#64 ムチン大好き。Akkermansia muciniphila !

更新日: 2022/10/25

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔です。

本日は、#26から40のエピソードを隔てての細菌詳説シリーズ。本シリーズでは、細菌種1つ1つに焦点を当てて、個性的な生態に迫っていきます。

https://note.com/chonai_saikin/n/ne32b4505b387

今回ご紹介するのは、ムチンのことが大好きな、Akkermansia muciniphilaです。ここでは、mucinをムチンと呼ぶ日本語の慣習に従って、ムチニフィラ菌と呼びます。

ムチニフィラ菌は、近年プロバイオティクスとしても注目されており、多くの疾患と関連するとされています。ムチニフィラ菌は一体どんな細菌なのか。早速迫っていきましょう!

この内容はポッドキャストでもお楽しみ頂けます。

ムチニフィラ菌の発見

まずは、ムチニフィラ菌はいつ発見された細菌なのでしょうか。それは、2022年現在から遡ること18年前の2004年。オランダの研究者、M. Derrienらによって発見されました。論文のタイトルは、"Akkermansia muciniphila gen. nov., sp. nov., a human intestinal mucin-degrading bacterium"1*。

https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/ijsem/10.1099/ijs.0.02873-0#tab2

ここで、gen. nov.はgenus novum (ノウム:ラテン語で新しいの意)から新属、sp. nov.はspecies novumから新種を意味します。

Akkermansiaの由来は、オランダの微生物学者であるAntoon Akkermansに由来します2*。muciniphilaは、mucin(ムチン)をphilla(好む)に由来しています。Bibliophileで本を好きな人、Philosophyで智を愛する哲学、といったような具合で、phillaは好むを意味するギリシャ語です。

ムチンという言葉が沢山出てきていますが、これは何でしょうか。ムチンは、腸管上皮の粘膜を保護する液体、粘液の主成分です。解剖学的には、粘膜は粘膜上皮、粘膜固有層、粘膜筋板、粘膜下層から構成されます。粘膜上皮は体の保護や物質の交換、粘膜固有層は免疫細胞が多く存在します。粘膜上皮を覆う粘液の主成分がムチンです。

ムチンは、物質としては糖とタンパク質が結合した糖タンパク質であり、長い長ーい高分子です。長細い分子間には大きな分子間力が働くので粘度が高くなり(粘性係数が大きくなり)、ネバネバするのです。

ムチンの組成は、糖とタンパク質なので、窒素や炭素を豊富に含みます。このムチンを栄養源とする細菌こそが、ムチニフィラ菌なのです。

ムチニフィラ菌の特徴

ムチニフィラ菌は、グラム陰性、非運動性、非芽胞形成性、偏性嫌気性菌です1*。先程のお話の通り、ムチニフィラ菌はムチンを唯一の炭素および窒素源としており、N-アセチルグルコサミンやN-アセチルガラクトサミン、グルコースを栄養に成長します1*。これらの栄養を異化することで、短鎖脂肪酸であるプロピオン酸や酢酸を産生します2*。

ムチニフィラ菌は、ヒトの主要な腸内細菌の1種です。ムチニフィラ菌の腸内細菌叢に占める相対存在量は年齢により変化しますが、月齢1歳の乳児から細菌を持ち始め(8/50)、成人になる頃には54名中54名の腸内にムチニフィラ菌の存在が確認されています3*。量としても豊富に存在しており、成人においては腸内細菌叢の数%を占めるとされています。

ムチニフィラ菌と疾患の関係

ムチニフィラ菌は、炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎、代謝性疾患である肥満症や2型糖尿病において少ないとの報告があります4*。

ある研究では、糞便中のムチニフィラ菌と食事や宿主、つまりヒトの関係を調査しています。結果、ムチニフィラ菌の存在量が多いヒトは空腹時血糖値や血漿中中性脂肪などで健康な状態であり、カロリー制限を行うことでインスリン感受性などが改善することがわかっています5*。

実際に、マウスにおける、肥満や糖尿病、脂肪肝、腸の炎症、さまざまな癌の症状を改善する効果が示されており6*、プロバイオティクスとしても注目されています。

まだまだ謎の多いムチニフィラ菌

ここまで、ムチニフィラ菌に対する研究が盛り上がっていることを紹介してきました。でも、分かっていないことも多くあります。

例えば、ムチンを分解すると予測されていた多糖分解酵素の遺伝子において、ムチンと酵素が結合するドメインが確認されていないこと、微生物の細胞壁成分であるペプチドグリカンの合成に必要なグルタミン酸ラセマーゼの機能を持っていないことなどです。

予期されていた多くの機能を持たないムチニフィラ菌。まだまだ謎多き腸内細菌であると言えるでしょう。ムチニフィラ菌に関する面白い論文を複数本知っているので、今後紹介していきますね!

以上、ムチニフィラ菌の細菌詳説コーナーでした!

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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

1*
M. Derrien, E.E. Vaughan, C.M. Plugge, W.M. de Vos (2004), Akkermansia muciniphila gen. nov., sp. nov., a human intestinal mucin-degrading bacterium, International Journal of Systematic And Evolutionary Microbiology, 54(5), 1469-1476.

https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/ijsem/10.1099/ijs.0.02873-0#html_fulltext

2*
萩達郎, 用語集 アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila), 公益財団法人腸内細菌学会, Access: 2022/10/24,

https://bifidus-fund.jp/keyword/kw078.shtml

3* 著者にはM. Derrienも含まれます!
M.C. Collado et al. (2007), Intestinal Integrity and Akkermansia muciniphila, a Mucin-Degrading Member of the Intestinal Microbiota Present in Infants, Adults, and the Elderly, Applied and Environmental Microbiology, 73(23), 7767-7770.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17933936/

4* またM. Derrienの出番です!
Derrien M, Belzer C, de Vos WM. Akkermansia muciniphila and its role in regulating host functions. Microb Pathog. 2017 May;106:171-181. doi: 10.1016/j.micpath.2016.02.005. Epub 2016 Feb 11. PMID: 26875998.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26875998/

5*
Dao MC, Everard A, Aron-Wisnewsky J, et al, Akkermansia muciniphila and improved metabolic health during a dietary intervention in obesity: relationship with gut microbiome richness and ecology, Gut 2016;65:426-436.

https://gut.bmj.com/content/65/3/426.citation-tools

6*
Cani, P.D., Depommier, C., Derrien, M. et al. Akkermansia muciniphila: paradigm for next-generation beneficial microorganisms. Nat Rev Gastroenterol Hepatol 19, 625–637 (2022). https://doi.org/10.1038/s41575-022-00631-9.

https://www.nature.com/articles/s41575-022-00631-9

7*
芦内 誠, 7. 今注目の腸内細菌Akkermansia muciniphilaについて, ビタミン, 2020, 94 巻, 9 号, p. 508-509.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/94/9/94_508/_article/-char/ja/

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