現役の腸内細菌研究者がお届けする、腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
今日のお話は、食中毒に関連するトピックです。食中毒と聞くと、皆さんはどのようなイメージがあるでしょうか。不衛生、病原性細菌、生肉など、関連する事柄は様々です。今回は、病原性細菌の中でも大腸菌について取り扱います。
突然ですが、クイズです。
食中毒などで話題になる大腸菌O157のOとは何を意味するかご存知でしょうか?大腸菌と大腸菌O157は何が違うのでしょうか?身近だけど、意外と知らない知識をお届けできればと思います。
この内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます。
まずは、大腸菌と大腸菌O157は何が違うのか。この点についてお答えします。回答は、大腸菌とは細菌種の名前であるのに対して大腸菌O157とは細菌株の名前です。
細菌種は、細菌株と比べるとより広い分類区分です。人で例えると、あなたも私もホモ・サピエンスです。でもあなたと私は違います。だから違う名前です。細菌でも、共通点があるから細菌種というグループにまとめられ、異なる点があるから細菌株によって区別される。そんな違いがあるのです。
抗原とは、免疫応答を引き起こす自己に対しての異物です。例えば、細菌の生産するタンパク質や糖などは抗原に該当します。抗原として認識することで、私たちは細菌の体内への侵入を感知して、免疫応答により対応できるのです。
大腸菌O157のOとは、抗原分類に使われる文字です。大腸菌は、電子顕微鏡などで見てみても、どれも同じ様な姿かたちをしています。でも、実際は細菌株として区別ができるように、大腸菌という種内には多様な機能をもった株が存在するのです。
機能の違いは色々なところに現れるのですが、大腸菌の持っているタンパク質や糖脂質も、大腸菌の多様性を生む要因です。そこで、大腸菌の株を識別する方法として、タンパク質や糖脂質などによる分類が考えられます。
ここで登場するのが、O抗原とH抗原です。O抗原は細胞壁の糖脂質に由来する抗原、H抗原は細菌の運動に使用される鞭毛に由来する抗原です。これらの抗原によって、大腸菌の分類をしていきます。
例えば、食中毒を引き起こす大腸菌はO抗原が157番、H抗原がH-かH7に分類される大腸菌として知られています。
より詳細に説明すると、O抗原はグラム陰性細菌に特有の抗原です。グラム陰性細菌とは、グラム染色と呼ばれる染色方法によって区分される細菌のうち、染色が脱色されるタイプの細菌です。グラム陰性細菌は、リポ多糖(LPS)と呼ばれる糖鎖を細胞壁表面に保有しており、リポ多糖の末端にある分子こそがO抗原です。
O抗原のOとH抗原のHは、ドイツ語に由来します。
つまり、鞭毛運動によって細菌が動き回り、培地に曇りがかかったような文様を刻むことから、鞭毛由来の抗原分類にはHが使われているのです。ドイツ語でHauchは呼吸、Bildungは形成といった意味があります。
そして、当時研究の過程で使用していた細菌の変異株は培地に曇りがかかったような文様を刻まないことから、ohne(英語でwithoutの意味) hauchbildungのOが、O抗原に採用されています。
細菌株の歴史的経緯からOやHという名前が現在でも使われているのです。
この記事を通して、O抗原やH抗原についての理解が深まっていたら嬉しいです。
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