現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。
本日は、潰瘍性大腸炎(Ulcerative Colitis: UC)患者の糞便、腸管内容物、腸管生検体に住む細菌叢の違いを明らかにした上で、潰瘍性大腸炎患者と健常者の細菌叢の違いを調査した研究をご紹介します。
この研究の重要な点は、糞便のみならず、腸管内容物や腸管生検体、つまり腸管粘膜の一部を内視鏡と鉗子により採取することで、細菌叢の違いを論じているところにあります。何故重要なのかというと、現在行われている腸内細菌研究の主流は、糞便微生物の調査だからです。
例えば、今回注目している、炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎を考えます。実際に腸管で炎症反応を引き起こすには、腸管粘膜、つまり上皮細胞に対して何らかの影響を与える必要があります。それが、細菌が細胞外へ放出する抗原である可能性もありますし、細菌が上皮細胞に付着することでムチンなどを分解するなどの直接的な相互作用も考えられます。つまり、糞便を見るだけでは、腸管の表面で起こっていること全てを理解することができなそう、という視点をこの研究では持っているのです。
では、実際に糞便、腸管内容物、腸管生検体の間で、どのような細菌叢の違いがあるのでしょうか?研究内容に迫ってみましょう!
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本研究では、16名の潰瘍性大腸炎患者と15名の健常者に協力をしてもらい、糞便、腸管内容物および腸管生検体の採取をします。細菌叢の解析は、16S rRNA遺伝子によって行います。
ちなみに、腸管生検体の採取に用いている鉗子(ハサミのようなもの)は、日本の企業オリンパスの製品です。日本の名前がこういうところに出てくると嬉しくなりますね。
まずは、サンプリング方法の違いによる細菌叢多様性の変化です。
生検体において確認された細菌の種類は、糞便および腸管内容物と比較して多いことがわかりました。また、サンプル内の細菌叢の多様性を反映した指標であるα多様性を比較すると、糞便と腸管内容物、糞便サンプルと生検体の間に有意差がありました。また、サンプル群内の多様性を反映したβ多様性を比較すると、糞便、腸管内容物、生検体の間には有意差がありました。
以上より、細菌叢の多様性の観点から、各サンプルに存在する細菌叢は異なることが示されました。この結果は、各サンプル群間の細菌叢の違いを比較するPERMANOVAの結果によっても支持されました。
一方、糞便と腸管内容物の間には、非計量多次元スケーリングによると関連性があることが示されました。唯一、生検体サンプルはその他のサンプルと比較して異なることが示されました。
いずれのサンプリング法においても、Verrucomicrobia門の存在量が潰瘍性大腸炎の患者において多いことがわかりました。また、多様性の比較をすると糞便サンプルにおいては患者と健常者の違いが認められたのに対して、腸管内容物と生検体サンプルについては認められませんでした。
最後に、腸内細菌叢から疾患か否かを判別するモデルを作っていきます。
ラッソ回帰による患者と健常者の分類モデルを作成したところ、糞便や腸管内容物の細菌叢のデータを用いることで、患者と健常者の分類がある程度可能でした。特に、糞便、腸管内容物のデータを合わせて用いることで、AUCが0.88と良い分類成績を収めています。
つまり、糞便や腸管内容物の細菌叢から、潰瘍性大腸炎か否かをある程度推測可能であることを示しています。
本研究では、サンプリングの違いによる細菌叢の違いを明らかにし、潰瘍性大腸炎患者を腸内細菌叢から見分けることができる判別器の作成を行いました。
今後、研究内容を眺める際に、その研究では語られていない腸内細菌叢の存在を意識する、そんなきっかけとしての研究紹介になれば幸いです。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
Kim D, Jung JY, Oh HS, Jee SR, Park SJ, Lee SH, Yoon JS, Yu SJ, Yoon IC, Lee HS. Comparison of sampling methods in assessing the microbiome from patients with ulcerative colitis. BMC Gastroenterol. 2021 Oct 22;21(1):396. doi: 10.1186/s12876-021-01975-3. PMID: 34686128; PMCID: PMC8614001.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8614001/#__ffn_sectitle