現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
本日は、昨日に引き続いてプリン体代謝産物に関連するお話。今回は、老化に伴って体内に蓄積されるプリン体と腸内細菌の関係について迫った研究をご紹介します。老化によって増えるプリン体代謝産物と腸内細菌は、どのように関係しているのでしょうか?
この内容はポッドキャストでもお楽しみ頂けます。
本研究では、プリン体代謝産物と腸内細菌叢の関係を調査するために、ショウジョウバエというモデル生物を使っています。ショウジョウバエを使う利点は2点あり、1点目はライフサイクルが短く2ヶ月であることから老化の観察がしやすい点、2点目は腸内細菌叢が単純であり乳酸菌と酢酸菌であることから腸内細菌叢の影響を調査しやすい点です。
先行研究より、ショウジョウバエの老化に伴い腸内細菌叢に占める酢酸菌が増加し、寿命を縮めることが明らかとなっていましたが、そのメカニズムは不明でした。
本研究では、抗生物質を混ぜた食事をショウジョウバエに与えた後に、乳酸菌や酪酸菌を含む食事を与えることで腸内に定着させます。このショウジョウバエに対して、高プリン食の給餌などによる介入を行うことで、影響を調べていきます。
特定の菌をもつショウジョウバエをサンプルとして、腸を取り除いてから特定の処理をした後にDNA抽出を行います。得られたDNAに対して16s rRNA遺伝子アンプリコンシーケンシングを行います。他にも、免疫応答やプリン代謝を調査するためのqPCRやLC-MS/MSによる代謝産物の解析など、様々な調査を行っています。
まずは、老化に伴うショウジョウバエの代謝の変化について調査します。結果、老化に伴い尿酸が酸化されて生じるアラントインが蓄積することが判明しました。また、タンパク質や糖を多く含む食事を与えることによっても、アラントインや尿酸の量は多くなることが分かりました。この食事介入によって、寿命が縮まったことから、プリン体の代謝産物と老化の関係を調べていきます。
酢酸菌が定着したショウジョウバエ、乳酸菌が定着したショウジョウバエ、酢酸菌と乳酸菌が定着したショウジョウバエについて調査していくと、酢酸菌がいない場合にアラントインの蓄積が抑制され、酢酸菌が存在するとアラントインが増加することが確認されました。
これら、アラントインの体内への蓄積は、どのような原因によるのでしょうか?前回のお話では、ヒトについて尿酸は通常腎臓の濾過によって尿中に排出されることをお話しました。したがって、ショウジョウバエにおいても腎機能障害が起こっていることが類推できます。
実際、酢酸菌は自然免疫経路であるImd経路を活性化することで、腎臓における炎症を惹起し、アラントインの蓄積量が増加することが分かりました。
一方、乳酸菌は食餌中のプリン体を資化することでプリン体を減少させていることも分かりました。まとめると、ショウジョウバエの酢酸菌は自然免疫を活性化することで腎臓における炎症を惹起して、プリン体代謝産物のアラントインを蓄積させること、乳酸菌はプリン体を資化することでプリン体蓄積量を減少させることが分かりました。
本研究では、単純化されたショウジョウバエというモデル生物だからこそ見えてきた、プリン体代謝産物と腸内細菌の関係を明示しています。ヒトに対して、この知見を全て利用できるわけではありませんが、重要な示唆を含んでいます。日本人は世界的にみて乳酸菌を多くもつ国民です。
今後、ヒトにおける尿酸値と腸内細菌の関連性が調査されることで、もしかすると痛風を防げる療法が生まれるかもしれません。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2589004220306696?via%3Dihub
Toshitaka Yamauchi, Ayano Oi, Hina Kosakamoto, Yoriko Akuzawa-Tokita, Takumi Murakami, Hiroshi Mori, Masayuki Miura, Fumiaki Obata,
Gut Bacterial Species Distinctively Impact Host Purine Metabolites during Aging in Drosophila,iScience,Volume 23, Issue 9,2020,101477.
https://www.f.u-tokyo.ac.jp/manages/topics/data/1599822441_1.pdf