#7 水道水中の細菌が腸内に定着する?

更新日: 2022/08/29

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現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
本日も、鈴木大輔がお届けします。

今回は、普段から何気なく口に入っている水道水中の細菌が、腸内に定着しているかもしれない、という研究を紹介します。(参考文献は文末に記載)

先進国では、浄水施設にてろ過、凝集沈降、塩素処理などによる処理が行われて、各家庭の水道へ届けられます。しかし、一部の微生物は飲料水、残留、増殖する可能性が指摘されており、細菌密度は1Lあたり約106-108個とされています。

これらの細菌が果たして腸内細菌叢へ影響を与えるのか、というのが本研究の問です。最後まで、付き合って頂けると嬉しいです。

本記事の内容は、耳からもお楽しみ頂けます!

https://open.spotify.com/episode/0llQ5PoHJx2PXlvmRM2ota

日本での水道水利用の現状

ここでは、日本での水道水利用について簡単にまとめます。

東京都水道局の報告によると、家庭では風呂40%、トイレ21%、炊事18%、洗濯15%、洗面・その他6%に水道水が利用されています。

また、世帯人数ごとの1月あたりの平均使用水量では、1人世帯の場合8.1 m3の水を使用しているそうです。世帯人数が増えるほど、1人あたりの水使用量は減っていきますが、ここでは簡単のために1人世帯で考えてみます。

ここで、8.1 m3は8100 L。500 mLのペットボトル16200本です。
風呂、炊事、洗面・その他で水と触れ合っているとすると、水使用量全体に対して64%の水に触れていることになるので、500mLペットボトル10368本の水と触れ合っています。もちろん、そのすべてが消化管を通過しているわけではなく、加熱などの処理も加えられているので、10368本よりも小さな影響であることは重要です。

ここで強調したいのは、沢山の水道水に私達は何気なく接しているということです。

水道水と便の採取

この研究は、イタリア、パルマにて行われました。公共の噴水・家庭の蛇口などの16の水道水サンプルを採取します。その後、DNAサンプルを抽出し、シーケンシングと呼ばれる操作で塩基配列を読み解きました。

細菌といえど生物です。生物は、タンパク質でできています。タンパク質を作る仕組みは生物の間で共通しているので、その仕組を記しているDNAも共通の部分があります。しかし、変異が生じることで互いに異なるDNAの部分も持っています。

この、DNAの共通した部分と異なる部分を読み解くことで、どのような細菌が水道水に存在しているかわかるのです。

続いて、水道水を摂取する人についてです。過去3年間、水道水を毎日飲んでいた健康な成人男性の便を採取します。便は、シーケンシングまで-80℃で保存されます。

水道水中に多く含まれる細菌

調査の結果、16のスポットごとに異なる細菌が優占的に存在することが分かりました。特に、細菌の全体量に対して10%以上を占める優占種であったのは、以下の5種でした。

  • Acidovorax delafieldii(W012で55%):土壌由来細菌

  • Aquabacterium commune(W005で26%):他の研究でも飲料水から検出

  • Sphingomonas ursincola(W011で23%):水中、土壌細菌

  • Sphingobium fluviale(W015で14%):土壌細菌

  • Sphingomonas aerolata(W009で12%):空気中から単離された事例

ここで、別の複数の研究で得られた水道水と共に結果を調査すると、84%の微生物由来のDNAが未分類に留まりました。つまり、多くの細菌に関しては、未だに分かっていない細菌であるという結果でした。

別の複数の研究で得られた115の飲料水サンプルではBradyrhizobium属、Sphingomonas属、Pseudomonas属、Novosphingobium属、Sphingobium属菌が検出され、土壌由来細菌が共通していました。

水道水の菌は腸内に定着するのか

調査の結果、飲料水中に多く検出されるBradyrhizobiumとSphingobiumについては、DNA検出限界以下でした。一方、CurvibacterのDNAが同定され、試験期間開始から2週間後でも検出されたことから、このCurvibacter spp.が被験者の腸内に明らかに定着していることがわかりました。

別の文献では、Curbibactor属菌が井戸水から検出されていました。
このことから、①飲料水中の細菌が腸内に定着すること、②飲料水中の存在量が必ずしも定着には関係ないことが示唆されました。

おわりに

今回は、水道水中の菌が腸内に定着することを調べた研究を紹介しました。水道水は、一番身近な水であることから、今後も腸内細菌との関連性の解明が期待されます。

今回、対象となった地域、人は限定的であることから、例えば次のような研究の方向性が考えられます。

  • 男女での調査を行う

  • 異なる地域で行う:採水源、浄水システムが異なる

  • どの程度飲み続けたら、腸内細菌が変化するのか調べる

今後の研究が期待されます。

現在、Twitter、Instagramにて、①腸内細菌、②腸内環境、③腸活に関する質問を募集しています!沢山の質問、待っています。

https://twitter.com/chonai_saikin

それでは、本日も一日、お疲れさまでした!

参考文献

https://sfamjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1462-2920.15988

Lugli, G.A., Longhi, G., Mancabelli, L., Alessandri, G., Tarracchini, C., Fontana, F., Turroni, F., Milani, C., van Sinderen, D. and Ventura, M. (2022), Tap water as a natural vehicle for microorganisms shaping the human gut microbiome. Environ Microbiol. https://doi.org/10.1111/1462-2920.15988


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