#191 リポ多糖だけじゃない!肝硬変を悪化させる腸内細菌の細胞外小胞。

更新日: 2023/03/08

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今回のエピソードでは、大腸菌に由来する細胞外小胞が、炎症の惹起と肝硬変の増悪を引き起こすことを明らかにした研究をご紹介します!この研究は、土屋淳紀准教授、夏井一輝、寺井崇二教授らの研究グループが発表した成果であり、肝臓の国際誌であるLiver Internationalの"Escherichia coli-derived outer-membrane vesicles induce immune activation and progression of cirrhosis in mice and humans"に掲載されています1)。何だか聞き慣れない"細胞外小胞"という単語が出てきましたが、こちらについても詳しく解説します!

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細胞外小胞とは何か

まずは、細胞外小胞とは何かからお話します。細胞外小胞(outer membrane vesicles: OMVs)とは、細胞外に放出される膜構造であり、顆粒状の物質です。細胞外小胞の細かい分類として、細胞間の情報伝達において注目されているエクソソーム(直径50-150 nm)、エクソソームより大きいマイクロベシクル(0.1-1 μm)、更に大きいアポトーシス小体(1-4 μm)が存在します2)。

今回、細胞外小胞の分泌が研究されたのは大腸菌です。

門脈圧亢進症とは何か

続いて、研究のモチベーションを理解する上で重要な門脈圧亢進症についてお話します。門脈とは、腸間膜静脈、脾静脈、左胃静脈が肝臓の直前で合流し形成される太い静脈を指します。

門脈とその分岐における血圧が上昇する疾患は門脈圧亢進症と呼ばれており、血流の増加や肝臓の機能が損なわれることで生じる血流の抵抗の増加が要因となり、一般的な原因は肝硬変であることが知られています3)。

門脈圧亢進症の合併症として、腸管壁浮腫4)とそれに由来するリーキーガットが考えられています。腸管壁浮腫とは、腸管壁における水分が異常に増えた状態を指し、腸が浮腫んだ状態になることです。これによって、腸管壁透過性が増加することで、腸内細菌や食べ物などに由来する抗原が血流に入りやすくなる、リーキーガット症候群(腸管壁浸漏症候群)を合併することが考えられています。

リーキーガットの状態になった結果、腸内細菌に由来する細胞外小胞が腸管バリアを透過し、肝臓に移行することが考えられ、この点を本研究では調査しています。

大腸菌の細胞外小胞が肝臓の炎症と線維化を悪化させた

本研究において、in vitroでは細胞外小胞が免疫細胞に対してどのような作用をするのか調査する実験、in vivoとしてモデルマウスやヒトを対象にした実験を行いました。

In vitroの実験では、細胞外小胞がマクロファージや好中球に対して炎症反応を惹起することが示唆されています。肝硬変のモデルマウスを用いた実験では、細胞外小胞を投与することで肝臓の炎症が亢進し、In vitroでも確認されたマクロファージの活性化、アルブミンの産生抑制、線維化と呼ばれる結合組織の蓄積が示唆されました。

実際に、肝硬変の患者において、肝硬変の病期分類であるChild-Pugh(チャイルド・ピュー)分類5)の進行に伴って、血清や腹水からの抗原、細胞外小胞が確認されています。

ここから、肝硬変になることで門脈圧亢進症とリーキーガット症候群を合併し、結果として腸内細菌に由来する細胞外小胞が肝臓へ移行することで肝硬変を増悪するという、負のループが引き起こされることが仮説として考えられました。

この研究の面白いところ

この研究の面白いところは、腸内細菌の免疫原性物質として、リポ多糖だけではなく細胞外小胞も候補として考えられる点です。従来の研究の多くは、リーキーガットの状態に陥ることで、腸内細菌に由来するリポ多糖が、血流に乗ることで、炎症を応答するといったストーリーが主流でした。

一方で、細胞外小胞にも焦点が当てられたことで、細胞外小胞それ自体や細胞外小胞に含まれる物質が疾患の増悪に関与することが、今回の研究から示唆されました。つまり、腸内細菌とヒトの媒をする物質として、あらたな研究対象候補が生まれてきたのです。

今後、腸内細菌と疾患の関係について研究紹介をする中で、細胞外小胞が出てきたら、是非この研究を思い出してみてください!

以上、大腸菌が放出する細胞外小胞が、肝硬変を促進するという研究について紹介しました!

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

1) Natsui, Kazuki et al. “Escherichia coli-derived outer-membrane vesicles induce immune activation and progression of cirrhosis in mice and humans.” Liver international : official journal of the International Association for the Study of the Liver, 10.1111/liv.15539. 8 Feb. 2023, doi:10.1111/liv.15539

2) 川上恭司郎、エクソソームは細胞からのメッセージ!?、東京都健康長寿医療センター研究所、Access: 20230308、URL: https://www.tmghig.jp/research/topics/201704-3381/

3) 門脈圧亢進症, MSDマニュアル、Access: 20230308, URL:

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0/04-%E8%82%9D%E8%87%93%E3%81%A8%E8%83%86%E5%9A%A2%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%82%9D%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%AE%E7%97%87%E7%8A%B6%E3%81%A8%E5%BE%B4%E5%80%99/%E9%96%80%E8%84%88%E5%9C%A7%E4%BA%A2%E9%80%B2%E7%97%87

4) 武藤 修一、肝P-151:門脈圧亢進症に見られる腸管壁浮腫、日本消化器病学会アーカイブシステム、Access: 20230308, URL: http://archive.jsge.org/congress/detail/70309

5) 肝硬変 | 肝硬変の分類, よくわかる肝臓の病気 疾肝啓発、あすか製薬株式会社、Access: 20230308, URL: https://www.aska-pharma.co.jp/kansikkan/disease/13.html

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