現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
本日と明日は、老化に伴って体内に蓄積されるプリン体と腸内細菌の関係について迫った研究をご紹介します。本研究では、腸内細菌叢に乳酸菌であるLactobacillus属菌と酢酸菌であるAcetobacter属菌が優占しているショウジョウバエをモデル生物として研究を行っていきます。乳酸菌と酢酸菌は、プリン体の代謝とどのように関係しているのでしょうか?今回は、本研究のバックグラウンドとして、プリン体や尿酸、腎臓についてのお話をしていきます。
この内容は、Podcastでもお楽しみ頂けます。
そもそも、プリン体とは何でしょうか?これは、プリンという構造をもった物質の総称で、DNAを構成するアデニンやグアニンもプリン体に分類されます。プリン体は、窒素を含むヘテロ環状構造をもっています。
前述の通り、プリン体はDNAの構成要素でもあります。悪者扱いされがちですが、体の成り立ちには不可欠な化合物群なのです。食品に含まれるプリン体のほとんどは核酸(つまりDNAやRNA)に含まれています1*。
公益財団法人 痛風・尿酸財団による資料を参考にすると、蒸留酒にはほとんどプリン体が含まれていないのに対して、ビールや発泡酒に多く、地ビールや紹興酒についても高い傾向がみられます2*。食材については、ほうれん草の芽やブロッコリースプラウト、干し椎茸、乾燥大豆、納豆、鰹節、煮干し、イサキ白子、カニ味噌、ボタンエビの卵、あん肝の酒蒸しなど、乾物や魚卵などが目立ちます3*。
プリン体は、プリン体分解酵素による分解過程を経て尿酸になります。通常、尿酸は、腎臓を経て体外に排出されます。しかし、尿酸の血中溶解度は低く、尿酸値が増加すると血中で結晶が析出しやすくなります。
尿酸の結晶化により、関節などでの炎症が惹起されます。また、尿酸が結晶化せずとも慢性腎臓病の進行が進むという報告も増えています。
尿酸値の年齢ごとの分布は、文献によって異なります。これは、対象者のコホートが食を始めとする文化の違いを反映しているためであると考えられます。
2016年、Basaran et al.の研究では、10歳ごとに年齢を分けて尿酸値を分析したところ、男女ともに単調増加の傾向を確認しています5*。2004年の古いデータですが、全日本民医連によると、男性について10歳以上で高くなりはじめて20歳代で値が飽和すること、女性について10歳代で軽く上昇して一定になり、閉経後に高くなり男女差がなくなるという記述があります6*。
少なくとも、加齢を通して尿酸値が増加すると言えそうです。
最後に、プリン体代謝産物としての尿酸と、慢性腎臓病の危険因子になることをお話します。この点については、日本臨床内科医会の記事によくまとめられているので、本資料を参考に内容を掻い摘んでお話します7*。
近年の観察研究では、血清中の尿酸値が高いことが慢性腎臓病の危険因子になることが示され、介入研究では尿酸産生を抑制する薬剤であるアロプリノールを投与することで血清尿酸値の低減と腎機能低下が抑制されたことが示されています。
慢性腎臓病が進行すると腎不全になります。腎不全になると、血液の濾過機能が欠損するために、体外へ排出するべき物質が血中に残ってしまいます。濾過機能を外部から与えなければならないので、人工透析や腎移植が必要となります。
今回は、プリン体とプリン体代謝産物である尿酸、それらの腎臓機能との関係についてお話しました。次回は、プリン体代謝産物と腸内細菌叢の関係についてお話していきます!ビールや乾物を好む方、必見です!
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
1* : プリン体ってなに?, 株式会社 明治, Access: 2022/10/17, https://www.meiji.co.jp/yogurtlibrary/laboratory/report/pa-3/01/
https://www.meiji.co.jp/yogurtlibrary/laboratory/report/pa-3/01/
2*: アルコール飲料中のプリン体含有量, 公益財団法人 痛風・尿酸財団, Access: 2022/10/17, https://www.tufu.or.jp/gout/gout4/73
https://www.tufu.or.jp/gout/gout4/73
3*: 食品中のプリン体含有量 一覧表(PDF), 公益財団法人 痛風・尿酸財団, Access: 2022/10/17,
https://www.tufu.or.jp/pdf/purine_food.pdf
5*: N. Basaran et al.(2016), Changing of Uric Acid Levels by Age and Sex in Patients with Diabetes Mellitus, Journal of Clinical and Experimental Investigations, 7(1), 1-6
https://www.min-iren.gr.jp/?p=3232
6*: 全日本民医連, 特集2 痛風(高尿酸血症) 患者の98%が男性、30歳代で増加 肥満や飲酒、ストレスが発症の誘因 痛みがなくても尿酸値に注意して, 2004/9/1, Access: 2022/10/17,
7*: 今井直彦, 小林一雄, 慢性腎臓病と高尿酸血症, 日本臨床内科医師会, vol.6.