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現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
今回お届けするエピソードは、前回に引き続き腸管におけるバイオフィルム形成についてのお話です!前回のエピソードと、あえてタイトルをほとんど変えていないことにお気づきでしょうか?そうです。年号以外は同じタイトルにしてみました。前回は2015年時点での腸管におけるバイオフィルム形成について分かっていることを取り上げましたが、今回は2020年以降の知見をまとめていきます。5年間の間に、腸管におけるバイオフィルム形成について理解は深まったのでしょうか?
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!
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前回のエピソードでは、2015年時点で分かっている腸管におけるバイオフィルム形成についてお話しました。紹介したレビュー論文によると、①健常者ではバイオフィルム形成が難しそうで、炎症性腸疾患患者など粘膜の正常構造を損なっている方についてはバイオフィルム形成が確認されていること、②健常者についても粘膜層の成長速度が遅い部分についてはバイオフィルム形成の可能性を否定できないという見解でした。では、2021年に発表された総評では、腸管におけるバイオフィルム形成についてどのようにまとめられているのでしょうか?
2021年に発表された、Natureのレビュー論文である"Gastrointestinal biofilms in health and disease"には次のようにまとめられています。
複数の細菌が形成するバイオフィルムは消化管全域に見られ、粘膜層のムチンや内腔の食物に付着する形で存在する
異常なバイオフィルム形成は消化管疾患と関連しているが、今後の研究が必要である
腸内のバイオフィルムが作る代謝産物が与える、健康や病気への影響については今後の研究が必要である
この論文によると、腸内においてもバイオフィルムは確認できるとしています。近年の論文を参考にすると、腸内環境においてバイオフィルムが形成されることは、可能性として十分にあるといえそうです。
続いて紹介する論文は、2020年frontiers in cellular and infection microbiologyから刊行された"Quorum Sensing, Biofilm, and Intestinal Mucosal Barrier: Involvement the Role of Probiotic"です。
この論文では、腸内における細菌のクオラムセンシングとバイオフィルム形成についてまとめています。
バイオフィルム形成細菌は、菌体外多糖を分泌することでバイオフィルムの形成を促進しますが、菌体外多糖に含まれるカルボキシル基やアミン官能基が腸管への接着に関与するとしています (Peterson et al., 2015)。
健常者の腸内で形成されたバイオフィルムは、細菌叢の機能を高めることで宿主の異物からの防御を強化することが考えられています。また、バイオフィルムと疾患の関係について、バイオフィルム形成能力のある腸管接着性大腸菌の増加は潰瘍性大腸炎の発症に関連するとされています。大腸がん関連細菌であるFusobacterium nucleatumについてもバイオフィルム形成により腸管疾患を引き起こすとされており、大腸がんとの関連も報告されています。
つまり、細菌叢に応じて形成されるバイオフィルムの機能が異なることが考えられます。
ということで、今回は2020年以降に報告されたレビュー論文2報を参考に、今日における腸管でのバイオフィルム形成についてお話してきました。2015年時点と比べると、腸内でのバイオフィルム形成が健康や疾患と関係しているという論調に一歩進んではいるものの、まだまだこれらか個別具体的な研究が必要であるといったところでしょうか。
次回は、現在分かっている腸内でのバイオフィルム形成についての最新の知見として、つい先日(2023年1月23日)に発表された腸におけるバイオフィルムの形成についてお話していきます。
以上、腸内にバイオフィルムは形成されるかについて、2020年以降の知見を概観してみました!
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本日も一日、お疲れさまでした。
1) Motta, Jean-Paul et al. “Gastrointestinal biofilms in health and disease.” Nature reviews. Gastroenterology & hepatology vol. 18,5 (2021): 314-334. doi:10.1038/s41575-020-00397-y
https://www.nature.com/articles/s41575-020-00397-y
2) Deng, Zhaoxi et al. “Quorum Sensing, Biofilm, and Intestinal Mucosal Barrier: Involvement the Role of Probiotic.” Frontiers in cellular and infection microbiology vol. 10 538077. 25 Sep. 2020, doi:10.3389/fcimb.2020.538077