#157 腸内細菌叢と上皮細胞のクロストーク。

更新日: 2023/02/02

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毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードでは、腸管上皮細胞の代謝に腸内細菌叢がどのような影響を与えているかについてお話していきます!腸管上皮細胞は、ヒトの組織内に腸内細菌や消化産物などが侵入しないように緊密な連携を取り、腸管バリアを形成することをお話してきました。腸管バリアを細かく見ていくと、そこには上皮細胞間の密着結合(タイトジャンクション)と呼ばれる構造が存在すること、タイトジャンクションの損傷が腸管透過性の増加を促し、リーキーガットの状態になることをお話してきました。現在、様々な研究で、腸内細菌と腸管上皮細胞間のコミュニケーションについても調査されていて、腸内細菌は腸管バリアの成り立ちに必須であることが明らかとなってきています。今回は、2017年Muらの、"Leaky Gut As a Danger Signal for Autoimmune Diseases"というレビュー論文を元に、お話していきます!

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

腸内細菌と上皮細胞のクロストーク

腸内細菌と上皮細胞を含めた宿主の間で行われる物質的なシグナル伝達は、クロストークと呼ばれます。異なる生物の間で成り立つコミュニケーションです。

現在、細菌は腸管バリアの形成に不可欠であることが明らかとなっています。無菌マウスを用いた実験では、細菌が存在しないことで粘液層の厚さが極端に減少することが明らかとなっています。粘液層は、上皮細胞から分泌される粘性の高い液体=粘液によって形成され、組織への腸内細菌を含めた異物の侵入を防ぎます。したがって、無菌状態だと異物への侵入に対して脆弱な腸内環境となってしまうのです。一方で、無菌マウスに対して腸内細菌を投与することで、粘液層が修復されることが明らかとなっています1) 。したがって、腸内細菌は、私達と外界の適度な距離感でのコミュニケーションを行う上で、重要であるといえます。

粘液層だけではなく、抗菌活性物質の分泌にも腸内細菌叢は重要です。上皮細胞の一種であるパネート細胞が抗菌活性物質を分泌することによって、腸管バリアは形成されます。抗菌活性物質(RegIIIγ)は、乳酸菌であるLactobacilliやBifidobacteriaが増えることで、抗菌活性物質の分泌を回復させることが明らかとなっています2)。また、パネート細胞からの別の抗菌活性物質(Ang4)に関する研究では、Bacteroides thetaiotaomicronが産生と分泌に関与するとされています。

腸内細菌と密着結合

では、#154にて紹介した密着結合と腸内細菌はどのように関係しているのでしょうか?ここでは、腸内のアルカリホスファターゼと呼ばれる酵素が重要になってきます。アルカリホスファターゼは、抗菌活性物質として腸内細菌と相互作用をすることが知られています。したがって、アルカリホスファターゼの分泌量が変化すると、腸内細菌叢が変化すると考えられます。アルカリホスファターゼと腸内細菌叢の関係は複雑で、腸内細菌叢もアルカリホスファターゼの分泌量に影響を与えます。無菌のゼブラフィッシュを用いた研究では、腸内細菌の定着か、腸内細菌に由来するリポ多糖が、アルカリホスファターゼの分泌に重要であると示唆されています。

そして、アルカリホスファターゼには、ZO-1やZO-2などの、密着結合の主体となるタンパク質であるクローディンの細胞質内裏打ちタンパク質、密着結合を構成するタンパク質の一種であるオクルディンの発現量を増加させることが明らかとなっています。抗菌活性物質が、粘膜上皮における密着結合に重要になるのです。

ここまでに、腸内細菌が与える腸管バリアへの影響についてお話してきました。腸内細菌は腸管バリアの成り立ち、特に粘液層の形成、抗菌活性物質や密着結合の形成に重要であることが既存の研究より明らかとなっております。

では、腸管バリアに重要な腸内細菌叢ですが、食事やストレスなどの環境要因によってリーキーガットが生じた場合には、私達の体に対してどのような影響を与えるのでしょうか?リーキーガットになると、結果として血流に細菌および細菌由来の物質が流入することに繋がり、全身での炎症を誘発する可能性があります。これを、Microbial Translocationと呼びます。細菌が臓器間を移動するという意味ですね。

次回は、リーキーガットになった場合の、腸内細菌叢と腸内環境の関係についてお話します!

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Mu Q, Kirby J, Reilly CM, Luo XM. Leaky Gut As a Danger Signal for Autoimmune Diseases. Front Immunol. 2017 May 23;8:598. doi: 10.3389/fimmu.2017.00598. PMID: 28588585; PMCID: PMC5440529.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5440529/

1) Johansson ME, Jakobsson HE, Holmén-Larsson J, Schütte A, Ermund A, Rodríguez-Piñeiro AM, Arike L, Wising C, Svensson F, Bäckhed F, Hansson GC. Normalization of Host Intestinal Mucus Layers Requires Long-Term Microbial Colonization. Cell Host Microbe. 2015 Nov 11;18(5):582-92. doi: 10.1016/j.chom.2015.10.007. Epub 2015 Oct 29. PMID: 26526499; PMCID: PMC4648652.

2) Yan AW, Fouts DE, Brandl J, Stärkel P, Torralba M, Schott E, Tsukamoto H, Nelson KE, Brenner DA, Schnabl B. Enteric dysbiosis associated with a mouse model of alcoholic liver disease. Hepatology. 2011 Jan;53(1):96-105. doi: 10.1002/hep.24018. Epub 2010 Dec 10. PMID: 21254165; PMCID: PMC3059122.


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