現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
腸内環境と免疫系の関係を深堀りする本シリーズ。前回までに、樹状細胞のもつ主要組織適合遺伝子複合体(MHC)と呼ばれる糖タンパク質による抗原提示を介して、ナイーブT細胞を分化誘導するお話をしてきました。
しかし、樹状細胞からの抗原提示だけが、ナイーブT細胞の分化誘導の因子ではないことも触れました。今回は、共刺激とサイトカインという、MHCとは別のナイーブT細胞へのシグナル伝達経路について扱います。
内容としてはだいぶニッチなお話になってきました。本シリーズを終える頃には、免疫応答についての深い理解が手に入っていることでしょう!では、早速本編に移ります。
この内容はPodcastでもお楽しみ頂けます。
共刺激とは、MHCを介したリンパ球に対するシグナル伝達と並行して行われる二次的なシグナル伝達です。具体的には、樹状細胞の細胞表面に発現している糖タンパク質と、ナイーブT細胞の細胞表面に発現している糖タンパク質が結合することでおこります。
樹状細胞側の共刺激にて結合する分子は、B7-1(CD80)かB7-2(CD86)分子です。B7とは膜タンパク質の一種を指します。CDとは、CD4+やCD8+でも登場したように、細胞表面の糖タンパク質を含めた抗原による細胞分類で用いられる表記です。
一方、T細胞に発現している糖タンパク質はCD28となります。ここで重要なのは、樹状細胞からの抗原提示がCD80やCD86を介して起こっていないことです。
前回お話した樹状細胞とナイーブT細胞のシグナル伝達では、樹状細胞のMHCとナイーブT細胞の受容体(T-Cell Receptor: TCR)が結合することで起こります。このシグナル伝達はシグナル1と呼ばれており、一方今回紹介した共刺激によるシグナル伝達はシグナル2と呼ばれています。
ここで重要なのは、シグナル1のみではT細胞の分化は進まず免疫寛容あるいは無反応であり、シグナル2のみでは変化が起きないことです(池水, 2003)。
シグナル1およびシグナル2が起きることが、T細胞の分化誘導には必須です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/43/5/43_5_240/_article/-char/ja/
池水 信二, 補助刺激分子B7-1/CTLA-4の構造生物学的研究, 生物物理, 2003, 43 巻, 5 号, p. 240-243.
ここでは、シグナル1およびシグナル2に次ぐ、シグナル3についてのお話をします。重要となるのは、サイトカインです。
サイトカインとは、細胞を意味するCytoと、作動物質を意味するKineに語源を持っています。免疫細胞から分泌されるタンパク質なので、樹状細胞からもT細胞からも分泌されてきます。
サイトカインには、多くの物質が含まれています。以下に例を示します。
インターロイキン:リンパ球やマクロファージが分泌するサイトカインであり、30種類以上が知られています。
インターフェロン:ウイルス感染時にリンパ球から産生されるサイトカインであり、抗ウイルス作用や抗腫瘍作用など様々な生理活性を示します。
ケモカイン:免疫細胞の走化性をコントロールするサイトカインであり、細胞の移動を促進します。
では、ここまでに出てきたシグナル1から3までの復習をします。
樹状細胞からT細胞の間で、抗原提示を行うのはシグナル1でした。シグナル1では、樹状細胞のMHCと抗原ペプチドが、ナイーブT細胞のTCRに結合することでシグナル伝達が生じます。ここで、MHCタイプIの場合はCD8+ナイーブT細胞、MHCタイプIIの場合はCD4+ナイーブT細胞へのシグナルを担当。樹状細胞は、MHCタイプIおよびIIを持っている点で、プロフェッショナル抗原提示細胞と呼ばれています。
ついで、抗原に関わらず行われるシグナル伝達がシグナル2でした。シグナル2は共刺激と呼ばれており、樹状細胞のB7-1やB7-2とナイーブT細胞のCD28が結合することでシグナル伝達が起こります。
最後に、樹状細胞からのサイトカイン分泌による遠隔のシグナル伝達がシグナル3です。
シグナル1から3のバランスで免疫応答の種類が決まっていきます。免疫系とひとくくりに表現しても、そこには様々な登場人物がいることを理解頂けたかと思います。
ヒトを始めとする生物は、高度に複雑化された免疫系を発達させることで、自己の機能を安定的に運用することを達成してきました。複雑なのは、それだけ多くの生命に対する脅威に、体内および体外から晒されていることを示しています。
次回、樹状細胞に関する機能を深堀りし、樹状細胞に関する解説は完結です。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。