#182 Fusobacterium nucleatumとはどのような腸内細菌なのか?

更新日: 2023/02/27

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毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠

今回のエピソードから一週間に渡って、腸内細菌一種一種にフォーカスを当てた配信をスタートです!紹介する腸内細菌はいずれも、細菌の研究にてヒトの健康や病気に密接に関係することが報告されています。中々ニッチな内容が続くことになりますが、腸内細菌相談室の読者、リスナーの皆様であれば、きっと楽しんで頂ける内容になると思っています。

腸内細菌を詳しく解説する細菌詳説シリーズは、実は去年から存在していてい、今までに3種類の菌についてフォーカスしてお話してきました。例えば、ヒト腸管粘液の成分であるムチンが大好きなAkkermansia muciniphila菌、肺炎を引き起こす桿菌であるKlebsiella pneumoniae、マツコ・デラックスさんの腸内に存在することでも話題になったMitsuokella菌などです。

今回は、腸内細菌相談室でも度々登場してきた、Fusobacterium nucleatum (以下ヌクレアタム菌)にフォーカスを当ててお話していきます。ヌクレアタム菌自体は、口腔常在菌として知られていますが、腸内細菌としても存在することや、炎症および大腸がんに関与することが報告されています。ヌクレアタム菌について詳しく知ることは、口腔環境と腸内環境のつながりを意識するきっかけにもなります。

では、ヌクレアタムについて詳しく見ていきましょう!

本記事の音声配信は、下のプレイヤーからお楽しみいただけます!

https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx

ヌクレアタム菌の生態について

まずは、ヌクレアタム菌の生態についてお話していきます。ヌクレアタム菌といえど、私達ヒトと同じく生物です。したがって、生息する環境には好みがありますし、細胞としての実態もあります。腸内細菌と聞くと、どうしても実態が浮かびづらく、何か別世界の存在のように思えるときがあります。それは、私達の生きてる世界とは異なる尺度の世界で生きているからに過ぎません。室長も、腸内細菌の培養を通して、生き物としてしっかりと存在することを実感しました。そこには、増殖が速いやつもいれば遅いやつもいるし、形も様々です。

Fusobacterium属は、グラム陰性細菌、偏性嫌気性細菌に分類されます1)。酸素のある環境下では生育できないので、歯垢(プラーク)や大腸など酸素のない、あるいは極端に少ない環境で増殖します。胞子は形成せず、非運動性の細菌です1)。

体内においては、口腔環境や消化管、泌尿器での生存が知られています2)。ヌクレアタム菌は、Fusobacterium属の中でも、歯垢から最も頻繁に確認される種であるとされており、歯周病病原菌との共同が考えられています3)。

ヌクレアタム菌は、種の名前です。種より細かい分類=亜種にも様々な系統が確認されていて、ヌクレアタム菌nucleatum、ヌクレアタム菌polymorphum、ヌクレアタム菌vincentii、ヌクレアタム菌animalisなど多様な亜種が報告されています4)。

口腔環境のトラブルとヌクレアタム菌

ヌクレアタムは、口腔常在菌として知られています。ヌクレアタム菌は、接着性のタンパク質を有しており、ヒトの上皮細胞への接着や細菌同士の接着に関係することが報告されています。

例えば、ヌクレアタムと口腔細菌で歯周病、う蝕=虫歯に関係するとされるActinomyces naeslundiiの共凝集が報告されています5)。口腔環境において、細菌同士の密なコミュニケーションを仲立ちする存在として、ヌクレアタムが重要な役割を果たすと考えられているのです。他にも、大腸がん関連細菌として注目されているParvimonas micraとヌクレアタム菌の間でもバイオフィルムの形成が確認されています6)。

バイオフィルムの形成は、様々な炎症応答を考える上で重要な現象として考えられる様になってきました。今後、ヌクレアタム菌とバイオフィルム形成について理解が進むことで、炎症性の微小環境の形成を抑制し、口腔環境や腸内環境を改善できる様になるかもしれません。

腸内環境のトラブルとヌクレアタム菌

ヌクレアタム菌についてホットな研究領域は、現在腸内環境にあります。この研究の流れは、2012年Castellarinらの研究でヌクレアタムが正常組織と比較して、大腸がん組織に多く存在するという発見から始まりました7)。 

2020年Garrettらの研究では、ヌクレアタム菌が血流を介して口腔環境から腸内環境に移動し定着することを示すエビデンスを示しています8)。また、ヌクレアタム菌を用いたマウス実験では、大腸ポリープがヌクレアタム菌により多く発生すること、腸内環境における炎症応答が促進することなどが報告されています。したがって、現在のヌクレアタム菌に対する学術界の解釈としては、炎症応答を促進したりがんの形成や進展に関与するのではないかというところに落ち着きます。

ヌクレアタム菌という菌について

ヌクレアタム菌は、動画や写真で見るとわかりますが、非常に特徴的な増殖を行います。

https://www.jcm.riken.jp/cgi-bin/jcm/jcmimg_view?jcm=6328&fid=B

今後もヌクレアタム菌についての研究報告は続々と発表されると思いますが、予防医療の観点から注目される腸内細菌の1つになると考えています。ここまでに、ヌクレアタム菌について最新の知見を解説してきました。これであなたも、ヌクレアタム菌についてのエキスパートです!

次回は、健康の観点から注目されている乳酸菌、Bifidobacterium longum菌についてのお話をしていきます!

腸内細菌相談室は、腸内細菌について分からないことがある、あなたのために存在します!わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、メッセージお待ちしております。論文の紹介から、基礎知識の解説まで、腸内細菌相談室を使い倒して下さい!あなたのリクエストが番組になります。

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本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

1) Bachmann W, Gregor uH. 1936 . Kulturelle und immunbiologische Differenzierung von Stämmen der Gruppe “Fusobakterium”. Z Immun Forsch. 8,238–251.

2) Castellarin, Mauro et al. “Fusobacterium nucleatum infection is prevalent in human colorectal carcinoma.” Genome research vol. 22,2 (2012): 299-306. doi:10.1101/gr.126516.111

3) Socransky, S S et al. “Microbial complexes in subgingival plaque.” Journal of clinical periodontology vol. 25,2 (1998): 134-44. doi:10.1111/j.1600-051x.1998.tb02419.x

4) Ang, Mia Yang et al. “Comparative Genome Analysis of Fusobacterium nucleatum.” Genome biology and evolution vol. 8,9 2928-2938. 5 Oct. 2016, doi:10.1093/gbe/evw199

5) Fusobacterium nucleatumの共凝集メカニズムの解明

https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-20K18481/

6) Horiuchi A, Kokubu E, Warita T, Ishihara K., Synergistic biofilm formation by Parvimonas micra and Fusobacterium nucleatum. Anaerobe, 62, 102100 (2020).

7) Castellarin M, Warren RL, Freeman JD, Dreolini L, Krzywinski M, Strauss J, Barnes R, Watson P, Allen-Vercoe E, Moore RA, Holt RA., Fusobacterium nucleatum infection is prevalent in human colorectal carcinoma. Genome Res., 22(2), 299-306 (2012).

8) Abed J, Maalouf N, Manson AL, Earl AM, Parhi L, Emgård JEM, Klutstein M, Tayeb S, Almogy G, Atlan KA, Chaushu S, Israeli E, Mandelboim O, Garrett WS, Bachrach G., Colon Cancer-Associated Fusobacterium nucleatum May Originate From the Oral Cavity and Reach Colon Tumors via the Circulatory System. Front Cell Infect Microbiol., 10, 400 (2020).

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