き起こすことで問題となります。多量なリポ多糖が侵入すると、敗血症の原因となります。

外毒素は、タンパク質によって構成されており、したがって熱に弱いのが特徴です。腸管に対して毒性を示す腸管毒としては、黄色ブドウ球菌や一部の大腸菌が産生するエンテロトキシンが知らています。食中毒の発症を含めた深刻な被害を宿主にもたらします。他にも、白血球毒や溶血毒、神経毒、細胞毒などが知られます。

外毒素はタンパク質なので、プラスミドなどによる遺伝子の水平伝播が他の細菌の病原性獲得に関係する場合もあれば、変異の挿入によって毒素産生能力が失われる場合もあります。

他にも、補体抵抗性を示したり、食作用の酸化分解作用に抵抗性を示したり、免疫系を回避したりする機能を持つ細菌やウイルスが存在します。

また、病原体が産生する毒素が宿主のDNAを傷害することで、長期的な影響を及ぼす場合もあります。宿主細胞のDNAを損傷する遺伝毒性物質としては、大腸菌が産生するコリバクチン、Klebsiella属菌が産生するチリマイシン、Morganella morganiiの産生するインドミリンが存在し、発がん過程との関係が指摘されています。

今回は、病原性を引き起こす病原体のビルレンスファクターについてお話しました。次回は、ビルレンスファクターの中でも毒素に注目し、よりマニアックな宿主への病原性発現経路についてお話します。

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今日も、お疲れさまでした。
また次回、お会いしましょう!

参考文献

L.M. Bush, 微生物の侵入を助長する因子, MSDマニュアルプロフェッショナル版, Access: 20230410.

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/13-%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E3%81%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6/%E5%BE%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E3%81%AE%E4%BE%B5%E5%85%A5%E3%82%92%E5%8A%A9%E9%95%B7%E3%81%99%E3%82%8B%E5%9B%A0%E5%AD%90

1) 天児 和暢, 目野 郁子, 有薗 剛, 細菌の莢膜, 電子顕微鏡, 1991-1992, 26 巻, 1 号, p. 10-15,

2) 刺繍ポケット形成と歯槽骨吸収、ビジュアル歯周病を科学する, Access: 20230410.

https://www.shien.co.jp/book/sample/s1/6206/pageindices/index1.html

3) Hanne Ingmer, Lone Brøndsted, Proteases in bacterial pathogenesis,
Research in Microbiology, Volume 160, Issue 9,2009,Pages 704-710.

4) Mistry D, Stockley RA. IgA1 protease. Int J Biochem Cell Biol. 2006;38(8):1244-8. doi: 10.1016/j.biocel.2005.10.005. Epub 2005 Nov 2. PMID: 16293440; PMCID: PMC7108436.

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