#228 【病原性集中講義】Part11:細菌の宿主への侵入。ジッパー機構とトリガー機構。

更新日: 2023/04/14

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病原性集中講義の第11回は、病原体の1つである細菌が宿主へ接着してから侵入するまでのメカニズムについて解説していきます。病原体は、アドヘシンである繊毛やタンパク質を介した宿主への接着を行うことを、前回の講義でお話しました。

細菌が接着した後は、ジッパー機構やトリガー機構と呼ばれる仕組みで宿主内に取り込まれるようになります。正直、細菌の接着や侵入、そして次回にお届けする分泌のお話は超専門的であり、全人口の1%未満が知っている知識です。あえてここでその内容をお届けするのは、いつも聴いてくださっているリスナーの皆様と共に、腸内細菌研究の全盛となるこの10年を楽しみたいからです。皆で共に学んで、腸内環境での病原性発現に対する理解を深めて行きましょう!

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ジッパー機構

ジッパー機構では、細菌の表面に発現するタンパク質と、細胞膜上の受容体が結合し、覆い囲むように細胞が細菌を包み込みこむことで細胞内に侵入します。例えば、Listeria monocytogenesは菌体表面のInternalin Aを介して宿主細胞表面のE-カドヘリンが結合し、内部に取り込まれます1)。Yersiniaは、菌体表面のinvasinと細胞のintergrinが結合することで取り込まれます。

取り込まれる際に、細胞膜が細菌の周辺でジッパーのように閉じることからジッパー機構という名前がついています2)。ここで、取り込まれた後はファゴソームと呼ばれる膜構造に包まれます。

トリガー機構

トリガー機構では、細菌がエフェクター分子をIII型分泌機構によって宿主細胞に対して輸送することで、宿主細胞によってアクチンの再構成が起こり、ファゴソームによって取り込まれる機構です3)。アクチンの重合下で細胞膜がラメリポディアと呼ばれる波状の構造をとり、細胞外の物体を取り込む過程はマクロピノサイトーシスと呼ばれています4)。

したがって、細菌によるエフェクター分子の宿主細胞への輸送が引き金(トリガー)となってマクロピノサイトーシスが起こる機構が、トリガー機構になります。

赤痢菌は、Ipa遺伝子の産物である毒素をMxi-spa遺伝子の産物であるIII型分泌装置を介して宿主へと輸送することで、マクロピノサイトーシスが起こることが知られています1)。

ここまでお話したジッパー機構とトリガー機構によって、細菌は宿主へと侵入します。超絶マニアックなお話でした。

次回は、病原体の毒素などの分泌装置についてお話して、病原性集中講義における病原体のパートを締めくくります!

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今日も、お疲れさまでした。
また次回、お会いしましょう!

参考文献

1) 吉倉廣, 微生物学講義録 第18章細菌感染症 18-3-5:細菌の宿主細胞への侵入. Access: 20230413, URL: http://jsv.umin.jp/microbiology/main_018.htm

2) How do bacteria modulate the host cytoskeleton?, MBINFO, Access: 20230413, URL: https://www.mechanobio.info/pathogenesis/how-do-bacteria-modulate-the-host-cytoskeleton/.

3) 相川知宏、A 群レンサ球菌感染による細胞死とオートファジー制御機構の解析, Access: 20230413, file:///Users/ds/Downloads/K-03015_1.pdf.

4) 用語解説, 生物物理, 2022, 62 巻, 1 号, p. 66, 公開日 2022/03/25.

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