#16 腸内細菌と人工甘味料の戦い Part2:腸内細菌が人工甘味料を食べる

更新日: 2022/09/07

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現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。

今回は、前回に引き続いて人工甘味料に関するトピックをお届けします。前回は、人工甘味料の歴史や性質についてお話しました。ここで振り返ると、人工甘味料は分子の構造として舌が甘みを感じるようにできているが、グルコースを含んでいないので血糖値は上がらないということでした。また、グルコースなどの糖から人工甘味料に代替されてしまうと、糖代謝能力が落ちたり、下痢や軟便が引き起こされてしまうという問題点も有りました。

ここでは、下痢や軟便が引き起こされることについて、腸内細菌の観点から迫った研究を紹介していきます。

今回の内容は、ポッドキャストからもお楽しみ頂けます。

https://open.spotify.com/episode/0InCpl4VgFj3D6EQwxRSMh

人工甘味料の一種である糖アルコールの問題点

人工甘味料は、人工的に合成した甘味料です。ですから、人工的に合成してさえすれば、自然界に存在する糖であっても人工甘味料になります。これに対して、自然界に存在しない、合成された糖を合成甘味料と呼び、例えばサッカリンなどは合成甘味料の一種です。

今回注目するのは、サッカリンのような合成甘味料ではなく、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコールです。こちらは自然界に存在しますが、甘みや血糖値、機能の観点からお菓子や料理、薬剤など、幅広い用途に使われています。

ちなみに、アルコールという名前が入っていますが、酔っ払うわけでは有りません。有機化学では、化合物を分類する際に特徴的な原子団、構造に対して名前をつけるのですが、ヒドロキシル基と呼ばれる酸素と水素がつながった構造に対してアルコールと呼んでいるのです。ですから、酔っ払う元となるエタノールも、もちろんエタンにヒドロキシル基、つまり酸素と水素からなる構造を含んでいます。ヒドロキシル基をもつ化合物の名前には、末尾にオール、という名前をつけることがルールです。ですから、アルコール、エタノール、キシリトール、あとは最近話題のCBD、正式名称でカンナビジオールも、アルコールの構造を持っています。

機能の優れた糖アルコールですが、一部の方は糖アルコールを摂取することで下痢や軟便などの症状を示します。この、個人差の部分を腸内細菌の観点から調査していきます。

研究の方法と結果について

ここでは、糖アルコールとしてソルビトールを使用しています。お菓子などにもよく用いられており、ソルビットやグルシトールとも呼ばれます。実験には、マウスを用います。

まずは、無菌マウスと呼ばれる腸内細菌を持たないマウスにソルビトールを投与しました。通常のマウスに投与した際には無症状でしたが、無菌マウスは重度の下痢を発症しました。

続いて、異なる抗生物質を投与して腸内細菌の一部を死滅させたマウスに対してソルビトールを投与しました。抗生物質とは、細菌に対して毒性をもつ物質で、感染症発症や腸内細菌の制御、家畜の体重増加のために使用されています。すると、一部の抗生物質を投与したマウスでは、ソルビトールを添加することで下痢を発症しました。ここから、特定の腸内細菌が、下痢の抑制に関係していると推測されいます。

では、どの腸内細菌が下痢の抑制に関係しているのでしょうか?そこで、特定の抗生物質を投与したマウスの腸内細菌を解析したところ、Enterobacteriales 目または Clostidiales 目の細菌群の相対存在量が大きいことが分かりました。またソルビトールの投与をすることで、Enterobacteriales 目の細菌群が増えたことから、Enterobacteriales 目の細菌群がソルビトールと下痢の抑制に関係していることが示されました。

ここで、目という分類は比較的広い分類群ですので、より詳細に解析ができます。人でいうと、種がホモ・サピエンスであるのに対して、目は霊長目です。霊長目には、私達以外にもメガネザルやオマキザル、キツネザルなどが含まれます。もっと細かく調べられるということを、直感的におわかり頂けたと思います。

ソルビトールを資化できる、つまり代謝して利用できるEnterobacteriales 目の細菌と、そうでない細菌を無菌マウスに定着させて、ソルビトールを添加しました。すると、ソルビトールを資化できる大腸菌がいると下痢を発症せず、それ以外だと下痢を発症したのです。大腸菌が、ソルビトールを食べてくれるので、下痢を発症しなかったということになります。

最後の確認として、大腸菌のソルビトール代謝遺伝子を、ノックアウト、つまり機能を欠落させて、ソルビトールを与えました。すると、一部の遺伝子をノックアウトした大腸菌はソルビトールを資化できませんでした。最後に、特定の遺伝子をノックアウトした大腸菌を無菌マウスに定着させてソルビトールを与えたところ、下痢が起こりました。

まとめると、ソルビトールを利用する機能をもつ腸内細菌を持たないと、下痢を発症する、ということになります。本研究は、非常に丁寧に実験と解析を行っている好例で、お手本となる研究でしたね。もし、人工甘味料を摂取すると下痢になる方は、腸内細菌を調べてみると原因がわかるかもしれませんね。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

原著論文

https://www.mdpi.com/2072-6643/13/6/2029

Hattori, K.; Akiyama, M.; Seki, N.; Yakabe, K.; Hase, K.; Kim, Y.-G. Gut Microbiota Prevents Sugar Alcohol-Induced Diarrhea. Nutrients 2021, 13, 2029. https://doi.org/10.3390/nu13062029

プレスリリース

https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2021/6/18/210618-2.pdf


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