毎日夜19:30に更新中!腸内細菌相談室。
現役の研究者である鈴木大輔が、腸内細菌にまつわるエピソードをお届けしております🦠
本日は、腸内細菌叢により個人を特定出来てしまうことを実証した研究を紹介します。この研究は、2015年のFranzosaらによって行われ、Identifying personal microbiomes using metagenomic codesという論文に報告されています。腸内細菌相談室でも、ヒトに共生する細菌叢は個人のアイデンティティの一部であるというお話をしてきました。
今までに、ヒト細菌叢が個人の特定に使用されるのではないか、という懸念は色々なところで考えられていました。しかし、個人の特定にヒト細菌叢が有効であることを示した研究はありませんでした。この、個人情報保護と細菌叢の関係を厳密に調査するのが本研究です。
生物学的なアイデンティティとしては、ヒトゲノムや指紋、虹彩認証がよく知られていますが、そこに細菌叢も加わってくる、そんなお話です。
このお話は、聴いて楽しむポッドキャストでも公開しております!ぜひ遊びに来てください!
https://open.spotify.com/show/5cg5yMYD7FA9NQSSbksEVx
まずは、本研究にて使用されたデータのソースからお話します。今回の研究では、ヒトに存在する細菌叢を調査する世界最大規模の調査プロジェクト、Human Microbiome Project、通称HMPのサンプルを使用しています。使用するサンプルは、糞便サンプルから唾液、喉周辺由来のものに至るまで、様々です。
ここからはマニアックな解説。聞き流す程度でOKです。
個人の識別に使用するのは、16s rRNA遺伝子のアンプリコンシーケンシングにより得られた細菌叢の近縁な個体をまとめた系統学的単位=OTUの相対存在量、ホールメタゲノムショットガンシーケンシングにより得られた細菌種の相対存在量、マーカー遺伝子、参照配列にメタゲノムリードをマップすることで得られた配列のkbwindowsの単位などです。
ここまでの話をざっくりと説明すると、個人からのサンプリングで得られた細菌にまつわる4種類の情報を、個人を特定する分類モデルの構築に使用していきます。
今回の研究では、複数の時点で細菌叢の採取を行っているので、ある時点のデータを分類モデルの訓練データに使用し、別時点でのデータを正誤判定=モデル精度のテストに使用していきます。
では、結果を見ていきましょう。
結果としては、腸内細菌叢が安定して個人内では保存されており、80%以上の個人を識別することに成功しています。その他の検証によっても、30%の個人の特定に成功していました。
具体的には、マーカー遺伝子と呼ばれる細菌種に特異的な遺伝子を用いる場合やkilobasewindowsなどでは個人の2つの時系列間での良い一致が確認され、特に糞便に由来する腸内細菌叢では80%を超える精度での一致率でした。一方、OTUや細菌種による特定は、依然として腸内細菌叢により30%程度の一致を得たものの、マーカー遺伝子等には及ばない結果となりました。
研究倫理において、実験や研究、医療参加者の個人情報保護は、重要な課題となります。今後、腸内細菌叢の研究やサービスが一般に普及すると、この研究の意義はより一層大きく成ります。
研究に使用されたサンプルは数十人分のものなので、実社会と比較すると比較的簡単な問題設定だったともいえます。著者らは、この点について次のように述べています。
つまり、今回のモデルは数百人規模、またはそれ以上のコホートにおいても適応可能であり、この人数は今日の細菌叢研究でもよく見られる、とのことです。
ウンチが個人情報になることを示した研究についてのご紹介でした!
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本日も一日、お疲れさまでした。
Franzosa EA, Huang K, Meadow JF, Gevers D, Lemon KP, Bohannan BJ, Huttenhower C. Identifying personal microbiomes using metagenomic codes. Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 Jun 2;112(22):E2930-8. doi: 10.1073/pnas.1423854112. Epub 2015 May 11. PMID: 25964341; PMCID: PMC4460507.