#229 【病原性集中講義】Part12: 細菌の分泌装置。

更新日: 2023/04/15

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病原性集中講義第12回は、本講義の病原体に関する内容の締めくくりとして、細菌の分泌装置についてお話をします。これまでに、細菌は細胞表面にアドヘシンをもつことで宿主への接着を行い、ジッパー機構やトリガー機構によって宿主へ侵入することをお話してきました。また、細菌を含めた病原体は外毒素、内毒素、遺伝毒素などを産生することを通じて、宿主の組織を傷害することも見てきました。ここで、トリガー機構ではエフェクター分子を宿主へ送り込むことでマクロピノサイトーシスを引き起こすことを思い出してください。また、タンパク質である外毒素を分泌できることを思い出してください。

これらの分子を、病原体はどのようにして細胞外へ分泌しているのでしょうか。実は、外毒素やエフェクター分子を放出する細菌の表層には膜透過装置や分泌装置と呼ばれる分子機械が備わっており、これによって特定の分子の分泌を遂行しています。今回は、細菌の膜透過装置と分泌装置に焦点を当ててお話をしていきます。

内容は、阿部章夫先生の"病原細菌の分泌装置:その機能と病原性発揮のメカニズム"を参考にお話していきます。

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グラム陽性細菌とグラム陰性細菌

細菌は、グラム陽性細菌とグラム陰性細菌に分けることができます。グラム陽性およびグラム陰性は、グラム染色と呼ばれる細胞の表層をクリスタルバイオレットという分子で染色することで細菌を分類する手法により区別され、グラム染色で表層が染められる場合をグラム陽性、染められない場合をグラム陰性として区別します。

グラム染色で用いるクリスタルバイオレットは、その名の通り紫色の試薬になります。したがって、グラム陽性の場合には細胞が紫色、グラム陰性の場合には細胞が赤色に染められます。

ここで、染色に関する特性の違いは、細胞の表層構造の違いに由来します。グラム陽性細菌では、細胞膜の外側にペプチドグリカンと呼ばれる糖とペプチドを主体とする高分子を細胞壁としてまとい、その厚みがあるため染色されます。一方、グラム陰性細菌は、細胞膜(内膜)の外側を覆うように外膜と呼ばれる構造が存在し、内膜と外膜の間には薄いペプチドグリカンの層が存在するとともに、ペリプラズム間隙と呼ばれる空間が存在します。

したがって、グラム陽性細菌では、細胞膜を物質が通り抜けることで外界への物質輸送ができるのに対して、グラム陰性細菌では、内膜と外膜を通り抜けることで物質輸送が可能になります。このように、細菌のもつ膜構造に応じて物質の経る分泌の過程が異なるのです。

膜透過装置と分泌装置

ここで登場するのが、膜透過装置と分泌装置です。代表的な膜透過装置は2種類、分泌装置は7種類が報告されています。

膜透過装置

代表的な膜透過装置は、Sec膜透過装置とTat膜透過装置です。グラム陽性細菌においては、膜透過装置が細胞膜に存在することで、タンパク質が細胞の外へ分泌されていきます。

膜透過装置は、細胞内外のシグナルに応じて閉じたり開いたりすることで、タンパク質を選択的に分泌することが可能です。

分泌装置

分泌装置は、グラム陰性細菌において特に重要です。代表的な分泌装置は、I型-VII型まで知られており、それぞれ特徴的な構造をもっています。一般的に、分泌装置はタンパク質の特定のシグナル配列を認識することで、特定のタンパク質の能動輸送を行います。

グラム陰性細菌は、膜透過装置を介したタンパク質の輸送も行いますが、この場合にはグラム陽性細菌とは異なり外膜も別で透過する必要があるため、2ステップで細胞内から細胞外へとタンパク質は透過されます。2ステップの分泌経路に該当するのがII型およびV型分泌装置による経路です。例えば、接着の講義で登場したTrimeric Autotransporter AdhesinはV型分泌装置です。

一方、I、III、IV、VI型分泌装置は1ステップで物質輸送を行いますが、これは内膜と外膜を貫通する分泌装置が存在するためです。特に、III、IV型分泌装置は、細胞外に針状の構造物を発達させることで、宿主細胞内に毒素やエフェクター分子を注入することが考えられています。

この場合には、毒素の講義でお話した細胞表面に孔を開ける毒素ー膜孔形成毒素が宿主細胞に対して働くことも重要であると考えられています。

このように、分泌装置は物質の分泌にとどまらず注入までもを宿主細胞にして行うというのは、精巧な仕組みであるため驚くと同時に恐ろしいですね。

今回は、細菌からのタンパク質の分泌において重要な、膜透過装置および分泌装置について、詳しくお話しました!

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また次回、お会いしましょう!

参考文献

阿部 章夫, 病原細菌の分泌装置:その機能と病原性発揮のメカニズム, 感染症学雑誌, 2009, 83 巻, 2 号, p. 94-100.

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