現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。
腸内環境を理解するために必要な生物学の入門講座も第8回目に突入です。前回までに、私達の祖先を知る上で核酸=DNAについて考えることの重要性についてお話してきました。今回からは、私達や微生物のアイデンティティとも呼べる塩基配列の決定方法について、詳しく解説しています。
本エピソードでは、DNAに遺伝情報を宿す仕組みである塩基配列の相補性や、DNAを成り立たせる上で重要なホスホジエステル結合、次回にお話する塩基配列を読む技術で必要になる制限酵素についてのお話をします。
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!
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DNAを読む技術についてお話する前に、DNA自体についての復習と、詳細な構造についてのお話をしていきます。
DNAは高分子です。高分子とは、構造単位となる分子=モノマーが連結してできる巨大分子です。DNAの構造単位は、ヌクレオチドです。DNAを構成するヌクレオチドは、糖としてのデオキシリボース、リン酸、塩基が繋がった分子です。では、ヌクレオチド同士は、どのように結合することで、DNAという高分子を形作っているのでしょうか?
ヌクレオチド同士は、ヌクレオチドのもつリン酸の酸素と、別のヌクレオチドのもつデオキシリボースの水酸基が結合して、ホスホジエステル結合と呼ばれる結合を形成することにより成り立っています。リン酸がなかだちしているので、Phosphateのホスホという名前がついています。また、2つのエステル結合が、リン酸と自身のデオキシリボースおよび別のデオキシリボースで形成されているので、2を表すdiとエステル結合でジエステル結合となります。ここで、DNAの塩基配列を読む技術では、デオキシリボースの水酸基が重要な役割を果たすので覚えておいて下さい!
ホスホジエステル結合によって強固に繋ぎ止められたヌクレオチドが、伸長したのがDNAとなります。
DNAには、もう一つ重要な性質があります。相補性です。相補性についてお話をする前にシャルガフの法則についてお話します。シャルガフの法則、またはシャルガフの経験則とは、各生物のDNAを構成するヌクレオチドの塩基である、アデニン、グアニン、シトシン、チミンの比率についての法則です。具体的に、シャルガフの法則とは、アデニンとチミン、グアニンとシトシンの含有比率がほぼ同じであること、DNAを構成する塩基の比率が生物によって異なるという法則です。
特に、アデニンとチミン、グアニンとシトシンの含有比率がほぼ同じであることは、何を意味するのでしょうか。以前、2本のDNAが2重らせん構造を取っていると、 2本のDNAを塩基間の水素結合が結びつけていることについてお話しました。そこで、水素結合という分子間の静電気的な結合を引き起こす塩基のペアは決まっており、アデニンはチミンと、グアニンはシトシンとペアとなって結合していることが分かっています。このようにして、各塩基の間にペアが存在するからこそ、アデニンとチミン、グアニンとシトシンの含有比率が同じであるというシャルガフの法則は成り立っているのです。
これは、2重らせん構造を構築するDNAの1本の塩基配列が分かれば、もう片方の配列も自動的に決定できることを示しています。つまり、片方のDNAについてアデニンであることが示せれば、もう片方のDNAの塩基はチミンであることが分かるのです。
このように、2重らせん構造を構成する2本のDNAは、お互いの情報を補い合うことができます。このような、塩基配列において片方が分かれば、もう片方も分かるようなDNAの性質を相補性と呼びます。DNAの相補性は、細胞分裂の際にDNAが複製されるときの複製様式である半保存的複製にも重要な役割を果たします。
ここまでに、DNAの性質や材料についてのお話をしてきました。続いて、DNAを視るために重要となる制限酵素のお話をしていきます。
唐突に出てきた制限酵素ですが、何者なのでしょうか?今からこの酵素の機能について説明を加えますが、次回のお話で必要になる酵素なので、現時点では必要性を理解できなくても大丈夫です。
制限酵素とは、DNAの特定の塩基配列を認識して、DNAの分子鎖を切断するような酵素です。制限酵素は数多くの種類が存在しており、AGCTの塩基配列を切断してAGとCTにする酵素など1*、切断したい領域によって制限酵素を使い分けることができます。いわば、DNAのハサミが制限酵素です。
ここでお話したのは狭義=狭い意味での制限酵素ですが、広義としてはDNAを切断する酵素を指します。制限酵素にはI-III型まであり、IとIII型は切断する塩基配列が一定では無いのに対して、II型は一定です2*。DNAを切断する場所を知りたい場合にはII型の制限酵素を使うのです。
この酵素は、細菌がバクテリオファージと呼ばれる細菌特異的に感染するウイルスに対して発達させた仕組みに由来しており、細胞内の非自己=ウイルスに由来するDNAを分解することで、ウイルスの増殖を制限することからこの名前がついています2*。機能としては、核酸を分解するのでヌクレアーゼに分類されます。核酸がnucleic acid、酵素がaseなのでヌクレアーゼです。本来は、細胞内で増殖したウイルスのDNAに対して働く内側に向けた酵素なので、制限酵素は内側を意味するendo-の接頭辞を冠したエンドヌクレアーゼに分類されます。
このハサミを利用して、DNAの塩基配列を読み解いていきます。
DNAの構造と制限酵素について詳しくお話してきました。科学者は今、DNAの材料とDNAを操るハサミとしての制限酵素を手に入れたと言えます。次回は、これらの知識を生かして、DNAを視る技術であるサンガー法についてのお話をしていきます。
現在でも、サンガー法に使われている要素技術がDNAの塩基配列を読むために活用されています。天才科学者の考えた、DNA解読技術についてのお話をお楽しみに!
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
*1 J.E. McMURRY, E.E. Simanek (2007), Fundamentals of ORGANIC CHEMISTRY 6th edition, 16・14 DNAの配列決定, 483. 訳) 伊藤椒, 児玉三明.
2* 制限酵素(restriction enzyme)、東邦大学、Access: 2022/11/06.
https://www.toho-u.ac.jp/sci/biomol/glossary/bio/restriction_enzyme.html