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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今週は、炎症性腸疾患を中心に、炎症性腸疾患の特徴や腸内細菌との関係にフォーカスしてお話してきました。炎症性腸疾患は、腸管粘膜に原因不明の慢性炎症や潰瘍が生じることで、症状の寛解と再燃を繰り返す難病であり、現在日本では約20万人が患っているとされています。そんな炎症性腸疾患への調査が進む中で、発症要因の1つに腸内細菌が考えられるようになってきました。そこで、今週は炎症性腸疾患と腸内細菌の関係を研究した論文について複数ご紹介してきました。
今回のエピソードでは、炎症性腸疾患とはそもそも何かから始まり、炎症性腸疾患と腸内細菌の関係をまとめる、今週の復習を行っていきます!詳しいお話は、今週のエピソードを振り返ってお楽しみください!では、炎症性腸疾患を知る旅に出発しましょう!
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まずは、炎症性腸疾患はどのような病気なのか、お話していきます。
炎症性腸疾患とは、腸管粘膜における慢性的な炎症や潰瘍を引き起こす病気で、再燃と寛解、つまり症状が良くなったり悪くなったりすることが特徴です。現在、原因が不明であることから難病指定されており、多くの方のQOLを下げる要因となっています。
炎症性腸疾患は英語でInflammatory Bowel Diseaseといい、略称のIBDは頻出の単語です。
炎症性腸疾患には、潰瘍性大腸炎やクローン病が含まれます。潰瘍性大腸炎は、その名の通り大腸にびらんや潰瘍などの腸管組織の損傷と炎症を伴う疾患です。クローン病は、1932年にこの病気を発見した医師であるBurrill Crohnの名前から命名されました。
潰瘍性大腸炎とクローン病は、症状は似ているものの、違いもあります。両方の疾患の類似点としては、慢性的な消化器の炎症、消化器の不調に伴う下痢や便秘、食欲不振や疲労感、10-20代に好発であることなどが挙げられます。相違点としては、潰瘍性大腸炎の患部は大腸であるのに対してクローン病は消化管全域に渡ることが挙げられます。また、潰瘍性大腸炎の炎症は大腸に一様に広がるのに対して、クローン病では正常な組織と炎症組織が入り組んだように分布するSkip lesionという病態を取ります。
炎症性腸疾患は、年々増加の一途をたどっています。潰瘍性大腸炎については、1975年から2016年までの受給者や登録者の推移が視覚化されています1)。これによると、2016年の医療受給者は170000人と、2005年のほぼ倍になっています。約10年で倍になるというのは、実際に潰瘍性大腸炎で悩む患者の増加、医療体制の進歩による検出率の増加などが考えられます。少なくとも、炎症性腸疾患患者は近年増加傾向にあると考えて良さそうです。
難病情報センターの令和3年度(2021年度)のデータによると、潰瘍性大腸炎の受給者は138079人、クローン病は48320人、炎症性腸疾患として合算すると186399人の方が特定医療費の受給をされています。日本国内で約20万人という多くのヒトが悩むものの、原因が分かっていないのが炎症性腸疾患なのです。
また、炎症性腸疾患は、大腸がんの発症リスクを高めることでも知られています。炎症性腸疾患の患者では、腸内の慢性的な炎症に伴って、発症から約10年以後になると大腸がんの発症リスクが高まるのです。炎症性腸疾患を経由する大腸がんはcolitis cancerと呼ばれており、大腸がんの約6割を占める散発性大腸がんとは異なる経路で進行することが、2017年の理化学研究所と兵庫医科大学の共同研究では報告されています2)。
では、炎症性腸疾患の発症について、最新の知見ではどのようなことが考えられているのでしょうか?
