#21 ファスティングは腸内細菌をどう変化させるか?

更新日: 2022/09/12

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現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

今回は、数年前から話題となっている断食、ファスティングと腸内細菌の関係を調べた研究をご紹介します。断食とは、食を断つこと、つまり腸内細菌への直接の栄養を断つことを意味します。栄養の供給が止まるとき、腸内細菌叢、つまり腸内細菌の群れはどのような変化を求められるのでしょうか。

断食の時の腸内を除いてみましょう!

今回の内容は、ポッドキャストからお楽しみ頂けます!

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断食にも種類がある

断食には種類があります。長期間におよぶものから十数時間で終わるものまで。今回は、間欠的断食と呼ばれる、1回につき12~48時間、長期にわたって食事摂取を制限する方法の検討をします。

間欠的断食は、比較的簡単に行うことができ、体重の減少や血糖値の改善など健康上のメリットをもたらす一方で、どのような原理の上に成り立っているかは不明です。本研究では、断食と腸内細菌叢が関係するとした上で、1ヶ月間の間欠的断食が腸内細菌叢へ与える影響について調査することを目的としています。

調査の方法

ここでは、年齢によって若年成人男性の集団と中高年集団について調査していきます。

若年成人男性については、イスラム教にラマダーンを行う月の断食にて調査していきます。断食期間は夜明けから日没までの約16時間です。BMIや病歴を元に健康な男性30名のボランティアが選ばれました。参加者の便は、ラマダーン初日、中間時点(15日目)、最終日(30日目)に採取されています。

中高年集団についても病歴を元に選ばれ、37名の健康な参加者が対象となりました。この調査では、ラマダン開始、ラマダン終了、ラマダン終了1ヶ月後の際に便をサンプリングします。また、この集団については、断食中の脂肪量や脂肪率の変化、血液パラメータ、食事摂取量に関する調査をしました。

ファスティングの結果、どのように腸内細菌叢は変化したか。

若年男性についての解析では、ファスティングによって有意に腸内細菌の多様性が増加することが示されました。中高年についての解析でも、ファスティングにより腸内細菌の多様性が上昇したが、統計的に有意ではありませんでした。この原因を、著者らは免疫老化や加齢関連因子によるものだと考察しています。この観察の結果から、ファスティングは腸内細菌の構成を変化させることが示唆されました。

興味深いのは、断食を終えた後の腸内細菌叢の変化です。腸内細菌叢は、断食の中止後、断食前の状態に戻るという傾向が確認されました。これは、ライフスタイルを変えない場合、腸内細菌叢は安定するという常識にも一致しています。したがって、ファスティングによる腸内細菌叢の変化は可逆的であるといえます。

続いて、ファスティングによって変化する腸内細菌を調べます。若年男性の集団に関する解析では、Firmicutes門に属する細菌が多く、これはClostridiales目によるものであることが確認されました。逆に、Bacteriodes門、特にPrevotellaceae科に属する細菌はファスティングによって減少しました。

中高年の集団においては、ファスティングを行った群で腸内細菌叢の組成に大きな変化が見られました。ここでは、若年男性集団と同様にClostridiales目の存在量が断食後に有意に増加し、これはLachnospiraceaeとRuminococcaceaeの存在量の増加に依存していました。また、中高年の断食群では、若年男性の時と同様に、Prevotellaceaeの存在量が低下していることが観察されました。

ここで出てきたLachnospiraceaeは、哺乳類の消化管に特異的に見られる細菌であり、ムチンと呼ばれる腸管上皮を保護する成分を分解する能力があります。これは、他の細菌が飢餓状態でも、自身は有利に生存できることを示しています。この細菌は、酪酸生成菌としても知られることから、いわゆる善玉菌と呼ばれる細菌です。

注目したいのは、若年男性集団ではLachnospiraceaeの有意な変化が見られず、中高年集団については有意な変化が見られた点です。年齢によってファスティングの腸内細菌叢に与える影響が異なるか、あるいは腸内細菌叢がもともと異なることによる違いがあると考えられます。

少なくとも、中高年の集団ではファスティングによって酪酸生成菌のLachnospiraceaeが増加することが示唆されたので、ファスティングが腸内環境を変化させることはまず間違いなく、場合によっては健康によい影響を及ぼすことが期待されます。今後の研究に要注目ですね!

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8106760/

Su J, Wang Y, Zhang X, Ma M, Xie Z, Pan Q, Ma Z, Peppelenbosch MP. Remodeling of the gut microbiome during Ramadan-associated intermittent fasting. Am J Clin Nutr. 2021 May 8;113(5):1332-1342. doi: 10.1093/ajcn/nqaa388. PMID: 33842951; PMCID: PMC8106760.


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