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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回は、前回に引き続いて室長が参加してきた第96日本細菌学会総会にて出会った興味深い研究例をご紹介します。研究内容は、人工呼吸器に付着した細菌に関連して発症する肺炎、通称VAPを起こす細菌の進化についてです。
本研究概要は、第96回日本細菌学会総会の抄録集から確認することができます1)。本研究は、"ゲノム変化により駆動される病原性スイッチ"のワークショップにおいて"人工呼吸器関連性肺炎を模し実験進化させた Acinetobacter baumannii の病原性解析"として発表されました!
本研究は、腸内細菌や腸内環境とは離れてきますが、"進化による細菌の機能獲得を通して病原性が発現する"という考え方は、今後重要になってきます。そして何よりも興味深い研究成果なので、ぜひ皆様にご紹介させてください。
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まずは、本研究の問題意識から説明します。
問題意識としては、院内感染事例で問題となる人工呼吸器関連性肺炎(ventilator-associated pneumonia:VAP)です。本疾患は、気管挿入チューブという医療器具に付着した細菌が原因となって起る肺炎です。VAPは気管挿入から48時間以上経過した後に発生する肺炎であり、原因菌としてはグラム陰性桿菌や黄色ブドウ球菌が一般的です2)。
本研究で注目しているAcinetobacter baumanniiは、グラム陰性桿菌の一種であり、健常者の皮膚にも存在する常在菌として知られています。Acinetobacter属菌は、日和見感染菌として化膿性感染症を引き起こすことで知られており、乾燥した表面でも最長1ヶ月にわたって生存できるとされています3) 。Acinetobacter属菌による感染の中でも、A. baumannii菌(バウマニ菌)による感染が全体の約8割を占めます4)。
本研究では、興味深い仮説を立てています。その仮説とは次の通りです。
つまり、全ての日和見感染菌がVAPを引き起こすのではなく、日和見感染菌の中でも気管挿入チューブに付着できる日和見感染菌という一種の選択圧がかけられた結果生じる細菌について、VAPを引き起こすのでは無いかという仮説です。これは、バイオフィルム形成能力と病原性の関連を考えるとわかりやすい仮説です。
仮説を検証するために、まずは気管挿入チューブを培地に入れて、バウマニ菌と共培養します。続いて、培地から気管挿入チューブを取り出してそこに付着している細菌を再度、気管挿入チューブと共培養します。これを繰り返すことで、気管挿入チューブに接着するバウマニ菌に有利な選択圧をかけて、実験進化を促します。結果、気管挿入チューブに付着性の高いバウマニ菌株の樹立に成功しました。
続いて、接着性の高いバウマニ菌と野生株の病原性評価を、バイオフィルム形成能力やマウスへの感染能力の観点から評価しました。すると、接着性の高いバウマニ菌についてはバイオフィルム形成能力が増加し、マウスへのはい定着能力が野生株と比較して増加することが確認されました5)。
さらに、易感染性のモデルマウスに対しての病原性は非常に高く、免疫抑制剤であるシクロホスファミドにより免疫不全にしたモデルマウスに対して本細菌を投与したところ、肺炎を発症した後に全身性播種と敗血症を引き起こし、全てのマウスの死亡が観察されました。
本研究成果から、院内において病原性の高い細菌が発生するメカニズムの一例を実験進化により示しました。チューブの材質や菌の種類については検討が未だされていないようですが、今後論文発表の際には多くの情報が加わっていることを期待しています。
個人的には、プラスチック製のコップやマウスピースでも、同じようなことが起きているのでは無いかと思ったり思わなかったりしています。
環境中の細菌が病原性を獲得することを実験進化から示した、興味深い研究についてのご紹介でした!
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また次回、お会いしましょう!
本日も一日、お疲れさまでした。
1) W13-2 人工呼吸器関連性肺炎を模し実験進化させた Acinetobacter
baumannii の病原性解析, ワークショップ, 日本細菌学雑誌, 2023, 78 巻, 1 号, p. 37-61.
2) 人工呼吸器関連肺炎, MDSマニュアルプロフェッショナル版、Access: 20230328.
3) アシネトバクター(Acinetobacter)感染症、Access: 20230328.
4) Wong D, Nielsen TB, Bonomo RA, et al: Clinical and pathophysiological overview of Acinetobacter infections: A century of challenges.Clin Microbiol Rev 30(1):409–447, 2017.doi: 10.1128/CMR.00058-16.
5) 山口 大貴ら, 実験進化を用いたAcinetobacter baumannii 環境適応株の樹立と病原性解析, The 141st Annual Meeting of the Pharmaceutical Society of Japan (Hiroshima). March 26th-29th, 2021, Access: 20230328, URL: https://confit.atlas.jp/guide/event-img/pharm141/27V07-pm-05/public/pdf?type=in