毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回のエピソードでは、炎症性腸疾患患者の腸内でおこる、腸内細菌との関係の崩れについてお話します。腸内細菌は、生後間もないときから腸内に定着がスタートし、一生を通して私達の健康に影響を与える存在です。腸内細菌のおかげで、腸内環境の免疫機能や腸管バリアが正常に構築され、難消化性の栄養素の消化もできることが知られています。しかし、腸内細菌と私達は違う生物であり、腸管バリアがある通り私達の体とは区別される存在です。腸内細菌といえど、体内に侵入すると炎症応答が起こり、体の外へ排除されようとします。
炎症性腸疾患の方の腸内では、腸内細菌との関係が崩れることによって、炎症応答が引き起こされることが指摘されています。つまり、腸内細菌が健康に悪影響を与えているのでは無いかという仮説です。
そこで、今回のエピソードでは、炎症性腸疾患の腸内でおこる、腸内細菌との関係について調査した研究をまとめてみていきましょう!
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まずは、炎症性腸疾患の中でもクローン病に着目した北海道大学の研究についてご紹介します。本報告の詳細は、北海道大学の綾部先生らが報告した2020年の"Life Science Alliance"に掲載されている"Paneth cell α-defensin misfolding correlates with dysbiosis and ileitis in Crohn’s disease
model mice"からご確認いただけます1)。
この研究では、クローン病のモデルマウスについて、小腸上皮細胞の一種であるパネート細胞において、タンパク質がうまく折りたたまれない状態にあることを発見しました。タンパク質がうまく折りたたまれないことで、正常な機能を果たさないタンパク質が蓄積し、ストレス(小胞体ストレス)がかかることになります。
パネート細胞は、本来ディフェンシンなどの抗菌ペプチドを分泌することで、腸管バリア機能を維持しています。しかし、ストレスがかかったパネート細胞では、異常なディフェンシンが分泌されることが明らかとなりました。
ディフェンシンは、正常な腸内細菌叢を維持する上で重要です。クローン病のモデルマウスでは、異常なディフェンシンの分泌によって腸内細菌叢のバランス不全=ディスバイオシスが引き起こされ、クローン病に類似の炎症が引き起こされることを明らかにしています。ここでの仮説としては、クローン病の患者腸内ではパネート細胞へのストレスがかかることで、腸内細菌叢のバランス不全がおこり、結果として腸内の炎症が引き起こされるということです。
ここまでのお話について、詳細は北海道大学のプレスリリースからご確認いただけます2)。
腸内細菌との関係が崩れる現象は、クローン病だけでなく潰瘍性大腸炎でも確認されています。続いては大阪大学の研究をご紹介します。
続いては、大阪大学の奥村龍特任研究員、竹田潔教授らのグループが2016年にNatureで公開した、"Lypd8 promotes the segregation of flagellated microbiota and colonicepithelia"について研究と成果の概要をお話します3)。
この研究の中心的な存在は、Lypd8と呼ばれる大腸の上皮細胞から分泌されるタンパク質です。研究を進める中で、健康な方の大腸では、Lypd8が分泌されていますが、潰瘍性大腸炎の大腸では発現量が著しく低いことが明らかとなりました。
では、Lypd8はどのような役割を担うのでしょうか。本研究では、Lypd8の機能として、鞭毛により運動性を獲得する腸内細菌の鞭毛に結合し、運動性を低下させることを明らかにしました。Lypd8が腸内細菌の運動性を低下させることで、腸内細菌が腸管バリアに侵入するのを防いでいます。
腸管バリアは、様々な要素で構成されますが、要素の一つに粘膜上皮から分泌される粘液の存在があります。粘液が腸管を覆うことによって、粘液層と呼ばれる層構造を形成し、腸内細菌が体内に侵入しにくい仕組みを作っています。粘液層の中でも粘膜に近い内粘液層には腸内細菌がほとんど入り込まないことが分かっていますが、Lypd8の遺伝子機能を失ったモデルマウスの内粘液層には腸内細菌が侵入することが明らかとなりました。
この研究から、潰瘍性大腸炎の患者腸内でもLypd8の分泌量が極端に低下することで、腸内細菌の運動性が腸管バリアでも損なわれずに炎症が起こっていることが仮説として考えられます。
潰瘍性大腸炎、クローン病と腸内細菌叢にまつわる研究を見てきましたが、いかがでしたか?いずれの研究においても、腸内細菌との適切な関係が崩れることによって炎症が惹起されていることが分かっていただけたと思います。
今後、腸内細菌についての研究が進むことで、難病である炎症性腸疾患の創薬ターゲットの新たな候補が増え、炎症性腸疾患が不治の病ではなくなることに大きな期待をしています!
以上、炎症性腸疾患で崩れる腸内細菌との関係についてお話しました。
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本日も一日、お疲れさまでした。
1) Shimizu, Yu et al. “Paneth cell α-defensin misfolding correlates with dysbiosis and ileitis in Crohn's disease model mice.” Life science alliance vol. 3,6 e201900592. 28 Apr. 2020, doi:10.26508/lsa.201900592
2) 抗菌ペプチドの異常による腸炎発症メカニズムを解明
~クローン病など腸内細菌の異常を伴う疾患の新たな治療法開発に期待~, 北海道大学、2020/4/30、Access: 2023/02/23,
https://www.hokudai.ac.jp/news/pdf/200430_pr.pdf
3) Okumura, Ryu et al. “Lypd8 promotes the segregation of flagellated microbiota and colonic epithelia.” Nature vol. 532,7597 (2016): 117-21. doi:10.1038/nature17406