炎症性腸疾患の発症要因は、遺伝的要因と環境要因が考えられています。遺伝的要因については、炎症性腸疾患を発病しやすい遺伝子型が知られています。しかし、この遺伝子型を持っていても、必ずしも発病するわけではないことから、環境要因と遺伝的要因が相互に影響を及ぼし合っていると考えられるのです。
Gastroenterology and Hepatologyの"Environmental Risk Factors for Inflammatory Bowel Disease"では、潰瘍性大腸炎とクローン病のリスクファクターがまとめられています3)。本報告によると、潰瘍性大腸炎については、不飽和脂肪酸のアラキドン酸やリノレン酸、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、精神的なストレスやうつ病、ホルモン補充療法などが考えられている一方、クローン病については、リスクファクターとして喫煙、虫垂切除、動物性タンパク質、非ステロイド性抗炎症薬の服用、精神的なストレスやうつ病、経口避妊薬の服用が列挙されています。
これらの要因はいずれも、腸内細菌と関連しています。そして、実際に炎症性腸疾患患者においては腸内細菌との関係が崩れているようなのです。
腸内細菌は、生後間もないときから腸内に定着がスタートし、一生を通して私達の健康に影響を与える存在です。腸内細菌のおかげで、腸内環境の免疫機能や腸管バリアが正常に構築され、難消化性の栄養素の消化もできることが知られています。しかし、腸内細菌と私達は違う生物であり、腸管バリアがある通り私達の体とは区別される存在です。腸内細菌といえど、体内に侵入すると炎症応答が起こり、体の外へ排除されようとします。
そこで、炎症性腸疾患の方の腸内では、腸内細菌との関係が崩れることによって、炎症応答が引き起こされることが指摘されています。つまり、腸内細菌が健康に悪影響を与えているのでは無いかという仮説です。
例えば、クローン病患者の腸内細菌叢は、バランス不全に陥っていることが指摘されています。北海道大学の綾部先生らが報告した2020年の"Life Science Alliance"に掲載されている"Paneth cell α-defensin misfolding correlates with dysbiosis and ileitis in Crohn’s disease
model mice"によると4)、クローン病の患者腸内ではパネート細胞へのストレスがかかることで、腸内細菌叢のバランス不全がおこり、結果として腸内の炎症が引き起こされるという経路が考えられています。
また、潰瘍性大腸炎患者の腸内ではLypd8と呼ばれるタンパク質の分泌量が少ないことから、腸内細菌が腸管バリアの中に侵入することが考えられています。大阪大学の奥村龍特任研究員、竹田潔教授らのグループが2016年にNatureで公開した、"Lypd8 promotes the segregation of flagellated microbiota and colonicepithelia"の報告から、Lypd8は鞭毛で運動する腸内細菌の鞭毛に結合することで運動性を低下させ、結果として腸内細菌が体内に侵入しにくい状況が形成されることが指摘されています5)。しかし、潰瘍性大腸炎の腸内では、Lypd8の分泌量が少ないことで、炎症に関係することが考えられているのです。
ここまでに、炎症性腸疾患の概要から、腸内細菌との関係まで詳しくお話してきました。室長は、炎症性腸疾患の創薬ターゲットとして腸内細菌が挙げられることで、炎症性腸疾患が不治の病ではなくなることに大きな期待をしています!
以上、炎症性腸疾患と腸内細菌の関係について、まとめてみました!
最後に、来週のテーマを発表します。来週は、様々な腸内細菌の生態について詳しくしお話していきます!
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本日も一日、お疲れさまでした。
1) 難病情報センター, 潰瘍性大腸炎(指定難病 97), Access: 20230218, URL: https://www.nanbyou.or.jp/entry/62
https://www.nanbyou.or.jp/entry/62
2) Fujita, Masashi et al. “Genomic landscape of colitis-associated cancer indicates the impact of chronic inflammation and its stratification by mutations in the Wnt signaling.” Oncotarget vol. 9,1 969-981. 12 Dec. 2017, doi:10.18632/oncotarget.22867
3) Ananthakrishnan AN. Environmental risk factors for inflammatory bowel disease. Gastroenterol Hepatol (N Y). 2013 Jun;9(6):367-74. PMID: 23935543; PMCID: PMC3736793.
4) Shimizu, Yu et al. “Paneth cell α-defensin misfolding correlates with dysbiosis and ileitis in Crohn's disease model mice.” Life science alliance vol. 3,6 e201900592. 28 Apr. 2020, doi:10.26508/lsa.201900592
5) Okumura, Ryu et al. “Lypd8 promotes the segregation of flagellated microbiota and colonic epithelia.” Nature vol. 532,7597 (2016): 117-21. doi:10.1038/nature17406