現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
本日も、鈴木大輔がお届けします。
突然ですが、皆さんは最近運動をしていますでしょうか?学生の方であれば、授業や部活で定期的に運動をする機会があると思います。社会人になると、外部から運動を強制されなくなるため、運動機会は個人によって大きく異なると思います。
本日は、"ハーフマラソン"という短時間の激しい有酸素運動によって、腸内細菌が変化するのか調べた研究をご紹介します。
(参考文献は、文末に記載してあります)
本記事の内容は、ポッドキャストでもお楽しみ頂けます!
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調査の対象は、2016年に開催された中国の重慶国際ハーフマラソンに参加した、健康なアマチュアランナー計20名です。男女構成は男性16名、女性が4名です。ハーフマラソンレースの前後で、糞便サンプルを採取してもらい、そこから抽出したDNAを元に腸内細菌の調査を行いました。
糞便サンプルの収集期間中、各ボランティアには同じ種類の食事が提供されています。栄養素の摂取情報は、食事に関するアンケートで入手しています。また、糞便サンプル中に含まれる代謝産物の測定も行っています。
全体として、核酸成分9種、有機酸8種、糖4種、アルコール3種、ステロイド3種、脂質3種、アミノ酸3種、その他7種の代謝物など、ランニング後に40種の代謝物が有意に変化していました。例えば、いくつかの生合成経路のエネルギー代謝に関与するグアノシン三リン酸(GTP)は2.6倍と著しく増加しています。
続いて、腸内細菌叢中の腸内細菌の存在量の比較です。ここで、腸内細菌叢とは、腸内細菌のまとまりを表す言葉です。ハーフマラソン前と後で比較すると、ランニング後にPseudobutyrivibrio、Coprococcus_2、Collinsella、Mitsuokellaが増加していると確認されました。別の解析でCoprococcus_2属は最も増加した分類群であり、ほぼ3倍の存在量となっていました。
腸内細菌叢が有する機能についての比較をすると、「細胞運動」機能はランニング後に有意に誘導され、「エネルギー生産・変換」機能は抑制されることが分かりました。さらに、23の代謝は、ランニングによって有意に変化することが示されました。
また、代謝産物の量と腸内細菌の存在量の間で相関解析を行いました。その結果、19種類の代謝物と4種類の細菌分類群の間に26種類の統計的に有意な相互作用が認められました(p < 0.05)。その他の解析も併せて、激しい運動後に観察される糞便中の代謝物の変化は、腸内細菌叢に由来するものであることが示唆されました。
長距離走では、腸管は常に脚の動きによ衝撃を受け、腸管上皮がダメージを受け、ランニング中およびランニング直後に、腸管透過性の亢進、細菌の移動、腸管炎症(主に下部管)が発生するといくつかの研究で報告されています。本研究で観察された変化は、肉体的ショックによって傷ついた腸管上皮を刺激することが一因であると著者らは推測しています。
順序としては腸内環境の変化とそれによる腸内細菌叢の組成の劇的な変化が起こるということです。
21 kmで腸内細菌が変化することを示した、面白い研究でした。
近年、運動と腸内細菌叢の関係が注目されています。アスリートに特徴的な腸内細菌の構成があることも複数の研究によって指摘されています。
今回紹介した研究では、短時間の有酸素運動でも腸内細菌が動的に変化することが分かりました。もしも、の話ですが腸内細菌のデザインをする運動のセットなどが開発される日が来るかもしれませんね。
研究に対する疑問点は、ハーフマラソンに挑んでいる人の多くが長距離走の練習をしていると考えられることから、普段から何らかの運動に挑んでいると想定されます。
その場合、ハーフマラソン本場と練習ではどのような違いがあるのかということが重要な観点になると感じました。
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それでは、本日も一日、お疲れさまでした。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2018.00765/full
Zhao X, Zhang Z, Hu B, Huang W, Yuan C and Zou L (2018) Response of Gut Microbiota to Metabolite Changes Induced by Endurance Exercise. Front. Microbiol. 9:765. doi: 10.3389/fmicb.2018.00765