#184 Bacteroides fragilisとはどのような腸内細菌なのか?

更新日: 2023/03/01

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今回お届けするのは、病原性が注目されるBacteroide属の細菌、Bacteroides fragilis(フラジリス菌)についてお届けします。フラジリス菌は、腸内細菌の一種であり、腸管の免疫機能や病原性発現に関与することが研究されています。近年は、フラジリス菌と大腸がんの関係も注目されています。腸内のフラジリス菌は、私達の味方なのか、敵なのか、はたまた中立の存在なのか、見ていきましょう!

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フラジリス菌の生態

フラジリス菌はBacteroides属に分類されます。Bacteroides属の細菌は、偏性嫌気性に分類され、芽胞を形成せず、グラム陰性の桿菌であることが知られています1)。偏性嫌気性として分類されますが、酸素への耐性は比較的あることが知られており、0.05%以下の酸素存在下であれば増殖できるとされています2)。

フラジリス菌の語源としては、英語でFragile=壊れやすいという言葉があるように、フラジリス菌が形成するコロニーが脆弱であることに由来しています3)。

フラジリス菌と感染症

フラジリス菌が注目されるのは、主に臨床の現場です。1970年代における嫌気性菌感染症において、もっともよく単離された細菌がフラジリス菌でした4)。嫌気性菌感染症とは、体の中で本来無菌状態であるべき部位(血管や腹腔内)に入り込むことで成立する感染症です5)。

この問題で難しいのが、フラジリス菌は外来の細菌ではなく、腸内に常在する細菌である点にあります。したがって、嫌気性菌感染症の原因を多くのヒトが腸内にかかえていることになるのです。さらにこの問題を難しくしているのは、フラジリス菌に薬剤耐性が備わる場合があるということです。近年、フラジリス菌のセフメタゾール、クリンダマイシン、モキシフロキサシンなどの抗生物質に対する耐性の獲得が示唆されています6)。

このように、腸内環境に普通に存在する細菌が、状況に応じて様々な側面を持ちます。その一例がフラジリス菌なのです。このような、多面性を支える1つの理由に、遺伝的な多様性があります。

フラジリス菌においては、様々なDNA組み換え反応(→可逆的なDNA逆位)が起ることが報告されているのです4)。この結果、様々な多糖類合成酵素、DNA制限や修復酵素、多糖類利用酵素が存在し、多様なフラジリス菌が確認されています4)。

大腸がんと免疫とフラジリス菌

フラジリス菌は、腸以外の臓器における嫌気性菌感染症にとどまらず、腸内の疾患である大腸がんとの関連も注目されています。

フラジリス菌の一部には、腸管毒素を産生するタイプのEnterotoxigenic Bacteroides fragilis(ETBF)が知られています。ETBFは大腸炎を誘発するのみならず、モデルマウスを用いた実験では大腸ポリープを誘発することが明らかになっています7)。一部のヒトにおいても、ETBFが定着しており、大腸がんの発がんに関連することが考えられています。

一方で、通常のフラジリス菌は、ヒトの免疫系に対して良い影響を与えることも報告されています。フラジリス菌は、多糖類の一種であるpolysaccaride A(PSA)によって、末梢神経や中枢神経における無菌性の炎症性疾患を予防することが考えられています8)。詳細な解析では、リンパ球の一種であるB細胞に対してPSAが結合することが、炎症反応を制御するIL-10の分泌を行う制御性CD4+/CD8+ T細胞の誘導に不可欠であることが示されています。フラジリス菌が腸管に常在することには、それなりの意味があることを考えさせられます。

このように、状況によって役割が大きく変化するのが、フラジリス菌でした。

次回は、炎症性腸疾患に関与するとされるRuminococcus gnavusの生態についてお話します!

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参考文献

1) 鈴木大介, 馳亮太, 橋本幸平, 山田智, 戸口明宏, 大塚喜人, 細川直登, Bacteroides属およびParabacteroides属菌血症―亀田総合病院における7年間138症例の臨床的特徴―, 臨床微生物:27(3),168─176,2017.

2) Meehan, Brian M et al. “Inactivation of a single gene enables microaerobic growth of the obligate anaerobe Bacteroides fragilis.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America vol. 109,30 (2012): 12153-8. doi:10.1073/pnas.1203796109

3) LPSN.dsmz.de Species Bacteroides fragilis, Access: 20230228, URL:

https://lpsn.dsmz.de/species/bacteroides-fragilis

4) Patrick, Sheila. “A tale of two habitats: Bacteroides fragilis, a lethal pathogen and resident in the human gastrointestinal microbiome.” Microbiology (Reading, England) vol. 168,4 (2022): 10.1099/mic.0.001156. doi:10.1099/mic.0.001156

5) バクテロイデス フラジリス、菌の図鑑、ヤクルト中央研究所、Access: 20230228, URL:

https://institute.yakult.co.jp/bacteria/4267/

6) 浅井 信博, 三鴨 廣繁, VIII.嫌気性菌感染症, 日本内科学会雑誌, 2018, 107 巻, 11 号, p. 2282-2289.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/11/107_2282/_article/-char/ja/

7)Wu S, Rhee KJ, Albesiano E, Rabizadeh S, Wu X, Yen HR, Huso DL, Brancati FL, Wick E, McAllister F, Housseau F, Pardoll DM, Sears CL. A human colonic commensal promotes colon tumorigenesis via activation of T helper type 17 T cell responses. Nat Med. 2009 Sep;15(9):1016-22. doi: 10.1038/nm.2015. Epub 2009 Aug 23. PMID: 19701202; PMCID: PMC3034219.

8) Ramakrishna, Chandran et al. “Bacteroides fragilis polysaccharide A induces IL-10 secreting B and T cells that prevent viral encephalitis.” Nature communications vol. 10,1 2153. 14 May. 2019, doi:10.1038/s41467-019-09884-6

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