#23 善玉菌優勢の腸内細菌叢にするには?

更新日: 2022/09/14

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現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

今回は、善玉菌優勢の腸内細菌叢にするにはどうすれば良いのか?ということをテーマにお話します。ここで、善玉菌とは専門的な用語では無いことを予めお断りしておきます。

今回の内容は、TwitterでYuki様から頂いた質問を元に構成しております。ご質問ありがとうございます!
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今回の内容はPodcastでもお楽しみ頂けます!

https://open.spotify.com/episode/3799ZKlLDW5iAdb6RMax5F

善玉菌を定義するのは難しい

人の健康に対して良い影響を示すか、悪い影響を示すかというのは難しい問題で、科学的に決定することは難しいです。例えば、球菌や桿菌などは細菌の形状によって、グラム陽性細菌やグラム陰性細菌はある薬品に染まるかどうか、好気性や嫌気性は酸素存在下で増殖できるか否かと、測定による定義が簡単です。しかし、健康に良いか悪いかというのは、健康の定義自体が難しく、善玉菌や悪玉菌という決定が本来は難しいのです。

このことを踏まえた上で、腸内細菌学会の公開している善玉菌と悪玉菌の記述を確認してみましょう。

これらの呼称は学術的な用語ではなく俗称ですが、一般的には整腸作用などヒトにとって有用な働きをする乳酸菌やビフィズス菌などを「善玉菌」、病気や食中毒の原因となる細菌であるウエルシュ菌や一部のサルモネラ菌などを「悪玉菌」、いずれにも分けられない腸内細菌を「日和見菌」と呼んでいました。しかしながら、日和見菌と考えられていた腸内細菌にもヒトにとって有用な働きをする菌がいるなど、一概に分類することが難しいことが分かってきました。

公益財団法人 腸内細菌学会
腸管内にすむ善玉菌、悪玉菌、日和見菌とは何ですか?
Accessed: 2022/09/04

腸内細菌学会は善玉菌に乳酸菌を上げているので、これに倣って本記事でも善玉菌≒乳酸菌として議論を進めます。

腸内細菌叢へ目的の細菌を定着させることは難しい

それでは、本記事の問である"善玉菌優勢の腸内細菌叢にできるのか"について考えます。これはすなわち、何らかの介入によって腸内細菌叢を変化させることに同じです。介入とは、習慣改善やプロバイオティクス等の摂取などを指します。

ここでは、善玉菌を定着させることの難しさからお話します。

以前お話したとおり、プロバイオティクス等の摂取による細菌の腸内への定着は難しいことが知られています。これは、定着抵抗性という腸内細菌の性質によるもので、プロバイオティクスとして摂取した菌の多くは通過菌として便中に排出されます。

https://note.com/chonai_saikin/n/n8c8e13e3b08b

定着の難しさの理由は他にもあります。一般的に、①唾液には1 mLに約1億個の細菌が存在するのに対して、胃内では胃酸の影響で内容物1 gに対して約10個の細菌しか存在しなくなり、②消化酵素の影響によっても細菌の生育が難しい状況が口腔から十二指腸にかけて続くのです(参考文献は文末に記載)。

定着抵抗性と消化によるバリアを乗り越えて、腸内細菌叢への善玉菌の定着は可能になります。

難しいからといって不可能なわけではない

前節までに、善玉菌の腸内細菌叢への定着の難しさについてお話してきました。しかし、難しいことは不可能であることを意味しません。

現在、乳酸菌などの善玉菌を腸内に定着させる試みは研究段階です。ですから、善玉菌を腸内に定着させる一般的な方法は無いと言えます。これを踏まえた上で、複数の研究例をご紹介します。結論から言うと、善玉菌を腸内環境へ存在させることはできそうだ、ということです。定着ではなく、存在というのが重要です。

まずは以前もご紹介したマウスについてのプロバイオティクスの研究です(#6)。この試みでは、プロバイオティクス(乳酸菌5種類:Lactobacillus acidophilus LA11-Onlly, Lacticaseibacillus rhamnosus LR22, Limosilactobacillus reuteri LE16, Lactiplantibacillus plantarum LP-Onlly, Bifidobacterium animalis subsp.lactis BI516)を組み合わせて摂取することを検討しています。ここでは結果を再掲します。

https://note.com/chonai_saikin/n/nac5e41173451

  • L. acidophilusは長期間マウス腸内にコロニー形成できない

  • L. plantarumは、低用量と高用量の両方で存在量が増加:コロニー形成は低濃度でより良好であった

  • 高用量のグループでL. rhamnosusの存在量が増加

  • L. reuteriは短期間しか腸内に定着しない

  • B.lacticは、低用量では徐々に増加。高用量ではB. lacticの腸管内コロニー形成能は低用量群ほど良好ではない

ここから、菌によって定着性は違えど、定着しやすい菌もあるということが分かりました。

続いては、研究例をまとめたレビュー論文からの結果です。
8つの研究をまとめ、試験終了時の乳酸菌シロタ株のコロニー形成を評価し、6件では試験期間後の持続性についても検討されています。すると、ほぼすべての研究で、補給期間中および補給終了時に採取した便サンプルにシロタ株のDNAまたはRNAが検出されることが示されました。また、いくつかの研究結果から、生きたシロタ株が便サンプルに含まれることが明らかとなりました。しかし、試験期間後のさまざまな時点(介入後の洗浄から1週間から6カ月まで)で検査しても、ボランティアの便サンプルからシロタ株が検出されないことが示され、摂取したプロバイオティクス菌株が腸内に持続するには、日常での消費が必要だということが示唆されています。

しかし、腸内細菌叢が変化するかという点も重要です。シロタ株含有発酵乳の補給が腸内細菌叢組成に及ぼす全体的な効果の比較分析では、4つの研究ですべての乳酸菌種が全体的に増加し、5つの研究でビフィズス菌が増加していることが示されています。しかし、研究によっては腸内細菌叢の組成に有意な変化は認められておらず、コホートによっても結果が異なるようです。

まとめると…
腸内細菌叢を変化させることは大変であるが、乳酸菌飲料などのプロバイオティクスを継続的に摂取することで腸内細菌叢を変化させることができる。しかし、目的の細菌を定着できるとは限らない。
ということになります。

また、善玉菌優勢の腸内細菌叢にするには、乳酸菌飲料の長期間に渡る摂取が重要であるということです。以上、善玉菌の摂取と腸内細菌叢への影響についてお届けしました。

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

胃、消化酵素による細菌定着バリアについて

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/112/11/112_1939/_article/-char/ja/

安藤 朗, 新たな臓器としての腸内細菌叢, 日本消化器病学会雑誌, 2015, 112 巻, 11 号, p. 1939-1946.

乳酸菌定着に関するレビュー論文

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8360115/

Roselli M, Natella F, Zinno P, Guantario B, Canali R, Schifano E, De Angelis M, Nikoloudaki O, Gobbetti M, Perozzi G, Devirgiliis C. Colonization Ability and Impact on Human Gut Microbiota of Foodborne Microbes From Traditional or Probiotic-Added Fermented Foods: A Systematic Review. Front Nutr. 2021 Jul 29;8:689084. doi: 10.3389/fnut.2021.689084. PMID: 34395494; PMCID: PMC8360115.

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