#160 リーキーガットとは何か?原因から関連疾患まで。

更新日: 2023/02/05

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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今週のエピソードでは、リーキーガットについて深くお話してきました。まず、リーキーガットとはどのような状態なのか説明した上で、腸内環境では何が起こっているのはお話しました。そこから、リーキーガットによって細菌が臓器間転移する話や、うつ病の発症に関係する可能性を腸脳相関の観点からお話してきました。今回のエピソードでは、リーキーガットに関するお話を復習すると共に、来週のトークテーマについてお話します!

このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

リーキーガットとは何か

まずは、リーキーガットとは何かから復習していきます。

リーキーガットとは、腸管バリアが損なわれることで、腸内環境の内容物である腸内細菌や腸内細菌の代謝産物が血流に漏れ出る腸の状態を指す言葉です。ここでのリーキーとは、英語のLeak:漏れるの形容詞であり、リーキーガットには漏れやすい、穴の空いた腸という意味になります。

密着結合、タイトジャンクションとは何か

リーキーガットについて理解するには、まず正常な腸管バリアについて理解することが大切です。腸管バリアは、上皮組織=腸の中で腸内細菌が通ったり食べカスが通ったりする内腔側の組織により形成されます。つまり、腸管上皮こそが、私達と腸内細菌を隔てる重要な組織なのです。上皮組織は上皮細胞によって構成されています。

上皮細胞がただ存在するだけでは、腸管バリアとしての機能を果たしません。上皮細胞間が緊密に隣り合うことで、隙間の物質移動を制御することが重要になるのです。平易に表現すれば、上皮細胞たちが密着していることが重要なのです。上皮細胞間の密着形態には、リーキーガットにおいて重要な密着結合の他に、接着結合、デスモゾームなど様々な種類があります。

密着結合は英語でタイトジャンクションです。密着結合を形成するのは、いずれもタンパク質で、クローディン、オクルディン、JAMなどの細胞間をつなぐタンパク質を始め、細胞質においてこれらのタンパク質の足場となるZOタンパク質などが知られています。これらのタンパク質が損傷されることで、密着結合が崩壊し、傍細胞経路と呼ばれる細胞の外側を通る経路から組織、血管中に腸内環境の内容物が漏れ出ていきます。ちなみに、細胞内を経る物質の輸送経路は経細胞経路と呼ばれており、疎水性の物質であれば細胞膜経由、親水性の物質(例えばイオンなど)であれば膜タンパク質を経由して組織、血管に輸送されます。

リーキーガットにより腸管内容物が全身へ

密着結合の崩壊によって、腸管の組織内に腸管内容物が浸潤していきます。腸管内には毛細血管が張り巡らされており、これらが集約されて腸間膜静脈となります。腸間膜静脈は、左胃静脈、脾静脈と合流し、肝臓直前では門脈と呼ばれる太い血管になります。

このように、腸管から吸収された栄養を含む物質は、一度肝臓での代謝を受けて全身へ運搬されていきます。正常な腸管バリアが存在すれば、選択的な物質輸送が起るので問題有りませんが、リーキーガットになることで非選択的に物質が血中に流入することになるので、結果として全身における炎症応答を引き起こします。

リーキーガットの原因

リーキーガットの原因としては、遺伝的要因と環境要因が挙げられます。環境要因としては、排気ガスへの曝露などの物質的なストレス、精神的ストレス、食事などが考えられています。

食事については、例えば小麦に含まれるグルテンはグリアジンに分解された後、上皮細胞と相互作用をして細胞中でゾヌリンが生成され、この物質がタイトジャンクションを壊すことが知られています1)。他にも、高糖質、高脂質、低食物繊維の西洋食、アルコールの摂取なども腸管バリア機能低下の要因となるようです2)。

食事についての最近の報告では、腸管の透過性に影響を与える様々な栄養が明らかとなってきました3)。例えば、アミノ酸、ビタミンDやレチノールなどのビタミン、ポリフェノールや亜鉛などは腸管透過性を低下させる一方で、一部のタンパク質、アルコールや中鎖脂肪酸は腸管透過性を増加させることが考えられています3)。つまり、栄養によって腸管透過性、リーキーガットに対する良し悪しがあるのです。

腸内細菌と腸管バリアの関係

最後に、腸内細菌と腸管バリアの関係についてお話します。腸管バリアの形成には、腸内細菌が必須であることが明らかとなっております。

無菌マウスを用いた実験では、細菌が存在しないことで粘液層の厚さが極端に減少することが明らかとなっています4)。粘液層は、上皮細胞から分泌される粘性の高い液体=粘液によって形成され、組織への腸内細菌を含めた異物の侵入を防ぎます4)。したがって、無菌状態だと異物への侵入に対して脆弱な腸内環境となってしまうのです。一方で、無菌マウスに対して腸内細菌を投与することで、粘液層が修復されることが明らかとなっています5) 。

また、腸管上皮細胞の一種であるパネート細胞からの抗菌活性物質の分泌にも腸内細菌が重要であることが明らかとなっています。抗菌活性物質の一部については、腸内細菌に対して活性を示すのみならず、上皮細胞における密着結合タンパク質の発現量を増加させることも明らかとなっております。

また、腸内細菌は透過性が増加した上皮を通過して全身に移行することや、脳での炎症に関与することでうつ病に関係することも報告されています。このように、リーキーガットは、今日知られている炎症に関連する疾患のいずれにおいても重要な概念になりつつあるのです。

今週のエピソードを通して、リーキーガットとは何か、リーキーガットの結果としてどのようなことが起るのか、少しでも覚えていてくれたら嬉しいです!以上、リーキーガットに関するお話でした。

来週のテーマ発表

最後に、来週のテーマ発表です。来週は、腸内細菌の検査サービスを提供する企業について、ご紹介していければと思います。ご自身の腸内環境を知る、1つのきっかけづくりができたら嬉しいです!

来週もお楽しみに!

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

1) LPSの基礎知識, 6)リーキーガットとLPS, 自然免疫応用技研株式会社, URL: https://www.macrophi.co.jp/lps/1-6.html, Access: 2023/1/30.

2) Leaky gut: What is it, and what does it mean for you?, Harvard health blog, Access: 2023/1/30, URL:

https://www.health.harvard.edu/blog/leaky-gut-what-is-it-and-what-does-it-mean-for-you-2017092212451

3)Chakaroun RM, Massier L, Kovacs P. Gut Microbiome, Intestinal Permeability, and Tissue Bacteria in Metabolic Disease: Perpetrators or Bystanders? Nutrients. 2020 Apr 14;12(4):1082. doi: 10.3390/nu12041082. PMID: 32295104; PMCID: PMC7230435.

4) Mu Q, Kirby J, Reilly CM, Luo XM. Leaky Gut As a Danger Signal for Autoimmune Diseases. Front Immunol. 2017 May 23;8:598. doi: 10.3389/fimmu.2017.00598. PMID: 28588585; PMCID: PMC5440529.

5) Johansson ME, Jakobsson HE, Holmén-Larsson J, Schütte A, Ermund A, Rodríguez-Piñeiro AM, Arike L, Wising C, Svensson F, Bäckhed F, Hansson GC. Normalization of Host Intestinal Mucus Layers Requires Long-Term Microbial Colonization. Cell Host Microbe. 2015 Nov 11;18(5):582-92. doi: 10.1016/j.chom.2015.10.007. Epub 2015 Oct 29. PMID: 26526499; PMCID: PMC4648652.



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