#70 腸内環境理解のための生物学入門。Part1: わたしたちとDNA。

更新日: 2022/10/31

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

今回から全12回のエピソードを通して、腸内環境を理解するために必要な生物学の基礎知識についてお話します。全12回の根底にあるテーマは、遺伝情報の正体、機能、そして読み取りについてです。今回は、第1回ということで、わたしたちとDNAの関わりからお話をスタートします!学校の授業のように緊張せず、ぜひリラックスして、お掃除でもしながら楽しんで頂けたら嬉しいです。

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

このシリーズを始める理由についてちょっとだけ話します。

腸内細菌の話を、今回までに70回行ってきました。毎回聴いていただいているリスナーの皆様、読んでいただいている読者の皆様には、どのように受け取ってもらえているでしょうか?

ポッドキャストにはコメント機能がなく、まだ少ない方々にしか届けられていないので、ここからは僕の予想ですが、、、

論文の紹介内容、難しくないですか?

紹介している自分で言ってはおしまいですが、少なからず難しいと思った経験のある方は多いのではないでしょうか。もちろん、できるだけ噛み砕いて説明をしようと試みていますが、それでも言葉を噛み砕くのには限界があります。ある知識を噛み砕いて説明したところで、それは言い換えに過ぎず、別の知識によって説明をしているに過ぎないからです。

ある知識の説明にある知識を用いるとなると、芋づる式に必要な知識が増えていきます。ですから、論文の内容を十分に反芻して、より楽しむためには、基礎的な内容を押さえておく必要があります。

今回から12回は、腸内環境の理解に必要な生物学の基礎知識を、12回に分けて説明していきます。本シリーズのテーマは、遺伝情報の正体、機能、そして読み取りについて。事始めとして、わたしたちとDNAのお話からスタートします。色々な寄り道をしながら、教科書的な勉強にならないよう、雑談形式で話をしていきます。

わたしたちの成り立ち

わたしたちとDNAの関係を考える前に、まずはわたしたちとは何者か考えてみましょう。これは、みなさまの物語です。

わたしたちは生き物です。生き物は、ご飯を食べて、繁殖をすることで次の世代の命を生み出します。ご飯を食べるということは、体を形作ることに繋がります。繁殖をすることは、自分とは異なる体を形作ることに等しいです。

ご飯を食べるにも、繁殖をするにも、体を作ることに繋がっています。では、体とは何でしょうか。

体は、生物学的には細胞の集まりです。約37兆個の細胞が一つ一つ繋がって、あなたという個体を形成しています。細胞が繋がることで、組織と呼ばれる一様構造な構造ができ、組織が組み合わさることで器官と呼ばれる複雑な機能をもった構造ができます。

体は、常に細胞分裂を繰り返しています。細胞という目に見えない形で細胞が複製されることで、組織を、器官を、個体を維持管理しているのです。細胞分裂をすることで、細胞に対する損傷やストレスから個体の存続を守ることができます。

では、どのようにして細胞は複製を行っているのでしょうか?というのも、細胞が自分自身がどのような構造なのかを知っていなければ、自分と同じ細胞を作ることはできません。でも、いずれの細胞も、自分を知る術をもっています。というより、細胞の中に設計図を持っています。それに従うだけで、細胞を作ることができます。その正体こそがDNA、デオキシリボ核酸です。

では、私達の細胞において、DNAはどこにあるのでしょうか。DNAは、細胞膜の中を満たす、細胞質基質に浮かんでいると呼ばれる構造に含まれています。DNAは高分子です。高分子とは、構造単位となる小さな分子(=モノマー)が連結してできた分子や、様々な構造が不規則に繋がったような大きな分子です。高分子の例としては、DNAの他に、タンパク質やプラスチックなどがあります。

でも、分子が大きいからといって、何故細胞の設計図になりうるのでしょうか。

わたしたちとDNA

その答えは、DNAを構成する小さな分子、ヌクレオチドの並び方が鍵となってきます。

ヌクレオチドとは、糖、リン酸、塩基の3つの分子が結合してできた分子です。DNAの正式名称はデオキシリボ核酸ですが、糖の部分がデオキシリボース、酸の部分はリン酸によります。

次回以降出てくる核酸としては、RNAがありますが、こちらはリボ核酸です。デオキシ化されていないリボ核酸なので、単なるリボ核酸と呼ばれています。デオキシ化とは、リボースの一部の水酸基と呼ばれる分子構造を構成する酸素がなくなった状態になることを指します。カフェインレスのコーヒーはデカフェと言いますが、あれと同じで酸素=Oxygenがないのでデオキシです。

酸素は、実は反応性の高い分子です。酸素分子は化学反応に利用できる電子を沢山もっているため、周りとの分子と反応を起こしやすいのです。ですから、リボースと比較してデオキシリボースは安定性に富みます。これが、現在では生き物の生存に必要な情報が、RNAではなくDNAに記録されている所以です。

さあ、話がどんどん脱線してきたので、本筋に戻りましょう。

ヌクレオチドは、リン酸、糖、塩基が結合した分子です。ヌクレオチドが連なることでDNAとなります。DNAは、二重らせん構造という分子構造を取ります。つまり、2つのDNA分子で1本の構造をとっています。螺旋階段が2つ重なってできたような分子です。二重らせん構造を取ることで、安定的な分子構造を構築しています。

リン酸と糖は、DNA分子の構造を支える骨格の役割を果たします。塩基は、二重らせん構造を構成する2本のDNAをつなぎとめる役割をしています。また塩基の並び方自体には情報が記録されています。情報とは、タンパク質やRNAの構造など、様々です。DNAを構成するリン酸と糖は一種類ですが、塩基には4種類あります。アデニン、グアニン、シトシン、チミンです。これらの並び方によって、情報が記録されています。

私達が文字列に意味をもたせてコミュニケーションをするように、DNAも列をなして意味をもち、物質的な情報を記録しているのです。塩基の並び方を、塩基配列と呼びます。塩基配列は、これから12回全てのシリーズで頻出する概念です。

最後に、DNA、遺伝子、ゲノム、染色体という言葉を整理してから終わります。DNAは、デオキシリボ核酸という物質の名前です。遺伝子は、塩基配列に刻まれたタンパク質などの遺伝情報の1単位です。ゲノムは、ヒトなどの生物が生存する上で必要な遺伝情報の全てです。Geneが遺伝子、-omeの接尾辞は全て、という意味なので、全ての遺伝情報という意味になります。染色体とは、DNAという物質がきれいに折りたたまれて作られる構造体です。

ということで、私達のもつ全DNAに記録されたゲノムこそが、わたしたちの体を形作る情報の全てに成るわけです。

おわりに

今回は、DNAにフォーカスして、色々な雑談をしてきました。正直まだまだ書きたいことはありますが、発散しすぎるのも良くないので、別の機会にお届けします。

次回は、本日も少しだけ登場したRNAとDNAの関係についてお話します!

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

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